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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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61話 蘇る恐怖

◇◇◇


 夜の城下町を歩くジ・デスとアビ。


『死霊王』ジ・デスの悪名は城下町にも轟いているが、さすがに一般人に顔は割れていないようだ。


 もっとも、悪名で無く純粋に親族の蘇生を願う者も少なからず存在はするが、国と教会が禁止している以上公にする事は出来ない。


「いいねぇ、いいねぇ。賑やかだねぇ、アビ」


 アビもニコニコとジ・デスの横を歩く。


「そうだね、ジデス。私達の国もいつかこんな風になるといいね」


「うーん、そうだねぇ。それならこいつらに滅んでもらった方が手っ取り早くない?おかしなクソ蠅女呼んで来たりさ。罰として滅びをくれてやろうよ」


 口を膨らませてジ・デスの服を引っ張るアビ。


 ジ・デスの方が力が弱いので引っ張られてバランスを崩して少しふらついてしまう。


「それはだめよ、ジデス。どっちが正しいかじゃなくって、互いに認め合うことが肝要なのよ」


「もー、アビは優しいなぁ。アビがそう言わなかったらこんな蠅共とっくに滅ぼしてるよぉ」


 よそ見をしながら歩いていると大柄な酔っ払いと肩がぶつかる。


「痛ぇな!気を付けろや、殺すぞ!」


「あぇ?あー、はいはい。ごめんなさいねぇ。ほんとごめんごめん、これで勘弁してよ」


 そう言ってお札を一枚男に渡し、ペコペコと頭を下げてその場を立ち去る。


 少し歩いてアビはパチパチと拍手をする。


「ジデスすごいじゃない!絶対すぐ殺しちゃうと思った」


「ははは、アビの言う通り人は認め合うことが大事だからね。彼は酒で日々をごまかす事しかできない哀れで健気な肉体労働者で、僕はただのしがない超天才。あのくらいの施しは当然だよ」


「偉い偉い。でも、1万ゴールは渡し過ぎじゃない?」


 ジ・デスの頭を撫でながらもお金遣いに釘を刺す。


「そうだね、お釣り貰っとくよ」


 そう言うと指をパチンと鳴らす。


「アビ、教会に行こう。僕好きなんだよ、教会」


「は~い」


 少ししてジ・デスとぶつかった男の腹から大量の豚や牛が飛び出して、男は絶命する。


 城下の大通りの喧騒が悲鳴に変わる中で、二人は鼻歌交じりに教会の扉を開く。



◇◇◇


「悲鳴がした」


 夜の城下で立ち食い屋台のラーメンを食べていると、急に天戸はそう言い顔をあげた。


 俺には聞こえなかったが、天戸が言うならきっとそうなのだろう。


 天戸は箸を置くと丼を両手で持ちスープを飲む。


「行こう、ほら。早く」


 急かされるままに買ったばかりの財布から代金を払い店を後にする。


「ごちそうさま、おいしかったわ」


 満腹な為かニッコリと満面の笑みを店主にプレゼントして店を後にする。


 天戸は人混みを物ともせずに通りを走り抜ける。


 一応俺がついてこれる速度で走ってくれているようで、息を切らせながらなんとか後に続く。


 中央通りの教会近くに人だかりが出来ているが、衛兵たちが野次馬を近づけないように囲っている。


 天戸の姿を見るとすぐに囲いの中に入れてくれた。異界の勇者の御威光だ。


 中に入りゾッとした。


 ガタイのいい大柄な男の腹が破裂したようになって絶命している。


「……説明して」


 天戸は衛兵ではなく、俺を見てそう言った。


 相変わらず無茶振りをしやがる、と思ったが真面目な天戸には真面目に返してやらないと男が廃るというやつだ。おっと、男女平等たる俺の主義に反する。人が廃ると言うものだ。人が廃ると廃人か。一人内心クスリとする。


「あいつがやったと仮定すると、恐らく胃の内容物の蘇生だと思う。市中で野生動物の目撃は?」


 俺の問いに衛兵は頷く。


「牛や豚の死骸がそこに……」


 衛兵の視線の先には肉が付ききっていないゾンビのような獣が死んでいる。


 遺体に手を合わせて目を瞑る天戸に対して説明を補足する。


「墓場で見せた範囲蘇生。あれだけの死体が居て欠損した死体はいなかったし、実際ウラーユも全身完全蘇生だっただろ。部分からの全体蘇生が出来ると推測される。肉ってのは当然元は生き物だ。腹の中でいきなり牛が生まれたら……こうならねぇ?」


 天戸は目を開けると腕を組んで俺を見る。


「随分ろくでもない事考えるのね」


「……まさか俺に言ってないよな?」


「褒めてるのよ」


「やっぱり俺かよ」


 天戸は神経を巡らせて周囲を見る。


「私は平気だと思うけど、あなたさっきチャーシュー食べてたわね」


 ゾクリとした。


 自分の腹から豚が飛び出してくる想像をしてしまった。


 全方位視界とは言え当然顔と目を向けた方が知覚できるようで、何度かキョロキョロした後で天戸の視線は定まる。


 ――視線の先には教会がある。


「どのくらいの範囲まで有効なのかわからないけれど、できるだけ人を離して。杜居君は……」


「行くぞ」


 天戸は少し驚いた顔で俺を見て少し笑った。


「わかってるの?……チャーシューの材料は豚肉よ?」


「わかってるっつの。まぁ、どうにかなるだろ」


「大丈夫。私が守るわ」


「いや、結構」


 そう言って先に教会の扉に手を掛けると、天戸は慌てて俺を止めようとしたがお構いなしに扉を開ける。


 

 教会の聖堂に入ると、中央に二人だけが立っていた。


 両手に短刀を持ち、血で濡れたアビが入り口の俺達に気が付く。


「ジデス、来ちゃったよ。あの子」


「あぁ、そう。まぁ、都合いいかぁ。……ところで、晩御飯はもう食べたかい?」


 ジ・デスが俺達に向けて蘇生魔法を使おうとした瞬間、かざした彼の左手を久しぶりの光の剣が襲う。


「千剣」


 光の剣とほぼ同時に教会の扉や、窓枠や、床など様々な所に用いられている木材が巨大な樹木になると、聖堂を突き破り四方八方へと勢いよく伸びる。


 そして樹々の隙間から、簡易蘇生された教会関係者がゾンビの様に二人に襲い掛かる。樹木によりダメージを受けているが勿論お構いなしだ。


「杜居君!」


 俺は危うく串刺しにされそうだったが間一髪難を逃れた。右か左に動いていたら胴体に風穴が空いていただろう。情けなくも反応できなかったことが功を奏した。


「植物も蘇生の対象なのかよ。何でもありだな」


「ははは、植物に命は無いとでも思ってるのか?どれだけ程度が低いんだよ、異界ってのはさ」


「黙って」


 今日の天戸はマフラーをメインで使わない。


 手をかざす、或いは目線だけで光の剣を相手に降り注がせる『千剣』を使っている。


 声の聞こえた方向を千剣で殲滅して、周囲と俺の警戒にマフラーを使っている。


 吹き飛ぶ樹木の破片と、土埃の中で鈍い金属の光。


 アビが短刀を両手に持ち、俺を狙っている。


 速い。


 前回よりも。


 だが、天戸の剣はそれよりも速い。


 アビの身体にハリネズミの様に無数の光の剣が突き刺さる。


「ああっ……!」


 恐らく急所を外して動きだけ止めるようにしているのだろう、これだけの数を刺しながら。


「売女があぁぁぁぁぁぁ!僕のアビに触るなぁぁあ!」


 激高した死霊王ジ・デスの叫び声で天戸は居場所を覚知して剣を飛ばす。


 だが、樹木がまるで意思を持つ触手の様にうごめき俺と天戸を襲う。


「すげぇな……。あー、ゾンビ操ってるのと同じか」


「今は説明求めてないわ。あー、もうめんどくさい」


 そう言いながら天戸に少し疲労の色が浮かぶ。


 恐らく……と言うか、ほぼ確実に戦乙女の襟巻き(ヴァルキリーマフラー)よりもはるかに燃費が悪いのだろう。これだけ便利で殲滅能力の高い千剣を普段使いしない理由の一つなのだろう。


 ほぼ無限に生え続ける樹木と千剣のいたちごっこだ。


 それにしても……これだけ無尽蔵にできるものなのか?才能の器が違うって言われたらそれまでなんだけど、俺なんて最初虫一匹で昏倒しかけたのに。


 少しの間の後、樹木の影から不意にジ・デスが飛び出してきた。


「グラァァァァァァァァ!アァァァァビィィィィィ!」


「ジデス!」


 言葉にならないような叫びの中で『アビ』とだけは聞き取れた。天戸はほんの一瞬だけ同情するような表情を浮かべたのち千剣で串刺しにした。


 その瞬間、俺は気づいた。


 漠然とした言い方だが、串刺しになったジ・デスの目に狂気が無い。


 ――偽物?!


「天戸!」


 樹木に混ざって観葉植物か何かの蔓が俺を捕まえて、奥へと一瞬で引っ張る。


「はははっ、漸く一匹捕まえた」


 ジ・デスの耳が一つ無い。


 理解した、耳を使って部分蘇生?したのだ。


「さぁて、君の晩御飯は何かなぁ?……まろび出ろ」


 ジ・デスは俺に向けて蘇生魔法を放った。








 

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