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6話 三日の猶予とトライアンドエラー

◇◇◇

 さほど離れていない距離なのに、さっきの町と違い活気のある街だった。

「その金はどこで手に入れたんだ?まさか現代から持ってきたわけじゃないんだろ?」


 天戸はマフラーで絨毯を畳みながらスカートを手で払う。

「うん。大体世界を救うお礼にって財宝を貰うから。悪いとは思うんだけど、実際無いと困るから」

 先立つものはやはり金だよな。……じゃあ一回目の時は、って聞こうとしてやめるが、その間が天戸は気に入らなかったらしくジトッとした目で俺を睨んでいる。


「なに?言いたいことがあるなら言ったら?」

 俺は首を横に振る。

「あぁ、何でもない。神に誓って」

 神なんざ信じてもいないから誓おうが破ろうが何も感じない。便利な言葉だ、多用することにしよう。


「どこかで金を交換してくれる所ないかしら?」

 通り沿いの店で金貨を手に乗せて天戸が聞くと、店主は天戸を上から下まで訝し気に見回す。まぁ、服装の感じから違うからな、しょうがない。逆に現代でファンタジーの格好をして同じ事やったらそうなるだろう。最悪警察を呼ばれる。


 店主は金貨を一枚受け取ると拡大鏡やらを使って鑑定らしいことをする。

「いくらになるの?」

「いい金貨だな。どこのだい?文字はわからんが細工もいい」

「いくらになるの?」

 店主の言葉には耳も貸さずに用件だけ連呼する。こいつの方がよっぽどコミュ障じゃないかとすら思う。


 店主は少し考えた後で片手を開いて5を示す。

「大奮発して5000キンズだな」

「わかった、じゃあそれ……」

 脳筋優等生が即決しようとしたので、割って入る。

「あー、待った!サンキュー、おっさん。他でも聞いてみるわ」

 急に俺が邪魔をしたと思いムッとした顔をする天戸。

「何のつもりなの、あなた」

「いやいや、あいみつくらい取ろうよ」


 俺の言葉に一歩引いて口元を隠す天戸。汚物を見るような目で俺を見てくる。

「……あいみつ?何その卑猥な言葉。嫌よ」

「そう思う人の頭がいやらしいんじゃないっすかねぇ。相見積もりの略だよ。他の店で聞いてみろって事」

「勉強はできないのに余計な事は知ってるのね」

「うるせぇな、こいつ」


「わかったよ、お嬢ちゃん可愛いからおまけして……、9000キンズだ」


 俺達のやり取りを聞いて店主は値上げをしてきた。あぁ、やっぱりな。

「あ、ほら。いきなり倍近くになった。おかしいだろ。よそ行くぞ」

「まぁ、待て。そうだな、もう少しよく見せてくれ。最近疲れ目でな、ははは……」

 

 店主は苦笑いをしつつモノクルをつけて真面目に鑑定を始める。

「ちなみに、この世界ってパン一ついくらです?」

「この世界……、あんたらもしかして異界の勇者ってやつかい?」

 店主は顔を上げて物珍し気に俺と天戸を見る。

「そうね」

 

 なるほど、異界の勇者ってのは市井にも伝わっている、と。


 パン一つは大体100キンズらしいので、円と同じ感覚でよさそうだ。

 結局、店主のおじさんは金貨1枚に10万キンズ付けてくれたので、とりあえず金貨4枚を換金してもらい俺たちは店を後にした。


◇◇◇

「ひどい強欲っぷり。絶対にハルに伝えるわ。きっと幻滅するんだから……」

 40万キンズの紙幣を手にした俺に、天戸は恨みがましく口をとがらせ不満をこぼす。

「ピーピーうるさい、お前よくそれで何百回も周回してるね。相当カモられてんぞ。言っておくけど全く騙してなんてないからな?どうせ買った額の3倍とかで売るんだから」


「3倍!?売るの!?」

 天戸はびっくりした顔をした。あれ?あぁ、こいつの家金持ちだからな。古本売りに行った事とか無いのか。あれも一種の社会勉強だよな。


「売るだろ。趣味で集めてるんじゃないんだから。自分の利益が出る金額で買い取る訳だろ。だから俺は悪い事はしてない。したとしたらあのおっさんの方だろ。最初何も知らないお前からゴミみたいな金額で買おうとしたんだから」


 天戸は真っ赤な顔で俺に何か言い返せる理由を探したようだったが、諦めたかと思うと急にしょんぼりし始めた。

「……私は間違ってたのかしら」

「めんどくさっ」

 思わず『めんどくさっ』と言いそうになったと思ったら声に出ていた。キッと天戸が睨んでいるのがわかるが気にしない。


「いくらか取り分くれよ。俺も買い物したい」

「……女にお金をせびろうっていうの?」

「言い方。本来俺の稼ぎだろ。お前の分は2万だけ。一枚5000キンズ」

「んっ!」


 その言い方がプライドを傷つけたのか、天戸は渡されたお金の全額を俺に渡してきた。もう返してやらない。

「あー、悪いな。遠慮なく貰っちゃうよ」

「ふん。どーぞ」

 

 そのまま通り沿いの店を眺めて買い物をする。食べ物や水が無いと死んでしまうからな。

「……ぼっちの癖にあんな交渉みたいな事できるのね」

「ん?そんな大それたことをしたつもりも無いけど。そもそも俺は1人でいるのが好きなだけでお前みたいにコミュ障じゃないし」

「コミュ障!?私が!?」


「だろうが。誰に対してもいい子でニコニコ。頼まれれば断らない。誰、それ?って感じだよ。そんなのコミュニケーションじゃねーよ。あぁ、もしかして器用に上手くやってる感じだったか?ごめんごめん。じゃあ教えてくれよ、誰と一番仲いいんだよ」


 天戸は涙目で俺を睨む。

「私の事を好きだから意地悪してるのね」

「何その超理論。何度も重ねて言うけど、お前に恋愛感情は無いしせめてパッド入れてから出直してきてくれ……ぐえっ」

 マフラーが俺の横腹を殴打する。


「……それは置いておいて。どうせ何もやって無いと思うから実験したいんだけど、収納貸して?」

「……変なの入れないでよ」


 俺は市場に並んでいる生きた鳥を掴む。

「これは?」

「ばか、今言ったでしょ?!」


「真面目な話なんだけど。この鳥は生きたまま持って帰れる?じゃあ鶏肉だったら?」

 天戸は少し困惑しながらも考える。

「……わかんない。食べ物は持って帰っちゃった事があるけど」

「生き物は、ないと。なら、人は?」


 天戸は幽霊か化け物を見るような目で俺を見る。

「……何を言ってるの?」

 まぁ、想定内だ。やはり、自分であの超収納を手に入れるしかないな。

「あはは、冗談冗談。天戸、ごはんにしようぜっ!」

「きも」





 


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