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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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147話 それぞれの旅の終わり

◇◇◇


「うーちゃん!」


「ぐ……平気」


 一瞬の隙を突かれ、うーちゃんはジラークに捕まった。


 全力で握りつぶそうとするジラークと、内側からマフラーで抵抗するうーちゃん。


 スピードや切れ味ならともかく、堕天使の襟巻き(ルシファーズマフラー)は単純な力比べには向いていない。 



 吸収と再生を繰り返したジラークの姿と大きさは、もう人間とはかけ離れたものだった。


 身の丈も、腕の数も、目の数も、もう人のそれではない。



「うーちゃん離せ、バカ!」


 ハルが放ついくつもの魔法はジラークにダメージを与えるに至らない。


 同じ魔道士同士、全く効かないわけでは無いが魔力には耐性があるのだろう。


「心配しなくても返してあげるよ。取り合えず下半分でいいかな」


「黙れってば!」


 バチバチバチと雷光迸る雷の槍を作り出し、ジラークへと放る。


 周囲にいた魔物たちを消し飛ばしてジラークに当たる。


「あははは、ビリっとするね」



◇◇◇


「止めとけ」


 うーちゃんを助けに飛び出そうとした俺を俺が制止する。


 正確には5年前の俺が。便宜上いおりと呼ぶ。


「俺達が行っても何もできねーだろ」


 正論。


 恐らくいおりは俺よりずっとずっと強い。


 後ろに立っているだけでわかる。



 5年間、正にこの日の為に、ハルとうーちゃんを守る為に力を付けたのだろう。


 その彼が言うんだからきっと間違いない。


 行っても邪魔になる。いや、一瞬の陽動くらいにはなるかもしれないな。



「……あいつらを信じて待つしかねぇ」


 振り返らなくても、歯を食いしばり拳を握っているだろう事はわかる。


 天戸は何も言わずに俺を見る。


「いおり君は俺よりずっと大人っすなぁ」


 そりゃそうか。



 同じくらいの歳って言っても、俺は5年もの間1人でウジウジしてただけなんだから。



「でも信じるってのはそう言うのじゃねーだろうが」


 俺はいおりの胸倉を掴む。


「俺をあいつのとこに運べ。そのくらい出来んだろ」


 俺の剣幕に少したじろぐいおりくん。


「杜居くん」


 天戸の声を聞き、言葉を正す。


「悪い、間違えた。『俺達』を、あいつの所に運べ。だ」



 それを聞いて腕を組んだまま満足気に頷く天戸さん。


「ほらね」



「……何に対してのほらねだよ」


「ふふ、秘密」


「何だそりゃ」


 視線の先ではハルが1人で大怪獣軍団と戦っている。


 ハルの周りに無数の雷の槍が現れたかと思うと俺の足元にも現れる。



 いおりくんはまだ納得できなそうな表情をしている。


「……ハルに伝えた。手はあるんだろうな」


 俺は安心させるようににっこりと笑う。


「勿論」



 その答えに満足したのかしていないのかよくわからない顔でため息を吐く。


「……10秒後に一斉に放つってさ」


「10秒」


 意外と時間がないけど、まぁ問題ない。


 俺は全神経を集中させて、両掌の間で封印球を作る。



「天戸、説明いる?」


 天戸は首を横に振る。


「ううん。わかるわ、あなたの考えてる事くらい」



 ふはは、言うじゃねーか。絶対わかんねーくせに。


「当ててみ」


「俺は天戸うずめが好きだ、でしょう?」



 一瞬きょとんとしてしまった。


 え、今言う事?それ。


 そして何故少しどや顔?


 まぁ、いいや。


 おそらくきっと多分正解。


 

 俺はにやりと笑い天戸を見る。



「ばれたか」


 天戸は満足気に笑う。


「ほら」




 雷の槍が一度強く煌めくと、ハルの声が辺りに響く。


雷霆葬送槍(サンドランジア)!」



 一瞬の閃光と共に、ハルを囲む12本の雷の槍がジラークを猛襲する。


 光から数テンポ遅れて落雷の様な着弾音が連続して鳴り響く。



 そして、12発のそれらを囮に俺と天戸の槍が放たれる。


 まさに、音よりも速く。






 一発で山をも吹き飛ばせるだろうハルの放った雷の槍がジラークに着弾するも、ジラークに深刻なダメージは通っていない様子だ。


 そして、ワンテンポ遅れて残る俺達の槍を見て、ニィッと笑う。


「バレバレなんだよ」


 俺と目が合ったかと思うと槍をガシッと掴む。



「天戸!」


「うん」


 何秒持つか。


 俺はいつか、死霊王の時にやった様に全力を込めた封印術を反転させる。


「反転!拡張!……杜居流神気道奥義『無効空間』!」


 

 命名に少し悔いが残るが、この際しょうがない。


 身体がズシっと重くなる。


 俺でさえも。



 ――無効空間。


 まぁ何のことは無い広範囲無差別封印術だ。


 但し、効果時間は極めて短い。


 原理としては、杜居流の奥義である為(つまび)らかには出来ないが、ただ封印術の力の向きを裏返しただけ。


 内向きでなく、外向きの封印て言うのか?


 ゴムボールを裏っ返しにするみたいな。


 別に俺は研究者じゃないから細かい事はわからないけど、とにかく数秒間全ての術の効果を打ち消す。


 身体能力を強化している人間の効果を打ち消すとどうなるか……、少し前の天戸を思い出せばわかるだろう。それがたったの数秒だとしても、ただ命を捨てる陽動よりはよっぽど役に立つだろう。



 ジラークは重力に引かれ膝をつく。


 その巨体を筋力だけで動かしているはずは無いし、こいつらの様な天才様はずっと身体強化の恩恵を受け続けているから生身の力なんて忘れてしまってるんじゃないのか?ははは。



 1秒か、2秒のきわめて短い間。


 うーちゃんを握った手が弛む。



 その1秒だか2秒、願わくば3秒の間、天戸だけが普通に動く。


 天戸は一切の身体強化をしていないから。


 天戸はうーちゃんに飛びつく。


「天戸!……頼んだ」


 無効空間が切れる。


「任せて」


 顔は見えなかったが、きっと微笑んでいると思った。



 無効空間が切れて、この場の『全員』への封印が切れる。



「邪魔してくれてありがとう、伊織君」


 俺を捕まえようとしたジラークの腕が崩れた豆腐の様にボトッと落ちる。



 うーちゃんを抱きかかえ、六本の触手を伸ばしジラークをジッと睨む天戸うずめさんはこう仰った。



「殺すわ」



 俺はゴシゴシと目を擦る。


 あれ?何故か羽に見えないぞ。


 ダメージを受けたうーちゃんを俺に渡しジラークと対峙する。



「やって見ろよ。もうどうやって死んだらいいのかもわからないのにさ!」



 天戸は出来る限り表情を変えずに無情にジラークを刻む。


 

 ハルはうーちゃんの治癒を行いながら心配そうに天戸とジラークを見守る。



 ジラークはもう人の形を留めてはいない。



「……ルカは一度の召喚で命を落とした。何でお前達は平気なんだよ」


「一度で死ななかった召喚者も沢山いたわ。理由はわからないけれど……」


『生命力の多寡だよ』、とハルは呟く。


 その答えは当然ジラークを納得させるものではない。


「ふざけるな!不公平にもほどがあるだろ!?……何でルカはあんなくだらない奴らの為に。何で!何で!何で!」


 そうだとは思ったが、ハルを殺したこのジラークの妹ルカが喚んだのは天戸と俺では無いようだ。


「僕が1人だからか!?術を作ったのがお前達だからか!?……同じ思いをすればいいんだよ。それぞれ1人残して皆殺してやるよ。嫌なら僕を……殺してみろよ!!」


 天戸はズッと一度鼻を吸うと、大きく息を吐く。


 きっと、覚悟を決めたのだ。



 その時、2人の間に白い稲妻の様な光の奔流が迸ると空間が歪み狭間が開く。


 

 空間から悠然と歩み出てきた男と目が合い、双方目を丸くする。


「え」


 男は振り返り、最早人の姿ではないジラークを見ると安心したように寂しそうに微笑む。


「ようやく旅の終わりだね。お疲れ様」



 それは自分に言ったのか、それともジラークに言ったのか。



 次元の狭間を開いて現れたのはもう一人のジラークだった。


「みんな久しぶり。別れの準備お願いね、126秒で」


 そう言うとゆっくりと化け物と化した自身へと向かう。


 彼はもう抵抗もしなかった。



「……何で僕だけ」


 ジラークは憐れむように微笑む。


「気持ちはわかるよ。もう休みな。……僕もすぐ行くから」


「わかってたまるか!……馴れ合いやがって。僕はたった1人で何万年も……」


「1人?」


 泣きそうな顔で、彼はもう1人の自分に手をかざす。


「……ルカがいるだろ?君の中にも」


「中?」


 誰も動かず、何も言わなかった。



 ジラークの手のひら一つで、恐らく何百・何千の世界を滅ぼした魔王は世界から消えた。


『君も会えたらよかったのにね』


 多分、ジラークはそう呟いた。


◇◇◇


 帰還の光がハル達を包む。


 残された時間は126秒。


 別れを惜しむには短すぎる時間。




「ハル!」


 杜居伊織はハルを呼んだ。


 かつて7回目の世界で会った時に別れは済ませた。


 今伝えたい事はただ一つ。


「召喚術式を止める。後全部任せてもらっていいか?」


 ハルは一瞬目を丸くしたがすぐにニコーっと向日葵の様な笑顔を伊織に向ける。



「勿論!マナによろしく伝えてね」


 マナ。


 ハルが初めて召喚された世界の幼馴染であり、一緒に異世界召喚術式を作り上げた少女。


 只一人、『世界の中心』と呼ばれる時の無い場所に居続けているそうだ。


「世界のどこでもあり、どこでも無い場所……だっけ?」


 ハルはコクリと頷いた。


「そう。だから多分……」



 天戸うずめとうーちゃんはヒソヒソ話をする伊織とハルを横目で見る。


「……また悪だくみしてない?」


「ふふ、多分ね」



 天戸は数秒考えた後に、時間が無いので口を開く。



「……言ったよ」


「えっ」


 うーちゃんは目を丸くして天戸を見る。


「……何だって?」


 天戸は嬉しさを堪え切れないと言った様子でニッコリと笑う。


「ふふふ、秘密」


「そっか……、私も頑張るね」


「うん」


 そしていおりがパンパンと手を叩き時間を告げる。



 彼は『何もしなさすぎた罪』により、ハルに正座を申し付けられている。



「はいはい、それじゃそろそろ時間っすー。みんな!明日会う人も二度と会わない人も!……みんな幸せに!長生きしろよ!」


「ジラ君!」


 最後の際にハルはジラークに声を上げる。


「1つだけ!私達、友達だから!一緒に世界を救ったよね?今!それだけ覚えておいて!」


 ハルの言葉に困惑するジラーク。


「えっ?ハルちゃん何を……」


 やり取りを制止するいおり。


「あ、マジで巻いてるんで。そろそろ締めてもらっていいっすか?」


「もうっ」


 いおりに促され、俺は大きく声を上げる。今まで人生で出したどんな声よりも、大きく、どこまでも、別の世界まで響くような大きな声で叫ぶ。


「みんな……、元気でな!」


 ハルがクスリと笑い、小さく手を振るのが見えた。



 ――そして3人は光の粒に包まれて消えた。


 一連のやり取りを笑顔で見守るジラーク。


 彼は召喚術で来たわけでは無いので、脅威が去っても消えない。



「僕が言うのもなんだけど……お疲れ様。これでようやく僕の旅も終われるよ」


 その表情には安堵と諦めが同居している様に見える。


 何百、何千、何万の世界を経た彼の旅の終わり……、きっとそれは『死』を意味するだろう事を2人は感じ取っていた。



 杜居伊織は眉を寄せてジラークを見る。



「あぁ、死ぬのは構わないけどさ。有意義に死んでくれないかな?」


 天戸は伊織を見る。


「杜居くん?」




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