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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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12話 魔法はイメージ

 ――魔法特訓三日目。


 ようやく、所作を抜いて詠唱のみで『(トーチ)』が使えるようになった。

「杜居くんは意外に魔法が向いてるのかもね」


 俺が練習をしている傍ら、優雅に紅茶を飲みながら天戸が感心したように呟く。

「おほめ預かり光栄っすよ。つーか、お前もやってみろよ。完全詠唱で所作付きの『(トーチ)』。動画とってやるから」

「いやよ」

 ぷいっとそっぽを向く天戸。


「そういえば、そのマフラーとか、絨毯は魔法じゃないの?『魔法の』絨毯じゃん」

 俺の指摘に天戸は眉をひそめて答える。

「私に聞かれてもわかるわけないじゃない。使えるものは使えるの。魔法は使えない。以上」

「大雑把なやつだなぁ」

 学校での完璧なイメージとの違いに思わず笑ってしまう。


「魔力自体は誰にでもありますよ。ただ、それと魔法を使えるかは全く別の問題です」

 早速聞いてみると、エル先生はそう答えた。なかなかイメージが湧かず、首を傾げる。

「魔力があれば魔法が使えるんじゃないんすか?」

 割とよく聞かれる質問らしく、先生は黒板にチョークを走らせる。興味深い話題のようで、天戸も席について黒板を見つめる。


「例えば、ランプ。ランプには油が入っていますね?それを『魔力』とします」

 黒板にランプの絵。先生は絵もうまい。

「火をつけると、灯りが灯る。灯りが『魔法』です。この『火』の部分が、『魔導』と言われるもので、生まれつき身体中を巡る不可視の感覚器ですね。これがないと魔法が使えません」

「なるほど。……で、足りない人は詠唱とか所作でそれを補う、って感じですか」

 先生は満足そうに頷く。

「その通りです。ですが、かと言って天戸さんが劣っている訳では決してありません。さすが、異界の勇者様と言うべきでしょうか、そのマフラーも、絨毯も、私の魔力量では到底起動すらできない代物です」

「へぇ」

 チラリと天戸を見ると、得意げに俺を見ている。

「だって」

「はいはい、お前がすごいのはもう知ってるっつの」


 それから俺たちは教室から屋外の鍛錬場に移動する。渡り廊下を過ぎて、雲一つない青空に見守られながら、古びた石畳を歩く。『いい天気だなぁ』などと、のんきな事を思うが、この世界は今も冥王と言う驚異に晒されているのだ。


「さて、『魔導』とは筋肉と同じで、使えば使うほど太く・強くなると言われています。つまり、毎日魔力切れまで魔力を使い、ぐっすり眠って回復するのが上達への近道!」

 知的な風貌からは想像もできない脳筋指導法。


「おい、天戸。脳筋さんの出番だぞ」

「ん?いやだけど」


 俺と天戸のやり取りを見てクスリと笑いながら先生は指導を続ける。

「一週間しか時間がないので、とにかく最大効率で行きますよ。とにかく、自分の使える魔法を限界まで使って、倒れたらその日は終わり、です!」

「りょーかいでーっす」


 俺が元気にそう答えると、先生は先に宝石のついた杖を手に取り、鍛錬場に出る。

「さて、やる気が出るかはわかりませんが、一つ私も魔法をお見せしたいと思います」

 そう言って杖で、鍛錬場の先にある訓練用の人形を指さす。


「あまり前に出ると危ないので下がってくださいね」

「私も?」

「いえ、天戸さんは多分平気です」

 エル先生はそう言って苦笑いをする。


 そして、一度目を閉じて精神集中。鍛錬場の上は雲一つない青空が広がっている。風が一度吹いて、エル先生のローブを揺らす。それを合図にしたかの様に、彼女は眼を開く。そして、詠唱を始める。


「天にひれ伏せ、大地に刻め。千の雲、万の鼓動、我が呼び声に応じよ。天輪の檻を穿ち、雷の刃を解き放て。――『雷迎破軍(レギオン)』!」


 瞬間、雲無き空に見たことも無い様な太さの稲光が現れ、それはそのまま鍛錬場にある人形へと襲い掛かる。空気が全てそこに吸い込まれる様な錯覚を感じると、そのあとワンテンポ遅れて建物のガラスというガラスがすべて同時に割れたかのような炸裂音が辺りに響き渡り、余波として電流の波が波紋のように鍛錬場全体に波及した。


 先生はふぅ、と短く息を吐くと俺たちの方を向き直りニコリと微笑む。

「大体これが私の最大出力です。杜居さんも頑張って」

「あ、あれが……、完全詠唱の『雷迎破軍(レギオン)』」

 俺がそれっぽい顔でゴクリと唾を飲むと、隣で天戸は冷ややかな視線を送ってくる。男のロマンがわからんやつめ。


 ここからの特訓はあまり面白いところがないので、割愛する。ただひたすらに完全詠唱の『(トーチ)』を唱える。喉が疲れたら腕を回して『(トーチ)』を唱える。とにかく魔法を使いまくる。天戸はその間、この世界の伝承や昔話の本を黙々と読み続けていた。


 一応、魔法のランク表は以下の通り。俺の得意魔法である『(トーチ)』はランク1であり、先生の使った『雷迎破軍(レギオン)』はランク5。かなりすごい。


 ランク1・全体の7割の人が扱える魔法。生活魔法と呼ばれる。

 ランク2・全体の4割の人が扱える魔法。

 ランク3・全体の2割の人が扱える魔法。この魔法を扱えると魔導士と呼ばれる事ができる。

 ランク4・全体の1割の人が扱える魔法。この魔法が扱えれば勤め先に困ることはない。治癒魔法はここに位置する。

 ランク5・限られた5%の人しか扱えない魔法。

 ランク6・理論は構築されているが、ほとんどの人は発動することすらできない高等魔法。扱える人は百万人に一人といわれる。

 ランク7・理論上可能なだけで実現は不可能と言われている。伝説魔法と呼ばれる。

 

 おそらく、蘇生はランク7なのだろう。俺にその才能がある事を祈る他ない。


「魔法は才能もそうだけど、意思とイメージが重要な要素になるわ。できない、と思っている魔法は絶対に使えない。己のイメージに(たが)を掛けない事」


 三日目の終わりに先生はそう言った。それなら、俺には絶対に蘇生魔法は使えるはず。天戸には言えないけれど、一人拳を握りしめた。

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