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5話 脱線

5話 脱線

◇◇◇

「絶対にハルに言うわ。絶対嫌われるんだから」


 さっきの抱擁についてまだプンプン怒っているようだ。


「さっきも言ったと思うけど、俺は貧乳には興味と関心が持てないんだ。むしろ謝ってほしいとすら感じているのだが」

 これが火に油というやつだろう。天戸はプンスカ怒る。


「はぁー?!どの口がそんな事言ってるの、このぼっちは」

「あぁ、すいませんね。学校のアイドル、男子生徒憧れの的の天戸うずめさんにご無礼働いちゃって」


 更に煽ったつもりの俺の謝罪に何故か天戸はシュンとしてしまう。


「私はハルの真似してるだけだもの、所詮偽者よ」

 ハルを死なせてしまったとの加害妄想と罪悪感から、大分美化されたハル像を演じているつもりなのだろう。馬鹿なやつだ。馬鹿というか、要領が悪い。


「中身は知らんが、顔は真似じゃないだろ。『顔は』かなりかわいいと思うぞ」

 俺がそう言うと天戸はプイっとそっぽを向く。

「当たり前。生意気よ、ばか」

 うおぉ、フォローのし甲斐がないな、こいつ。


「もう朝ね。行きましょ。救う条件を探らないと」

「ういーっす」


『……ハルは胸が大きかったわ』と、町までの道すがら唐突に天戸は呟いた。


「あっ、それ!ノートにも書いてあったけどなんだよそれ!?ガキだったしそんなでもなかっただろ!?」

 露骨な食いつきに若干引きながらも説明をしてくれる。

「書いてなかった?7回目、8年掛かってるの。その分身体も成長するのよ、……18歳くらい?現代に戻れば戻るんだけどね。ふふ、実は写真あるよ」


「えっと、それは土下座すれば見せてもらえるもの?」

「私のもあるけど」

「あー、それはいい」

「ばぁか」


◇◇◇

 町は余り活気はなかった。文明レベルはあまり高そうでない。

「誰が困ってんのかな?」


 天戸は見渡して呟く。

「そうね、この感じだと領主の圧政パターンだと思うけど」

「あ、そう。パターンとかあんのね」


 天戸は安心したようにため息をつく。

「……よかった。またすぐ終わりそう」

 俺は割と強く天戸の頭をチョップしようとしたが、全方位視界の化け物はマフラーで俺の手を絡みとる。


「いででででで!離せ!」

「……何のつもり?」


「何のつもり?じゃねぇよ。一発叩かせろ。再起動が必要だ」

「嫌よ。何でそんな事させなきゃならないの」

 俺は腕を後方に捻られて、犯罪者のように制圧される。

 痛いが、正直それどころではない。

「あほか。殺せば終わりって思っただろ?そんな雑な解決で誰が救われるんだよ!」


 俺がそう言うと、マフラーが少し緩む。

「私が間違ってるって言いたいの?」

 その表情は怒りと言うよりも、戸惑いか?恐れか?俺は首を横に振る。

「そうは言ってない。答えを出すのが早すぎるんじゃねぇ?って話だよ。テストの時ならどうする?時間いっぱい考えないか?最後まで見直ししないか?」


 天戸は悔しそうに俺を睨む。

「自分は終わったらすぐ眠る癖に」

 俺は笑う。

「まぁ、それはそれ。ちょっと俺に任せてみてくれ。殺すのは最後でいいし、やるなら俺がやる」


 天戸は渋々ながらも納得したようだった。

 思考を停止するしかなかったのだろう、と思った。ただ、考えることが天戸にとっての正解なのかどうか……まぁ、やってみるしかないな。


「ところで魔法とかは無いのか?」

「ん、あるけど私は使えないわ」

「……脳筋」

「うっさい」

 見た感じは魔法使いとか似合いそうなのにな。

『ハルは使えたわ』と、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。


 ――俺たちの間には、いつだってハルがいた。


 町の人に聞き取りを行ったところ、やはり領主の圧政と少女の略取が町の困り事らしかった。


 天戸は、マフラーを椅子のようにして、腕を組んで座る。

「で、どうするの?武力を盾に脅す?」


 俺は天戸をチラッと見てわざとらしくため息をつく。

「脳筋作戦はもう少し待ってくれませんかね?お前本当に頭いいのか?」


 少し落ち込んだように口を尖らせる天戸。

「……しょうがないでしょ。いっぱい勉強しただけであって、元々頭が良い訳じゃないんだから」


「あー、嘘嘘。天戸が頑張ってるのはずっと視界には入ってたから知ってる」


 俺は頭をひねる。んー、どうするかな。発想の転換だ。

「天戸はRPGってやる?」

「ゲーム?一人ではやらないけど」

「俺ガキの頃は低レベルのスピードクリアを美徳としてたんだけど、だんだん趣向が変わってきてさ」


 天戸は呆れ顔。

「必要な会話?」

「必要だよ。仮に不要だとしても聞いとけよ、まぁ、提案だけど……別の町行こうぜ」

「えっ、何で?」

「まだ救わなくてもいいだろ」


 天戸は首を傾げて頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。

「困ってはいるだろうけど、即座に生死に関わる訳じゃない。少しほっとこう、俺達は神じゃない。と言うか、神だって全ては救っていないだろ」


 現実での時間も進まないんだったら色々探った方が間違い無く得策だと思うんだけどな。ただ、余り今までの天戸を否定すると『ハルは死ななくて済んだんじゃ?』とか思われるとイヤだな。


「じゃあ、別行動でもいいぞ。天戸は天戸で殺さない方向なら好きにやっていい。俺も勝手に動いてるから」

「野垂れ死なれたら寝覚め悪いからやだ」


「じゃあついて来いよ」

「三日だけね」

「オッケー。じゃあ三日で脳筋プレイに移行しよう」

「ばかにすんな」


◇◇◇

 魔法の絨毯の上で天戸の所持品をいろいろ見せて貰う。

「魔法ってのはどの世界でもだいたい使えるの?」

「みたいね。ハルも現実(あっち)でネコを治したりしてたから」

「……俺だけ仲間外れにすんなよ」


 取りあえず、大きめの町を目指す。金を換金して物資を買おう。この世界にしかないような物があれば買っておく。

 ゲームでも全アイテムコンプする派だ。エリクサーだって結局最後まで使わない。


 天戸を救うアイディアはまだ浮かばない。とにかくトライアンドエラーだ。天戸の荒い運転で、魔法の絨毯は次の街に着いた。

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