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127話 新・勇者天戸の冒険

◇◇◇


 目が覚めると、見慣れた天井が見えた。


 ――帰って来たのだ、7回目の世界から。


 私は急いで着替えると家を飛び出す。


「うずめちゃん、学校の準備は!?」


「平気!また戻るから」


 家を出てハルの家まで走る。


 インターフォンを押す前に上から声がする。


「おはよー」


「ハル!おはよ」


「うーちゃん、ランドセル忘れてるよ?」


 ハルは笑いながら私を指さすが、決して忘れたわけではない。


「顔見に来ただけだから」


「ずっと見てたじゃん」



 結局7回目の世界は5年掛かった。いや、5年で済んだと言うべきか。うずめさんたちの話だと8年掛かったらしいから短い方だと思う。


「でも、戻ったら顔が見たいの」


「あはは、ありがと。また後でね」


「またね」


 そう言ってまた家に戻る。


◇◇◇


「おっす」


 5年振りの杜居君。


 私とハルは顔を見合わせる。


「子供だね」


「子供だ」


「朝から何なんだよお前ら」


 5年後、高校一年生の私と杜居君。


 写真を見せたらびっくりするだろうか?


 でも、今じゃない。


 全ては次、8回目の世界だ。


 ハルの5年後を作るんだ。



「ハル」


 まじめな顔の私を見て首を傾げるハル。


「ん?」


「杜居君にも話そう」


「えっ?」


 横で眉をひそめる杜居君。


「また俺だけ除け者にしてたのか?何の話かしらねーけど」


『うーちゃん。ダメだよ。全部……次の世界から戻れたらの話でしょ?』


 この期に及んで杜居君に隠そうと念話で話してくるハルに少し頭に来た。


「違う!じゃあ戻れなかったら!?そしたら杜居君はまた1人で……何も出来なかったってなるよ」


 急に大声を出した私を心配してガムをくれる杜居君。


「おい、どうしたんだよ急に……。ガムいるか?」


 手を出したらパチンと挟むタイプの玩具だったのでイラッとした。


「今そういうのやめて」


「おっ、おう……」




 ハルはじっと私の目を見た後で、諦めたように溜息を吐いた。


「わかった。確かにうーちゃんの言うとおりかもね。伊織、今日放課後大事な話があるの」


 杜居君はひきつった笑いを浮かべた。


「はは、告白とかそんな雰囲気じゃなさそうだな」


「うん、まだね」


 にっこりと笑うハルに私と杜居君は声を揃えて驚いてしまった。


「まだ!?」



◇◇◇


 ――放課後。


 約束通り……、と言うか約束なんてしなくてもいつも通り3人で集まる。


 あまり周りに聞かれたくない話なので、公園でなく坂の上の神社にする。ここならほとんど人は来ない。


 切り株ベンチに座る杜居君はやや緊張の面もち。


 ハルは困った顔で私を見る。


「さて、どう切り出そうか?」

 

「単刀直入がいいんじゃない?あのね、杜居君信じて貰うのに時間がかかるかもしれない。……でも、嘘じゃないの」


「……何が?」


 私は胸に手を当てて一度深呼吸をする。


 そして、杜居君の眼をまっすぐに見て言った。


「私とハルは異世界転移をしてるの。……これ、写真」


「マジか……、ずりぃぞ!」


 杜居君はきらきらした眼でカメラを奪い取った。


「魔法は!?魔法は使えるのか?」


 ハルはクスリと笑って手のひらに緑の火を出した。


「すげぇ!マジだ!天戸、お前は!?」


「えっ、私魔法はちょっと……」


 すると露骨にがっかりした溜息を吐かれたが、ハルがフォローをしてくれた。


「伊織、うーちゃんは物理チートだから。岩位なら軽々粉砕だよ」


 くるっとまた私を見る。


「マジか。これは?」


 手頃な石を渡されたので取りあえず握り潰す。


「おぉぉ……オランウータンじゃねーか」


「オランウータンじゃない」


 ふふ、この人はこういう人だ。


 普段は人の言うことはあまり本気にしない癖に、本気で話をすれば簡単に信じてくれる。


「で、うーたんとハルはさ」


「オランウータンみたいに言うな」


「……何に困ってる?」


 不意の察しの良さに思わず涙が出そうになった。


 ハルはにっこりと挙手発言。


「そんじゃ、ここからは私が。前回の世界でね、五年後のうーたんと伊織に会ったんだ」



「……オランウータンみたいに言わないで。これ、写真」


 杜居君に2人の写真を見せる。


「マジか……こんな感じなのか。あれ?ハルは?」


「次の8回目で私は死んじゃうんだって」


 杜居君は目を見開いてハルを見た。


 そこから先は5年後の2人からの又聞きになってしまう。


 ハルが死んで、私と杜居君も疎遠になってしまう。


 5年が経って、高校生になった私が杜居君に打ち明けて一緒に転移をするようになった。


 ハルが生きている世界を作る為に。


「そして180回くらい転移をして、7回目の世界の私達に会ったんだ」


 ハルは嬉しそうに言った。


「すごいよね。伊織もうーちゃんも。えへへ、私を助ける為にだってさ」


「当たり前だ」


 杜居君は少し不機嫌そうにそう言った。


「俺も……」


 杜居君が口を開く前にハルは掌で口を押さえる。


「次はダメ。伊織は来ても絶対に役に立たない。足手まといだよ」


 わざときつい言い方をしているのが私にもわかる。


 ハルの手をどかして杜居君はハルを睨む。


「黙って見てられるかよ!」


 そのまま杜居君の手を両手で握る。


「見てるんじゃないよ。待ってて欲しいの、今回だけは。私と、うーちゃんが帰ってくるのを」


 言葉に詰まる杜居君に優しく笑いかけるハル。


「杜居伊織の大冒険は9回目からでいいでしょ?」


「……絶対だぞ」


「うん、絶対ね」


「絶対帰って来いよ!?ハルも!天戸も!」


「……うん」



◇◇◇


 その日の夜は、3人でハルの家に泊まる事にした。


 明日が土曜日でよかった。


 今日は絶対に、1人じゃ眠れなかった。


「しかしいいよな。ハルは魔法チートで、天戸は物理チートかよ。なぁ、俺も転移したら何か超チートなれるかな?」


 ハルの話だと、還流術式の影響を受けるのは召喚者だけだから、一緒に着いて来る人には何もなかったはず。


「あはは、何言ってんの伊織。伊織はもう超絶チート持ってるじゃん」


「え、マジ!?いつの間に?」


 ハルはいつものパジャマでベッドに座りながら自分と私を指差して笑う。


「こんなかわいい幼馴染が2人もいるんだよ?チート以外の何者でもないでしょ」


「うわ~、うぜぇ」


「ハルはうざくないわ」


 そんな風に異世界の話をしたり、いつも通りくだらない話をしながら夜は更けた。


「……ハル?」


 ハルはいつも眠るのが早いので、うつらうつらと頭が揺れている。


「んあ?へいき。おきてるよ~」


「大丈夫。絶対、明日は来るわ」


 私はハルの手をギュッと握る。


「いっしょにかえろうね」


 そう言うとハルは大きな欠伸をして、そのまま眠りに落ちた。



 私は、中々眠れない。


「お前は寝ないの?」


 しばらくして漫画を読んでいる杜居君が言った。


「……眠れないの」


「あっそ。そのうち眠くなるだろ。ほれ、マンガでも読んでろ。1巻からな」


「面白い?」


 2人がいつも話している漫画。


「つまらなかったら薦めねぇ」


「確かに」


 取りあえず読み始める。


 まるで異世界ファンタジーのような物語。


 少年と少女が冒険するワクワクするお話だ。


 ゆっくりと頁を進める。


「ねぇ」


「何だ?」


「面白い」


「ふはは、だろ?」


 杜居君は楽しそうに笑った。


 また暫く頁を進めると、漸く睡魔がやってきた。


 小さく欠伸をする。


「杜居君」


「何だよ」


「……行ってきます」


「おう、頑張れ」


 そして、私は眠りに落ち、誰かの救いの声が聞こえる――。








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