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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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18話 隠し事

◇◇◇

『おはよ。説明して』

 

 天戸からの生存確認。既読後1分以内に返信しないと矢のような催促が飛んでくる。しかし、説明してに対しての返答……。


『おはよう。王女から貰った栄養ドリンクだったんだけど』

 苦しいか?


 ピロンと鳴る。

『体は?平気なの?』

『平気。むしろ調子がいいくらい』


 嘘は言っていない。


『よかった。ならいい』

 少し罪悪感で胃の辺りがギュッとなった。


 天戸に言って家に置かせてもらっている魔導書を取り出す。1巻と21巻だけうちに保管している。今まではランク2までの初等魔法だけで限界だった。だが今は見ただけでどれでも使えそうな万能感すら感じる。


 ランク2の風魔法『風羅(フーラ)』を使ってみようと思ったが、家の中で使ってまさかがあるとまずい。やはり外で使うべきだろう。


 ふと部屋の隅に虫の死骸を見つけた。ゴキブリではない。母さんが掃除をしっかりしているせいか、ゴキブリは家では見た事が無い。虫には詳しくないので何虫かはわからないが黒く少し硬そうな小さい虫だ。


 ――もしかして。


 俺は少し震える手で魔導書の21巻を開く。……全て使える逸材は100年に1人と言ってたっけ?忘れた。


 別に100年に1人の天才だなんて大それたものじゃなくていい。他の全てが使えなかったとしても、たった一つの魔法だけが使えればそれでいい。ページをめくり『蘇生』のページを開く。やはり同様に文字や、模様や、図や絵が記されている。それを見て、その全てがストンと自然に腑に落ちる。この瞬間、俺は自分が天才だと思った。


「『蘇生(リヴァース)』」


 部屋の隅の虫を指さし、俺はつぶやく。詠唱も何もない。だが、確信だけがあった。



 ぎゅうっと身体中のエネルギーが搾られるような感覚と共に目の前がぐにゃりと歪み、口からは血が滴る。

「げほっ」

 部屋を汚さないように、タオルで吐血を受け止めながら、ベッドにドサリとへたり込む。明らかに俺のキャパを超える魔力を扱う術のようだ。


 そして、薄れゆく視界の片隅で、黒い名も知らぬ虫が動いた気がした。


◇◇◇

 暫く経って、頬の痛みで目が覚める。


 天戸が俺の胸倉をつかみ白い目で見ている。

「お は よ 」

「……あぁ、おはよう」


 後ろでは母親がやはりニヤニヤと俺達を見ている。勘違いもいいところだぞ。

「うずめちゃん、ごはん食べて行ってね」

 天戸は振り返りニッコリとほほ笑む。

「はい!ありがとう、おばさん」

 

 振り返るとまた白い目で俺を見る。

「……何を隠してるの?」


 天戸は俺の胸ぐらを掴みながらまっすぐに俺の目を見ている。百戦錬磨の天戸の洞察力を逃れるのは難しいだろう。


 だが、自分を偽ることに関しては俺も一家言ある。

「あの王女に貰った薬で少しはパワーアップしたかなと思ってさ。『(トーチ)』連発したらぶっ倒れただけだよ」


 天戸は何も言わずじっと俺を見る。


 まるで嘘発見器にかけられているような気分だ。


 少し経ち天戸は呆れたように溜め息を吐く。

「わかった。信じる。……犬猫じゃないんだからもらったものホイホイ食べないでよ」

「……ははは、わりぃ」


 罪悪感が少し胸を蝕む。部屋の隅にチラッと目をやると虫は居なかった。


◇◇◇

 下校後、近くの山に向かう。


 何かの死骸を探す。意外と無い。蟻……じゃよくわからない。もう少し大きいものがいいな。キョロキョロと、岩をどけたりして何らかの死骸を探す。


 しばらく探すとひっくり返ったカナブンかコガネムシかを見つけた。虫には詳しくないのでどっちかわからないが、恐らくそのどちらかだろう。カブトムシのメスではないと思う。


 俺は大きく息を吐いて虫に手をかざす。

「『蘇生(リヴァース)』」


 仄かな光が俺と虫を包み、朝の様に身体から力が抜けるが何とか倒れるのを堪える。口からは朝と同様に血が零れるが、高揚感に麻痺した身体にはそんなもの何の意味もない。

 

 そして、虫は動きだした。


 裏返ったままワサワサと足を動かしだしたのでひっくり返してやると慌てて草の中に消えていった。


 ――やった。


 確実に虫を蘇生させた。これはすごい事じゃないか?この世の摂理を覆すような、とんでも無い事なんじゃないのか?


 人間を……ハルを生き返らせる事もできるだろうか?だが、段階を経る必要がある。今は虫を甦らせただけだ。


 虫、爬虫類や両生類、小動物、……人間。そして、死後かなり時間の経つ人間。骨しか無くても平気だろうか?欠損したりはしないか?


 後から思うと既に俺はおかしくなっていたと思う。或いは最初からおかしかったのかも知れないが。


 メッセージがピロンとなりギクリとする。


 天戸かと思ったら淡島瑞奈(あわしまみずな)だった。

『おーっす、お茶しな~い?』


 ニコニコ感じのいい巨乳のクラスメイトだ。天戸と仲が良いが、何故か俺に絡み始めた。

『何故俺を誘うかの理由に納得できて且つ奢りなら』


 ピロンとメッセージが鳴る。

『何故って仲良くなりたいからじゃんさ。奢りの件はOK!あんまり高いのはダメだよ』

 うお、OKすんなよ。

『天戸は?』

『居たほうが良い?』


 少し考える。

『や、別に』

『OK!それじゃ駅前のファミレスで待ってるよ~』


◇◇◇

 駅前のファミレスに向かいがてらいくつかシミュレートを行った。①マルチ商法の勧誘②怪しい宗教の勧誘③リトグラフとかその類の販売④美人局(つつもたせ)⑤誰も居ないで伝票だけ置いてある⑥ヤンキー達の巣窟⑦……。


 ファミレスに着くと、窓際の席から声がした。

「あっ、来た!おーい、伊織くん。こっちこっち」

 目立つように手を振り俺を呼ぶ淡島。止めろよ、超目立つだろ。


 席に着くとニコニコとしながらメニューを広げてくる。

「どうぞどうぞ、ようこそ。こちらがメニューになります」

 でた、『なります』。

「じゃあメニューになる前はなんだったん?」


 俺のクソみたいに不粋な突っ込みに少し考える淡島。

「あはは、伊織くん頭いいね。こちらがメニューです」


 えっ、何だこいつ。天使かよ。

「私のお勧めはね、これ。このチョコレートブラウニーパフェがお勧めだよ。食べ切れなかったら半分貰うから大丈夫だよ。1人だとちょっと食べすぎだもんね」


 俺はおずおずと手を挙げて質問をする。

「えーっとさ。ショックを受ける前に聞いておくけど、これは何の罠?罰ゲームとかじゃないなら、何のメリットが淡島にあんの?」


 それを聞いて淡島はケラケラと笑った。

「あはは、うずめの言ったとおりだ。絶対に疑ってくるから気をつけてねって言ってたよ」

「……いや、だって。お前にメリットねーじゃん」


「あれ?本当に気付いていない?」

「言っている意味がわからんが」


 淡島はニコニコしながら俺と自分を交互に指差す。

「小学校一緒だったよね」

 俺はキョトンとした。鳩に豆鉄砲を当てるとこういう顔をするんだろうか?


「え……、えーっと。親の離婚で苗字が変わってるんだっけ?」

「あっ、酷い。うちの両親は仲良しですー」

「あぁ、そうか。同じクラスになったことないしな」

「いやいや、あるよ。3年と6年一緒だったよね」


 俺は墓穴を掘るのを止めた。

「悪い、全然覚えてない」

 正直に答えた。俺の世界ではハルと天戸以外の存在は全てNPCなのだ。名前なんて一々覚えているはずがない。


 淡島はニコニコしながら再度メニューを見る。

「信じてくれた?懐かしいから昔話したいなー、って言うのが私のメリット?使い方あってる?」


 俺は少し笑った。

「それなら安心してもう一品頼めるな」

「おっ、いいよいいよ~」




 

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