24話 下駄箱にラブレター
◇◇◇
「伊織くん、おっはよ~」
登校中に急に背中をバンと叩かれて、誰かと思ったらクラスメイトの淡島瑞奈だった。明るく元気な巨乳女子高生。
小学校の時に同じクラスだったこともあるらしいが、全く記憶には無い。最近妙に絡んでくる事が多い。
「おはよ、瑞奈」
にっこりと柔らかな笑顔を湛える我らが脳筋天戸うずめさんは仮面の付け替えがうまい。歌舞伎役者もびっくりの早替わりだ。
「うずめおっはよ~!」
淡島は天戸の腕に抱きつくと、上目遣いに天戸を見る。
「うずめ、見たよ見たよ~。伊織くんの家から出てきたでしょ?!まさかまさかぁ?お・と・ま・り?」
「ちょっと止めてよ、瑞奈。杜居君に迷惑でしょ?お母さんから杜居君のおばさんに届け物があっただけなんだから」
少し照れたようにはにかんだ顔で淡島の邪推を否定する天戸。すげぇな、俺が同じ事を言っても『黙れ』で終わりだろうな。
黙ってヘッドフォンをつけようとした俺を制止する天戸。
「ちょっと!杜居君も何か言ってよ!」
おぉ、何か新鮮だな。仮面云々言っといてなんだけど、これはこれで悪くない。
「淡島、学校のアイドル天戸さんと俺がそういう関係になるはずないだろ?天戸さんはうちの朝ごはんを食べに来ただけだ」
「えっ!?朝ごはんを!?何で?!」
俺は呆れ顔で首を横に振る。
「さぁね。たまには庶民の味が恋しいんじゃないか?俺に聞かないでくれよ」
淡島は目をきらきらさせて天戸を見る。
「へぇ~」
何か根本的な勘違いをしているようだが、説明できることでもないしまぁしょうがない。
天戸の方からよからぬ気配を感じるが気付かない振りをしよう。
「いいなぁ、ずるい。幼馴染っていいね!」
淡島はキラキラとした目で俺と天戸に言った。
天戸はクスリと柔らかく微笑んだ。
「……そうね」
その顔は仮面じゃないように感じた。
◇◇◇
登校すると、下駄箱に何かが入っていた。
――あれ?マジ?
心臓が高鳴る。手紙?!マジで!?
反射的にチラッと天戸を見てしまう。天戸はこっちを見ていない。
教室に入る前にトイレに行く振りをして内容を確認する。
『放課後、校舎裏に来てください』と、可愛い文字で書いてある宛名の無い手紙だった。いやいや、絶対罠だよ。罠。でなければ罰ゲーム。絶対。確実。99.9%
……でも、まさかの0・1%があるかもしれないよな?
ピロン、とメッセージが鳴る。
『いい子だといいね』
ギクリとした。いや、何故ギクリとしたのか自分でも分からないが。そうだ、天戸は全方位視界を持っているのだ。馬よりすごい。
『いやいや絶対嘘か罰ゲームだろ』
言われる前に自虐的なメッセージを送るが、予想しない返信が帰ってきた。
『そうとも限らないよ』
どういう意味だ?返信に困るな。
まぁ、いいか。ほっとこう。
そして、ウキウキした気分と不安が入り交じった気持ちで放課後を迎える。緊張で吐きそうだ。
――放課後、校舎裏。
正直憧れるシチュエーションだ。
俺は0.1パーセントの奇跡に賭ける。
◇◇◇
「君が杜居伊織君かぁ」
「ヒャハハハ、真に受けちゃってバカじゃねぇの?」
放課後、校舎裏。俺は数人の上級生に囲まれることになった。ははは、わかってたよ?微かな可能性に賭けただけだから。
先輩方の1人は最近天戸にフられたらしい。それで、登下校よく一緒にいる俺に矛先を向けたというわけだ。あれ?俺何か悪いか?
「おい、何か喋ったらどうだよ。ブルッてないでさ」
先輩が俺の顔を覗き込む。
あー、でもよかったよ。あいつああ見えて見る目があるな。あんな奴でも大事な幼馴染だ、付き合うならまともな奴と付き合って欲しい。
「あのー、先輩方。ところで俺はどうすればいいんですかね?土下座とかで大丈夫ですか?」
最大限へりくだったのだが、態度が気に入らなかったらしい。いきなり俺の腹に蹴りを入れてきた。
「っ痛ぇ!?」
蹴ったパイセンが逆に足を痛がり、疑惑の目で俺を見てくる。
「……このビビり野郎、何か仕込んでるぜ!」
俺も驚いた。そうか、あの薬の影響で一般人よりかは遥かに強化されていたのだ。天戸から比べれば遙かに弱いだけで。
それに、魔王だ冥王だ降魔王だのを見た後で不良を見ても……正直何とも。恐怖は慣れだと実感した。
俺は校舎を裏拳で殴る。ゴッと鈍い音がしてコンクリの校舎が容易く割れ、欠片が飛び散り俺も少し驚く。だが、先輩方はもっと驚く。
「もう天戸に近付かないでくれませんかね?あんな奴でも大事な幼馴染なんで」
先輩方は何も言わず道を空けてくれた。
◇◇◇
「……はぁ」
溜め息を吐いてとぼとぼと校舎を出る。
知ってたよ?99.9%無いって。でもさぁ……夢、見るじゃん?男なら。
ピロン、と音が鳴る。
『どうだった?』
天戸も大変だな。あんなのにも好かれるんだから。
『フられた』
『えっ!?呼ばれたのに!?』
適当に送ったが、確かにおかしい。手紙で呼ばれて行ったのにフられたって……。
まぁ、真実は知らなくてもいいだろ。天戸が悪いわけでもないし特に害もない。
返事を送らないでいるとまたメッセージ。
『……元気だしなよ。虫には虫の、あなたにはあなたの良いところだってあるわ」
……何故虫を引き合いに出した? 励ましてるのか?




