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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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40話 異界の異界の勇者

◇◇◇


「ちわっす、異界の勇者っす。何かお困りっすか?」


「……そのノリ止めてよ」


 天戸は恥ずかしそうに俺から距離を置く。


 教会の中では一般の礼拝者も数人いるが、シスターが俺に近寄り小声で裏へと促される。


 チラッと天戸を見ると、コクリと頷くのでそのまま促されるまま裏口に向かう。罠でも何でも臨むところ、と言うことだろう。



 礼拝堂とは別の教会関係者しか入れない場所へ案内される。


 年季の入ってそうな扉をシスターがゆっくり4回ノックする。何かの符丁なのか、マナーなのかはよくわからない。


 天戸はポケットに手を入れ、自然体ながらも警戒は怠らない。逆に言うと、警戒をする事が自然体なのだろう。すごい事だとも思うし、悲しい事だとも思う。


 全方位視界に超怪力と常時警戒か。夜道で痴漢被害にあう心配をしなくてもいいのはよかったね。君が痴漢被害にあうかどうかは別として。


 一人で納得して頷いている俺を白い目で見る天戸うずめさん。


「……また何か失礼な事考えてるでしょ?」


 思わずギクリとした。相手は表情からも全てを読み取るサトリのような化け物なのだ。


「まぁ、ね。シスターっていいよな……って」


「本当に最低よね」


 シスターさんも苦笑いをしているが、シスターへの好感度と引換えに身の安全を確保した隠れたファインプレーだと一人で満足した。



 そんなどうでもいいやり取りをよそに、扉の向こうには明らかに教会のお偉いさんが座っていた。シスターが役職とか説明してくれるが、偉いのか偉くないのかはわからない。


 大司祭と称されたその老人は俺達に疑いの目を向けて問いかける。


「貴公らは異世界より現れた勇者と言う認識で相違ないですな?」


 ここ最近は天戸に代わって俺が問答をするパターンが多い。元々天戸は人付き合いが好きではないのだろう。何より機転が利かない。


「一つ訂正するなら、勇者ってのは周りが勝手に呼び始めたんだ。ここじゃない世界から()ばれて、この世界を救いに来たってのが一番しっくり来るかな。伝わりやすいから便宜上勇者って名乗っちゃってますけどね」


 俺の答えは大司祭様の期待する答えに沿うものだったのかはわからないが、大司祭のおじいさんは少し考えてからもう一つ質問をする。


「……世界を救うとの言葉に相違はありませんな?」


 天戸は腕を組んで壁に寄りかかったまま、ジッと司祭を見ている。仔細に司祭を見る。クソつまんねぇ。


「そのつもりで呼ばれてきたんだけど、お邪魔なら帰りますよ。割とすぐ帰れるみたいだし。な、天戸」


 天戸は腕を組んで壁に寄りかかったまま、無言でコクリと頷く。何と言う強キャラ感。そういえば、その帰還術って何かリスクやデメリットはあるのかな?後で聞いてみよう。


 司祭さんは少し慌てて俺達を引き止める。


「おっ……お待ち下さい!世界を……お救いください!」


 俺はヘラヘラ笑って司祭様を安心させた……つもりだ。


「そのつもりっすけど。話聞こうか」


 後ろで天戸がボソリと『偉そう』と言ったのを聞き逃さなかった。


◇◇◇


 かつてこの世界を危機に陥れたと言う金色(こんじき)の鬼。


 その体躯は山ほども大きく、その膂力(りょりょく)は山をも砕くと言い、小国を1日で滅ぼし世界を混沌に陥れたと言う。


 何故比較が山基準なのかと疑問は浮かんだが、それは置いておく。


 聞いていると別にめんどくさそうな事は無いと思うのだが。倒せば終わりだろう。


 だが、司祭の話には続きがあった。


「金色の鬼は……今は『白き闇』と言う一団の配下として各国に睨みを利かせています」


 あ、まさか。


 俺は手を挙げて司祭に発言をする。


「あの~、わかっちゃったよ俺」


 俺が苦笑いでそう言うと、司祭は『わかってくれますか?』とでとも言う表情で頷いた。


「……重ねて、無礼をお詫びします。異界の勇者とは言え、手放しに喜べなかったのです」


 天戸はきょとんとした顔で口を挟む。


「え、おわり?何か話飛ばしてない?」


「飛ばしてないよ。その白き闇さんが異界の勇者なんだろうよ」


「え?そんな事言った?」


 言ってはいないけどね。司祭さんも頷いている。


 天戸は大きくため息を吐く。


「そう……、そう言うパターンもあるの。メリットは?」


「いやいや、寧ろお前の方がメリットねーから」


 俺の言葉に天戸はムッとする。


「人助けはメリットデメリットの話じゃないわ」


 俺は天戸を指差して司祭さんを見る。


「聞きました?こういうやつなんすよ、安心しました?……いでででで」


 マフラーが俺の人差し指をねじ曲げようとしている。


「人を指ささないで」



◇◇◇


 天戸の言葉が決め手となって司祭は俺達を信用してくれたようだった。


 宝物庫に案内されて、いくつか持っていっていいと好意を受けた。


 天戸はまだ納得がいかない様子で、宝物を眺めながら口を開く。


「ねぇ、何のメリットがあるのよ」


 すごい装飾の付いた宝剣を鞘から抜いてみる。シスターの説明によると、只の宝剣なので、特別な効果は無いが、美術価値は高いとのことだ。


「実際メリット尽くしだろ。ほとんど不老不死みたいなものだし、成長し放題宝集め放題なんだから」


 天戸は完全に手が止まり、と言うか腕を組んで俺への質問を続ける。


「何で不老不死なの?こっちの世界でも歳は取るわ」


「うん、でも戻れば次の日だろ?極論100歳くらいで寿命で死ぬ前の日に帰還すれば、また15歳だろ?」


 天戸は眉を寄せて質問を続ける。


「それはわかるわ」


 思わず頭悪いなって言いそうになってギリギリ留める。


「身体は若返るけどそれ以外の全ては持ち越しできるんだぞ?んで、現実でもそれらは使える。あー……、物品は天戸の収納術があればの話だけど」


 やっと国語5の天戸さんは納得してくれた。


「なるほど、勝てないから現地で暮らす以外にもそういう選択肢もあるのね。ほんと、よく悪知恵ばかり回るわねあなた達」


 あれ?今何で俺複数形になったの?


 それはさておき、8回目の世界の『魔王』ってのも『元異界の勇者』なんじゃないかと思っている。


 滅竜と関係があるかどうかは分からないが、天戸もハルも勝てない位の力を持った存在がたった100年前には噂一つも存在しないとは考えづらい。


 だとすると、転移点が分かっていたことの説明になる。


 もしかすると、教会を残しているのは……。


「杜居くん」


 考え事をしていると天戸が俺を呼ぶ。


 ここだけの話、天戸に呼ばれる『杜居くん』の響きは悪くない。


「一つ実証できたね。異界の勇者は1人じゃない」


 天戸は泣きそうな顔で笑った。


 それは、俺達とハルがまた会うためのか細い可能性の糸。


 

 だけど、俺は……もしかすると天戸にも、一つの不安が生まれてしまったかもしれない。




 ――もし、ハルと同じ世界に行けたら、現実に戻ることを選べるだろうか?

 

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