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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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30話 勇者天戸の冒険③

◇◇◇

「……うわぁ、これはエロいね」



 私とハルは18歳の写真を見て顔を赤らめる。


 あっちの世界では自分の身体だったから特に何も思わなかったけれど、いざ小五に戻ってから見てみると……、何だろう。ハルは顔を赤らめて恥ずかしそうに私を見た。


「これは流石に見せられないよねぇ……」

「そうだね。5年は早いね……」


 お風呂で撮った写真や着替え中の写真など、本当に色々写真を撮りまくったのだ。誰かに見せる前提ではなくて、二人の旅の記録だ。いつか終わる、この終わりなき旅の記録。


 放課後はいつも通り3人で遊ぶ。毎日何をするでもなく、集まってそれぞれに遊んだり、話したり。ただそれだけでよかった。


 ハルが杜居君を好きなのは、あまりそういう事柄に敏感で無い私でも知っていた。……ハルは可愛くて、明るくて、頭がいいし、何より優しい。


 私は、私と別れてから見送る二人の姿が……好きだった。


 そして、たまに嫌な気持ちになる理由も本当は知っていた。口に出すことなど一生無いけれど。


 杜居君もハルの事を好きなのではないか?と思う。……と言うか、ハルを好きな男子は多い。競争率は高いけど、既に予約で埋まっているのか。みんな可哀そうにね、ふふ。


 杜居君が買った新商品のアイスをジッと見ているハル。


「伊織、一口ちょうだい。こないだ半分あげたじゃん」


 確かに、トータルで見るとハルがあげている方がはるかに多い。


 杜居君は『しょうがねぇな』と言いながら袋を開けてハルに渡す。


「ん、おいし~。うーちゃんもいる?」


「おい、勝手にあげんな。俺の分無くなるだろ」


 私が無言で口を開けるとハルはアイスを口に入れてくれた。


「うん、おいしい。ハルも食べな?」


「おい」


「あはは、私は最初の一口だけで充分だよ。ほら、後は伊織食べなよ」


「だから俺のだ」


「冬に食べるアイスって何でこんなにおいしいんだろうねぇ」


 ハルはニコニコしてそう言った。


「夏に食べるアイスもうまいけどな」


「春も秋もアイスはおいしいわ」


 ハルは困った顔で首を捻る。


「……要するに、アイスはおいしい……って事?」

「だろ」

「ね」



 帰り道、ちょっと我儘を言って道を変えた。


「遠回りになるじゃねーかよ。思い付きで発言するなよな」


 1人だけブーブー文句を垂れる少年がいたけれど、私とハルは同意しているので多数決で決まった。


「明日漫画返せよな。天戸も読みたきゃ次貸してやるよ」

「はーい、また明日!」

「……いや、マジで返せよ?話聞いてる?」

「また明日」


 杜居君を送って、次はハルの家。


「頑張ろうね」


 玄関の前でハルは手を差し出す。


「うん」


 私もハルの手を握る。


 そして、最後は私一人。


 あ、寂しいな。


 いつも見送る私だけが寂しいんだと思っていたけれど、最後に1人で歩く方が寂しい事を初めて知った。


 ハルが真ん中でよかった。ハルに寂しい思いはさせたくないから。


 晩御飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る。


 もう大丈夫。


 これは、悪夢なんかじゃない。



 ハルと一緒なら――。


◇◇◇

 

 目が覚めると、山と街が見える平野にいた。


 8回目ともなると、いくつかのパターンがある事はわかっていたので、特に慌てる事は無かったが、初めてこのパターンだった時は少し慌てた。何をどうしていいのかわからないからだ。


 少ししてハルが現れた。


 いつものように可愛らしいパジャマ姿であくびをしているのを見て少し笑う。


「おはよ」


「おっはよ~」


 ハルと私の3回目の転移。


 街で買い出しと情報収集をしている私達の元へ1人の若い男が近づいてきた。


「異界の勇者様ですね?……どうぞ、私達を……世界をお救い下さい」


 数人のお供を連れた、身分の高そうな長身の男性。やや褐色の肌と紫がかった髪で整った顔立ちだ。



 ――もし、あなたがここに居たなら、『これは罠だ』と看破してくれただろうか?



 街は活気に溢れていて、脅威が迫っているような感じはしなかった。だが、例えば魔王が侵略している世界で全ての街が絶望に打ちひしがれているかと言えばそんな事は無い。ゲームでもきっとそうだろう。


「あなたは?」


 一応周囲を警戒しながらハルは男性に問うと、男性はしまったと言う顔をした後膝をつき、頭を下げた。


「たたた大変失礼をいたしました。そうですよね、名乗るの忘れていました!ご無礼を!……僕はジラークと申しまして、この辺りの領主をやっています。いやいや、驚きましたよ……たまたま教会の視察に来ていたら伝説に聞く『異界の勇者様』が現れたと聞いて飛んでやって来たんです」


 この時点でハルの魔法は100年に1人の逸材とも呼ばれる実力だったし、私も単純な戦闘に置いては少しだけ自信はあった。


「教えてください、この世界に迫る脅威の事を」


 立ち話もなんですから、と街で一番のレストランへ案内された。


 この世界は『魔王』により侵略されつつあるらしい。魔王は城を持たず、市井(しせい)に紛れ、少しずつ人々の魂を負の方向へと誘導しているそうだ。



「……ずいぶん遠回りな侵略ね」


「具体的には?魂を負の方向って何をどうするんです?」


 ジラークは眉を寄せる。


「……教会はご覧になりました?」


「いえ、まだ。来たばかりなので」


 教会の荒廃、偶像の破壊、神の不信心。『そんな事か』と思うような事だが、それが実際に世界の脅威になっているのなら、時間は掛かるが的を射た作戦なのではないか?


 それらの行動は魔物で無く人間が行っているらしい。人間を扇動する根本に『魔王』がいるのだとか。


「どうしたもんだろうねぇ」


 ハルは差し出されたトロピカルジュースを飲みながら頬杖をつく。


 正直に言って、ハルに思い浮かばないものを私が思いつくとは到底思えない。


「少し街を見ていいですか?」


「勿論です。護衛は要りますか?」


 ジラークがそう言うと、ハルは笑って手を横に振った。


「あはは、大丈夫。私達超強いから」



◇◇◇



 パシャリと写真を撮る。


 街角で、現代でもいつも行っているように。


 基本は私が、たまにハルがカメラを持ち写真を撮る。


「倒すべき敵がはっきりしないのってなんか気持ち悪いね」


 カメラを構えながらハルはそう言った。


「……そうね。いつもは大体大人しく城にいてくれるものね」


 適当な街の人に声を掛けて二人の写真も撮ってもらう。最初は困惑するが、使い方も簡単なのですぐ撮ってくれる。『異界の勇者』の『魔導具』って言えば大体納得してくれる。



 ハルは写真を見て満足そうに笑う。


「へへ、可愛く撮れた。いつか伊織にも見せたいね」


「……ハルが良ければ別に見せてもいいけど」


 私がそう言うと、ハルはニヤッと悪そうに笑った。


「オッケ~。それじゃ、とびっきり可愛いの撮っちゃおうか」


「えっ!?何で私?!」



 私達は、二人いれば何にだって立ち向かえると思っていた。



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