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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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26話 ハルの生きている世界を

◇◇◇

『私達で魔王を倒す』

 

『私が』で無く、『私達で』と天戸は言った。


 急に眼から液体を流した俺を天戸は怪訝な顔で見た後で少し笑った。

「……何で泣くのよ」


 涙を袖で拭いながら我に返る。……もしかして、私達って天戸とハルの事じゃないのか?くそ恥ずかしい勘違いだな。

「いや、何でもない。ただの勘違いだった」


 天戸はジッと俺の目を見て笑う。

「いえ?勘違いじゃないわ。私とあなたで、と言う意味よ」

「何で考えてることわかるんだよ!?」


「そのくらいわかるわ、ずっと一緒だったんだもの」

「……そういうもんですかね」


 そう言うものよ、と天戸はまた笑う。


 あと何回、何十回、何百回世界を救い続ければその時が来るのかはわからない。或いは、その時なんて来ないのかもしれない。


 それでも、無限に世界を救い続ける天戸には目的が出来た。


 ツァルトラド歴205年、ダダリオン大陸――。


◇◇◇

 教会の召喚者によると、この世界の脅威は雷神王を名乗る神だか王だかわからない存在だそうだ。


 色々と今後の計画を話しながら移動したいので、のんびりと馬車で移動することにした。一番近い大都市迄。


「魔王を倒せばハルはどうなるのかな?」

「全部仮定だから何とも言えないけど、その世界のハルは死なないんじゃないか?」


 天戸は首を捻る。

「……その世界の、ハルか。うん。それだけでも十分!」

 

 なんだかややこしいね、と天戸は笑った。


「俺達の身体は何なんだろうな?本体では無いのは確かなんだけど。試すと怒るからやらないけど、その収納に入ったまま帰還した場合どうなるのかは永遠の課題だよな」


「そんな危ないことさせるわけ無いでしょ?」


 だよな。そうなる。こっちの世界の人間を入れた場合は、恐らくあっちに行ける。だが、俺達のような召還者の場合は?


「……ハルもダメよ」

 俺の機先を制して天戸は言った。

「分かってるよ」


 ハルの生きている未来を作りたい。それが『俺達の』着地点になった。


えーっと、何だっけ脅威。雷神王だ。

「雷様はどこにいるんだ?まさか空じゃないだろうな」

「空みたいよ?厳密には空に一番近い城だとかって」


 あぁ、そうか。そりゃ面倒くさいな。


 でも、面倒くさいだけだ。言い方は悪いけど、潰そうとした虫が天井にいる、只それだけだ。


 ――雷神王を名乗る悪い魔法使いは、いつも通り勇者天戸によって瞬殺されて断末魔を上げた。


「お疲れ様、終わったわ。何を試す?」

 俺は驚いた。まさか天戸から何か提案されると思わなかった。


「あ……あぁ。スマホの時計を手動に切り替えて、取り出すのは俺の家に来てからにしてくれ」

 天戸はクスリと笑った。

「ご飯食べないで行くわね」


 天戸は収納をあけてスマホを操作する。もう約350回転移を行っているので、この帰還準備期間の長さも熟知しているようだ。


 当然俺も数えているので知っているが。126秒。光り始めて126秒で目が覚めるんだ。


◇◇◇

 目が覚める。


 スマホを見ても天戸からのメッセージは無い。自分で言っておいてなんだけど、少し不安になるな。


 時計を見ると時刻は6時30分。アラームどおりに起きてしまった。いつも生存確認メッセージは6時頃来ているので、天戸はいつも6時に起きているのだろう。


 トイレに行き、部屋に戻る途中でふと思いつき玄関に向かう。


 ドアチェーンを外してゆっくりと扉を開けると、案の定天戸が制服姿でしゃがんでいた。

「おはよ」

「おはようさん。来るのはえーよ」


 俺の苦言が届いているのかどうか知らないが、天戸はスカートを払いながら少し笑う。

「あなたが来いって言ったんでしょ?上がっても平気?」


「まだ朝飯できてないぞ」

「部屋で待つから平気よ」


「母さんに見つかるとうるさいからコッソリ上がって来いよ。靴も持って来い」

「へぇ、親に内緒で女の子を部屋に連れ込むんだ?」

 天戸は含みありげに笑うが、ちっとも面白くない。


「お前を女の子にカウントはしていない」

 階段の下から背中を軽く叩かれる。


「痛ぇよ。そうだろ?お前とハルは特別枠じゃねぇか」

「あ、そう」

 表情はわからなかったが、短く天戸は答えた。全方位視界なら後ろの人の顔も見られるって事か。すげぇな。化け物だよ。


 部屋に入り、ベッドに腰掛ける。天戸は俺の机の椅子に座る。

「スマホ出していい?」


「あぁ。分岐は2つだ。①ストップウォッチの表示は2分以内②それ以上」


 天戸は腕を組んで俺を見る。さすがに足は組んでいない。

「①と②の違いまで言ってよ」


「①ならお前が開けるまで中の空間はこっちと繋がっていない。②ならお前が戻ってきた時点で繋がっているって事。ま、正直それがわかったから今どうだって話じゃないけど、知れるなら知っておいたほうがいいだろ?」


 天戸はしきりに頷いた。

「良く考えるわね。どうして勉強はできないの?」


 一言多いんだよ、素直に褒めろよ。

「あぁ、スマホ取り出せよ。安否確認メッセージが来ないとどうも落ち着かない」


「ふふ、変なの。もう会ってるじゃん」

 天戸はスマホを取り出す。

 ――ストップウォッチの表示は57秒。


 天戸が起きてから……こっちの世界に帰還してから40分以上経っていると言うのに、だ。


 つまり、天戸が収納を開けるまで中は別の空間……次元?だったわけだ。

 

 思わず身震いした。何なんだよ、その超技術は。

「何かわかった?」

 他人事のように天戸は首を傾げる。

「あぁ、計り知れない事がわかった」


「何よ、それ。バカにしてる?」


 何か反論をしようとしたその時、俺の部屋の扉がガラっと開いた。

「伊織、いつまで……うわっ!うずめちゃん!?あらもー、ごめんなさいねぇ、お邪魔しちゃって……」


 母は少し照れて目を逸らしながら扉を閉めようとする。

「母さん、違うぞ。そういうのじゃない。こいつはモーニングを食べに来ただけだ」


「シャワー……使う?」

「やかましいわ!余計な気回さなくて良いよ!」


 あぁ、思慮が浅かった。何故朝からこんな不毛なやりとりをしなければならないのか……。


「うずめちゃん目玉焼きどうする?」

「あっ、半熟が好きです」


 天戸は振り返り微笑んだ。

「置いてくよ?」


「置いていくなよ、俺の家だ」

「あなたの親の家、ね」

「こまけぇことはいいんだよ……」


 

 

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