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130話 もう1人の幼馴染

◇◇◇


 馬車に揺られながら『イオリの滝』を後にする。


「それにしてもねぇ……。1万回以上っておかしいでしょ」


 1日1回睡眠をするとすると、……まぁ、たくさんかかる。


「……そうね」


「それだけ転移を繰り返しても、会えないんだね」


うずめさんと杜居君は389回目だと言っていた。


 ――1万と、389。


「術式を作った、って言ってもさ。別に全てがわかるわけじゃないんだよ、私も……マナもさ」


 マナ?


 初めて聞く名前だ。


「……一緒に作ったって言う子?」


 馬車はゴトゴトと揺れながら街に向かう。


 ゴムなんてないからかなり揺れる。



 ハルはまた言いづらそうに顔を手で隠しながら言った。


「これも本当は言いたくなかったんだけどさ。術式の止め方の話したっけ?」


 私はコクリと頷く。


 異次元ポケットを2つ重ねてたどり着ける『世界の中心』とやらの話。


 正直半分くらいはわからなかったけれど。



「術を止める為にそこに行かなきゃ行けないんだけどさぁ。……多分、伊織は気がついてて言わないでくれたのかなぁ。……術式の展開もそこでやらないといけなかったんだよね、あはは」


 私は首を傾げる。


 それがどうかしたのか。多分、当たり前の事を言っているんだと思うんだけど。



 私の様子を見て、ハルはまた困った顔をした。


「……誰かが残って術式を展開しなきゃいけなかったって事だよ?」


 察しの悪い私にも漸くわかった。そして、わかったと同時に恥ずかしく、悔しくなった。そこまでハルに言わせてしまったことに。


「……そのマナっていう子が」


 ハルはコクリと頷く。


「えへへ、そう。転移してからずっと一緒だったんだけど……、1人で置いてきちゃった。絶対恨んでるよね」



「そんな事無いわ」



 会ったことも無いけど、その子が何を考えていたのかはよくわかる。



 その子もハルが大好きだったに違いない。


 そして、その子……マナもハルを元の世界に戻す為に喜んで1人で『世界の中心』に残ったのだ。


 ハルはキッと私を睨む。


「何でそんな事わかるのさ」


 私は少し笑ってしまった。


 ハルは頭がいいのにそんな事がわからないの?


「私でも同じ事をするからよ」


 そう言うとハルは黙ってしまった。


「……仲良かったの?」


「うん」


 転移してからずっと一緒だったと言うことは、幼稚園からお婆ちゃんになるまでずっと一緒だったという事だと気付く。


「……男の子?女の子?」


「女の子。かわいい子だったよ」


 胸の奥がもやっとしたので慌てて振り払う。


「お婆ちゃんでも?」


 と、思ったけど振り払えなかった。つい、嫌な言い方をしてしまう。


 ハルはそれを聞いてケラケラと笑う。


「あはは、うーちゃんヤキモチ妬いてくれたんだ。もー、かわいい!うーちゃんが一番に決まってるじゃん」


 そう言って私の頭を撫でてくる。


「でも、2人で作った不老術で見た目は変わらなかったけどね。あ、ちょうど今くらい」


「あっそう」

 

 プイッとそっぽを向いてしまう。



 ハルの言うとおり、ヤキモチだ。


 私と、杜居君の知らないハルのもう1人の幼馴染。


 


◇◇◇



「ハルは秘密ばかりね」


 呆れてため息を吐く。


「あはは、ごめんて。しょうがないじゃん、ミステリアス天才魔法少女なんだから。ミステリアスってことは秘密があるってことだよ」


「他には無いの?もしまだあったら怒るよ?」


 ハルはニッコリ笑う。

 

「もう無い。ごめんね?すっきりしちゃった」


「よかった」


「うーちゃんは?秘密無いの?」


 私は少し考える。


「もう無いわ」


 ハルはニヤリとイタズラっぽく笑う。


「もう?あ、伊織の事ね」


 少し顔が熱くなったけど、眼を背けると負けだと思ったので真っ直ぐハルを見て言う。


「そうよ」


 その反応はハルのお気に召す物だったようで、途端に嬌声を上げて抱きついてくる。


「も~!うーちゃん、かわいい!ねぇねぇ、どこが好きなの?!言いっこしようよ」


 私は迫り来る大魔王を押し返しながら抵抗をする。


「しない。いやよ。離れて」


 ほんの少し前まで生きるか死ぬかの思いをしていたとは思えないような日常風景。


 馬車は何事も無いように街へと向かう。



◇◇◇


「具体的な作戦なんだけどさ」


 

 馬車は街に着き、ハルは指をクルクルと回しながら言う。


 きっと考えるときにする癖なのだろうと思う。


 ふふ、かわいい。


「話聞いてる?」


「もちろん、聞いてるわ」


「私がしたいのは謝罪でも贖罪でもなくて、ジラーくんを助ける事なんだけど。直接会ってみてかなり印象はかわっちゃったよ」


 街は夕暮れ。


 通りの街からはいい匂いがする。


「聞いてる?」


「きいてるわ」


 ハルは呆れ顔をして私の顔を覗き込む。


「もう。お腹空いたの?何か食べよっか」


 そうやってすぐに人を食いしん坊扱いする。


 少し歩いてハルの足は止まる。



 視線の先に目をやると古びた教会があった。


 いや、古びたと言うのは少し違うか?


 ボロボロの教会だ。


「ここが……」


 ハルは呟いた。


 うずめさんと杜居君が言っていた、私とハルがジラークと戦った教会。


 ハルは振り返るとぎこちない笑顔で言った。


「入ろ」


 私なら止めるけど、杜居君はきっと止めない。


「うん」


 気は弛めない、何かあったら……何があってもハルは私が守るよ。


 ハルが扉を押しても動かないので、開けてあげる。


 重く鈍い音を立てて扉が開く。


 中には誰も居らず、部屋の隅にある四角い箱が話に出てきた『懺悔室』なのだろうと想像が付いた。


 重い扉を閉めて、懺悔室に向かう。


 心なしか呼吸が荒くなる。


 うずめさんの話だと、この懺悔室の中で私はハルを……見殺しにしたんだ。


 別に落ち込んでいるわけではない。


 この期に及んでそんな事をしているような余裕は無いのだから。



「ねぇ、ハル」


 私はハルの手を握る。


「なんだい、うーちゃん」


 ハルは私の手を握り返す。


「私今日杜居君と水族館に行っているはずよ」


「えっ」


 ハルは一瞬固まった後で笑う。


「あはは、びっくりした。あっちのうーちゃんでしょ、もう」


「そう。でも、ハルじゃなくて私だもん」


 ハルは少し嬉しそうに笑う。


「あっ、もしかしてケンカ売ってない?」


「そうよ。悔しい?」


「悔しい。じゃあ私達も明日行こう!」



 手を繋いだまま私達は懺悔室の中に入る。


 箱の中は2つに仕切られていて、真っ暗だ。


 相手の顔が見えないようになっている。


 左手の辺りの壁に何か彫られているのに気が付く。


 文字だ。


 日本語だ。


「お」


「ん?」


 思わず口元が弛んでしまった。


「ふふ、ごめん。文字が彫ってあるの」


「え、もしかして……」


「うん、多分。日本語だもの」


 その言葉自体はなんてことのないものだった。


『お・れ・も・い・る・ぞ』


 100年前の、杜居君からの手紙。


 こんな真っ暗な箱の中で、確かに心に火が灯るのを感じた。




 


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