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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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13話 冥王との対峙

――七日目、天戸との約束期間終わり。

「それじゃあ杜居さん、七日間お疲れ様でした~」

 エル先生はパチパチと拍手をして俺の一週間を労ってくれた。結局、7日間で初等攻撃魔法『風羅(フーラ)』まで使える様になった。ランクでいえば2。上位4割には入れたと言うわけだ。


「杜居さんは魔法の才能、ありますよ。これからも頑張ってくださいね」

「あざっす」

 そう言って俺と先生は握手を交わす。思えば人生で誰かからこんなにまっすぐ褒められた事って無かったように思うと、少し目頭が熱くなる。


「お腹空いたわ。ご飯行こ」

 天戸が感傷もへったくれもない言葉で晩飯を催促してきたので、別れもそこそこに食堂に向かう。

「天戸はもう全メニュー食べたんじゃねーの?」

 半分冗談で聞いたのだが、実際に食堂のメニューは食べつくしていた様子。

「そうね。今日は街に行こっか。最後だし」


 俺と天戸は街に出る。よく考えたら一週間この世界にいて、初めて街に出た。


 世界の終わりが遠くで始まっているにも関わらず、街は賑やかで活気に溢れていた。理屈はわからないが、空には青い月が浮かんで、世界を照らしている。

「何食べたい?」

 珍しく天戸が俺にそんな事を聞いてくる。

「お前の好きなもの食べろよ。何がいい?肉か?魚か?」

 俺が答えると、天戸は言いづらそうにマフラーで口元を隠しながら呟く。

「それじゃ意味ない。……杜居くんの、魔法覚えた記念のお祝いだから」

 なるほど、そういう主旨ね。つい俺はにやついてしまい、天戸は抗議の視線を俺に送り付けてくる。

「じゃあ、ガッツリ肉がいいな。お祝いはやっぱり肉だろ」

「ふふ、賛成」


 城の入り口を守る衛兵さんに、この街で一番おすすめの肉料理の店を聞いて、俺と天戸はこの世界での魔法修行の打ち上げをする。


 で、翌朝。


 目を覚ますと天戸が腕を組んで俺を見下ろしていた。

「おはよ」

 一瞬寝ぼけて、『さて、今回の世界は?』と思ったが、まだ冥王の世界の途中だったと思い出す。

「へい、おはようさん」

「行こ」

「準備するからちょっと待ってくれよ」

 と、ベッドから起き上がろうとして足がカクっとなる。

「うおっ」

 天戸はヒラリと俺をかわし、代わりにマフラーさんが俺を優しく受け止めてくれる。ありがとう、戦乙女の襟巻ヴァルキリー・マフラー

「平気?」

 足どころか全身が痛む。感覚としては筋肉痛レベル3、みたいな。おそらくこれは、先生の言っていた『魔導痛』と言うものだと思う。魔力を通しなれていない『魔導』に短時間に大量の魔力を流す事により発生する痛みで、まぁ筋肉痛みたいなものらしい。曰く、寝れば治る。


「多分、魔導痛ってやつ」

「ふーん、じゃあ休んでてもいいよ。ちょっと行ってくるから」

 ちょっとコンビニまで、なノリで言っているが、これから行くのは冥王の本拠である。

「待て待て。帰るときのあの光って距離とかないのか?俺だけおいて行かれるのは勘弁だぞ」

 天戸は考えてもいなかったようで、感心したように俺を見る。

「そういう可能性もあるのね」

「まぁ、あくまで可能性だよ。試す機会はないだろうけどな」


「んー。じゃあ、私が運んであげるよ。それでいい?」

「え、私がって……」」

 と、思うより先にマフラーさんがひょいと俺を持ち上げる。


 すれ違う城中の人々がぎょっとして二度見をする中、俺と天戸は王に謁見する。参列するお偉いさんの中にはエル先生もいる。


「あ、あー……。その出で立ちは、勝利の儀式か何かか?」

 さすがの王様も我慢しきれずツッコんでくださる。ここで適当な返事をしてこれが伝承されても困る。

「いえ、ただの魔導痛です。気にしないでください」

「う、うむ。そうか」


 天戸は凍り付く場の空気を気にせず、ペコリと王に一礼して微笑む。


「それでは、世界を救ってきます」

 

◇◇◇


 空飛ぶ絨毯は一直線に冥王の本拠地を目指す。船で一か月ほどかかる海に浮かぶ孤城らしいが、空飛ぶ絨毯ならひとっとびだ。


 「魔法、使えるようになってよかったね。おめでと」

 本を読みながら、天戸は視線も上げずに呟いた。

「おや、珍しい。雪でも降りますかね」

「あはは、ばぁか。頼りにしてるよ?冥……なんとかさんにお見舞いすると良いわ」

 そういって天戸はクスクスと笑う。

「俺の『(トーチ)』に任せとけ」

 熱を帯びない灯りの魔法。

 


 絨毯は冥王の島に近付いていく。雲一つなかった青空は突如黒い闇に変わる。境界線もなく、後ろを見ても闇。

「気を付けて」

 天戸はそう言ったが俺が?どうやって?

 ピカッと闇の中に一条の雷光が走ったかと思うと、絨毯を激しい雷撃が襲う。


「うあぁぁぁぁぁあ!こぇぇぇ」

 全てを天戸のバリアみたいな障壁とやらで防いでいるので、俺から見たらただのアトラクションにすぎないが怖いものは怖い。家の中にいても雷は怖い。


 天戸は目を細めて前を見る。

「眩しいわね」

 何をのんきなことを、と思う。だが冥王だろうが、魔王だろうが異界の勇者天戸の前では敵ではない。


 絨毯は島に降り立つ。敵は特にいない。

「行こ、離れないでね」

「あっ、待てよ。足がまだ」

 天戸は呆れ顔で再びマフラーでぐるぐる巻きにして背中の後ろ辺りに置く。すげー扱いだ。

「しょうがないなぁ。これでいい?」


 たまに顔に触れる天戸の髪がくすぐったい。

「シャンプー何使ってんの?」

「キモいんですけど」


 特に何の警戒もなくポケットに手を入れたままスタスタと進む。

「こう言うところ隈無く探検したくない?」

「別に?」

 あ、そう。


「何で道わかんの?」

「ん、何となく」


 天戸の言うとおり、迷わず冥王の間に辿り着く。きっと知らぬ間にそう言うスキルが身についてるんだろうな。マフラーぐるぐる巻きで俺は思った。


 扉を開けるとそこに冥王とやらがいた。


 全てを呑み込むような闇の体現者。魔王のような圧は無いが、自我までも吸い込まれてしまうような恐怖。

 力が違いすぎて前回の魔王とどっちが強いのか俺には分からない。背格好は熊より一回り大きいくらいか?


「貴公が伝説にある異界の勇者か。何と可憐な少女ではないか……。その瞳……闇に映えるな」

「ありがとう。さよなら」


 他に言うことはないのかと言うくらい淡白な死刑宣告をして、天戸はマフラーで冥王を襲う。『マフラーで』。


「あっ」

 俺を持っているのを完全に忘れていた。ずっとソロプレイだったんだ、しょうがない。

 天戸は俺を持つマフラーをピタッと止めると、後方に下げようとする。

 

 その隙を付いて冥王の右手付近の空間から巨大な手が天戸を襲い、天戸の障壁に激しく激突する。

「くっ……!」

 巨大な手は無数に現れ、天戸を襲う。

 マフラー一本で防戦一方になる。……もしかして、これやばいんじゃないか?!


「天戸!」

「……平気。動かないで」


 六本の手による同時攻撃で、遂に天戸の障壁が割れてしまった。七本目が天戸を襲う。

 ここからはまたスローモーションだ。天戸はマフラーで迎撃しようとするが体勢が悪い。そして本命は腕で無く冥王本体だった。冥王は天戸を狙う。俺は天戸を突き飛ばす。俺の身体は冥王の爪により二つに引き裂かれた。


「杜居くん!」

 天戸の悲痛な叫びが聞こえ、宙を舞う俺の上半身は地面に転がる下半身を見た。赤いものや、腸みたいなものも見える。不思議と痛みはない。


 天戸は、涙を溜めた目でグッと口を結び冥王を見る。ニヤァと邪悪に笑った冥王は、そのまま俺の何千倍も細かい肉片になった。

 天戸は俺の上半身を捕まえて抱きかかえて泣き叫ぶ。

「杜居くん!ごめんなさい!ごめんなさい!もうすぐだから!死なないで!」

 俺と天戸をいつもの光の粒が覆う。――世界を救うと俺たちを覆う帰還の光。もうじき俺たちは元の世界に帰還する。

 俺はもう顔の感覚以外は無い。何かを話して安心させないと……。

 天戸は俺を抱きしめる。

「杜居くん!」

「あ……、天戸」

「何!?」


 俺の顔に天戸の胸が当たっている。

「お前やっぱり……胸」


◇◇◇

 目を開けると蛍光灯があった。


 全身汗だくだ。手……ある。足……ある。

「たすかったぁー……」


 危なかった。死んだかと本気で思った。……俺が助けなくても天戸は無事だっただろうけど。犬死にするところだったよ。


 額の汗を拭って思い出す。そうだ、魔法が使えたんだ。こっちの世界でも試してみよう。俺は両手を合わせてイメージを集中する。

「……『(トーチ)』」


 ボッと灯りがともると同時に、視界が歪む。あ、これだめなやつだ。薄れゆく意識の中で、スマホに天戸からのメッセージが来たのが見えた――。

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