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131話 世界の脅威

◇◇◇


『おれもいるぞ』


 暗い箱の中で見つけた、杜居君から100年後の私達へのお手紙。


「勝手に彫るなんて酷いよね~。ほんと、伊織はさ」


 文字に触れながらハルは笑った。


 暗くてよく見えないけれど、声の感じからして笑っていると思う。


「ね。高校生になっても変わらないわ」


 

 うずめさんの話だと、懺悔室に入って、沢山の人が教会に入ってきて、教会を出る。それを追って出たハルはジラークと遭遇して……、私は帰還術を使ったそうだ。


「その人たちとジラークに関係はあるのかな?」


 懺悔室から出て私が聞くとハルは首を捻る。


 

「どうかな?まぁでもそれは今はいいや。と言うか、この世界に関しては私は救うつもりは無いから」


 私もコクリと頷く。


「悪いけど、同感だわ。私もハルを救うことしか考えてないもの」


 ハルは笑った。



「そっか。じゃあまず私はうーちゃんのお腹を救おうかな。何食べる?」


「ハルが食べたいのでいいわ」


「じゃあカボチャ」


「いやよ」


「……だから決めていいってば」



◇◇◇


 結局、ハルが選んだ私が好きそうなレストランになった。


「うーちゃんかぼちゃ嫌いなの?」


「嫌いなものは無いけど」


「ふーん。私キノコ嫌い」


 そう言って私のお皿にキノコを入れてくる。


「ハル、行儀悪いよ」


「残されるのと美味しく食べられるのはどっちがキノコは幸せ?」


「……美味しく食べられる方」


「でしょ?じゃあうーちゃんが食べた方が幸せじゃん」


 何か変だなと思ったけど、まぁいいか。



「それで?どうやってジラークを救うの?」


 スープを飲みながら上目で私をチラッと見る。


「迷ってんだよね」


「それじゃわかんない」


 ハルはまた指をくるくると回す。


「倒し方とか、ルカちゃんの探し方だけならあるんだよ」


「え、あるの?」


 と言うか、倒し方って言った?


「うん、あるよ。数は多くないけどね。でも……それをしちゃうとなぁ」


 ハルは腕を組んで頭をひねった後で、恥ずかしそうに笑った。


「あはは、私が考える手段って大体がだまし討ちとか卑怯な手になっちゃうんだよね。うーちゃんはどう思う?」


 ハルにわからない物が私にわかるはずがない。


 

 と、今までの私なら思っただろう。


 でも、ハルが私に聞くならそれなりの理由があるに違いない。


「力で勝っても、罠で嵌めても、彼は救われないわ」


「だよね。やっぱお話合いをするしかないか」


 ハルは大きくため息を吐いた後で一度背伸びをする。



「そんじゃ、お話合いの問題点①私が術式を作ったって言った瞬間に戦闘になる可能性大」


 召喚術自体を強く憎んでいた彼なら、確かにそれは在り得ると思う。


「その場合は速やかに帰還術を使ってもらって、私は何とかその間時間を稼ぐしかないね」


 その状況を聞いて思わず眉間にしわが寄る。


「前と同じだわ」


「ううん、前と違って相手の望みが分かっている分気の引きようはあるよ。2分くらいならもつと思うけど……」


「ルカちゃんを探す方法って言うのは?」


 ハルは言い辛そうに少し口ごもった後で、ぼそぼそと呟く。



「うーん。本当に探すだけだよ?探した後で会いに行けたりはしないんだよ」


「それじゃ意味ないじゃない」


「だよねぇ」


 ハルが言うその方法とは、二つの異次元ポケット……『次元の狭間』を重ねた先にあると言う『世界の中心』へ行く事だそうだ。


 全ての世界と繋がり、全ての世界から隔絶されているその場所へは一度入ると出られないと言う。


「とはいっても試行数が少ないからね。他にやりようはあるのかも知れないけどさ。……でも、行かせたくないな」


『世界の中心』には別の世界でのハルの幼馴染……マナがいるからだろう。


 

 結局、答えは出なかった。



 私達で無く、杜居君とうずめさんだったなら彼が救えるのだろうか?




◇◇◇



「……ハル、起きて」


 その夜、宿で眠っていた私は異様な気配を察し目を覚ます。


「んあ?」


 ハルは半ば寝ぼけながらも目を覚ます。


 そして、私の真剣な顔を見て首を横に振る。


「どうかした?」


「外、見て」


 私達2人の泊まるのは宿の3階。


 カーテンを少し開けて外を見ると、月明かりの下で多数の人が歩いている。


 時計を見ると、午前3時。


 道を歩く人の数はざっと40名程。


 子供の姿も見える。


 異様なのは、これだけの人数が歩いていて、音一つしないところだろう。


「38人」


 ハルは私を見る。


「……うーちゃんが言ってた人数と同じだ」


 ハルは私の腕をぎゅっと掴む。


 ハルの手は震えている。


 彼らの行き先はきっと教会だろう。


 目的は?


 ジラークは?


「ハル」


 私はハルの震えが止まるくらい強くハルを抱きしめる。


「うーちゃん、痛いよ」


「大丈夫よ、ハル」


 ハルも私を強く抱きしめる。


 私の震えが止まるくらい。


「行こう」


「うん」



 私達は窓を開けて外に出る。


 多少音を立てても教会へ向かう人たちは反応をしないだろうと思ったけど、私はハルを背負い、出来る限り音を立てずに屋根の上を移動した。


 街を歩く人たちは、まるでゾンビのようだった。


 だけど、遠目にではあるが観察する限り生きているように思える。


『死霊術の類かな?』


 ハルが念話で話しかけてきたので首を傾げる。


 恐らく私に聞いたのではなく、自分への確認だと思う。


 38人が教会へ入るのを屋根の上から見届ける。


 追って入る?


 チラッと背負ったハルを見るとその後ろにはジラークがいた。



 彼は月明かりに照らされて、薄笑みを浮かべながら屋根の上に立っていた。



「や、いい月夜だね」


 ニコリと微笑み、軽く手を上げて親し気に挨拶をしてくる様に怒りが込み上げてくる。


「……何でここに?」


 ハルを下ろし、私の後ろに下げる。


「ん?念話使ったでしょ。内容はわからないけど、君らくらいしかいないからさ」


「ジラくん、あの人らは?」


 ジラークは教会をチラッと見た後で腕を組み馬鹿にしたように笑う。



「あぁ、僕の喚ばれた脅威だよ。睡眠者を操る術式っぽいんだけどね、面白そうだから術者を喰おうと思ってるんだけどどうも尻尾を出さなくってさ」


 当たり前のように聞こえたその単語に背筋が凍る。


「喰う……!?」


 一瞬きょとんとした後で申し訳なさそうに笑い両手を合わせる。


「あ、ごめん。説明足りないか。異界の禁術の一つだね。『食べた相手の能力を得る』シンプルな術式さ。あはは、便利だよ?食べた魔物や動物の能力もそのまま使えるようになるし、探知系は必要だしさ」


 

「……ふざけんな!」


 気が付くと、ジラークを睨むその目からは涙が出ていた。


「何が?」


 対するジラークは涼しい顔で私に薄笑みを見せる。


「命を……命を何だと思ってるの!?そんなので妹が喜ぶと思ってるなら本当に馬鹿よ……!?」


「生き物食べてる口でそう言う事言っても説得力無いよ?それに……」


 ジラークの表情が冷たく変わった。



「お前が何で妹を語るんだよ。会った事も無いくせに」



「うーちゃん!」


 ハルが私に飛びつき、私達は屋根から落下する。



 そして、ハルを抱きかかえながら見上げた空には月の他にもう一つの光が浮かんでいた。


 ――ジラークの魔法だ。


「ハル!」


葬送劫火(インフェルノ)!」


 背中越しに魔力を感じ取っていたハルは、振り向きざまに極大火炎魔法を放つ。



 強大な魔力が2つぶつかり、ハルの魔法でさえも打ち消せなかったその光は私達を襲う。



 ゴウッと音を立てて街は炎に包まれる。




◇◇◇


 ジラークが指をパチンと鳴らすと雨が降り炎を消す。



「見逃してあげてるんだから黙って帰ればいいんだよ。こっちだって後味悪いんだから」



 水蒸気の靄が晴れ、ジラークは私達の姿を見つける。


 ハルの魔法で相殺してくれたので、障壁で防ぐ事が出来た。


 お遊びで撃ったようなあの魔法を。



「ハル、わかったわ。……彼を救う方法」


「え……?」



「ジラーク、やっぱりあなた間違ってるわ。自分でもわかってるんでしょ?こんなのじゃルカは喜ばないって。だから……自分に怒ってるのよ」


 ジラークの顔からは笑顔が消えた。


「だから黙りなよ。あぁ、……天戸さんにまた会えたら謝らなきゃいけないな」


「平気よ。私から伝えておくから」



 ハルはゴクリと一度唾をのみ、覚悟を決めた様子だ。


「そうだね、うーちゃん。間違いを正してあげないと、救えないもんね」



 ジラークは俯き、大きく息を吐く。


「僕はさ、……本当に君たちを、殺したくなかったんだよ?」



 また顔を上げたそこには、人懐こい笑顔の青年ではなく、魔王と呼ぶにふさわしい男がいた。



「でも、君たちが悪いんだ」



 私と、ハルと、杜居君のジラークとの戦いが幕を開けた。







 


 

 

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