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124話 異世界召還システム

◇◇◇


 2・3日ほどして、天戸達は戻ってきた。


 案の定空振りだったとの事で、うーちゃんは悔しそうに帰って来たが天戸は想定内なので涼しい顔をしていた。


「2人とも、大事な話があるんだよね」


 ニコニコと悲壮感無くハルは言い、天戸とうーちゃんは真剣な顔でコクリと頷いた。


 その対比が少し面白かったのでプッと噴出すとハルはジロリと俺を睨んだ。


「何か面白い?」


「いや、別に」




 その日の夜、例の如く4人で泊まっている大部屋でハルは口を開いた。


 元々誰にも伝えられる事は無かった『始まりの勇者・魔法少女ハル』の物語を。



「えへへ、実は私がこの『異界の勇者』システム作っちゃったんだよね」


「そこから!?」


 声を上げて驚いた俺とは対照的に、2人は黙って聞いていた。


「あれ?驚かない?」


 驚かない事が不服だと言わんばかりにハルは首を傾げたが、天戸はクスリと笑って首を横に振る。


「ハルなら不思議じゃないかなって」


「そうね、杜居君もやりそう」


「俺を巻き込むなよ」



 折れた話の腰を繋いでハルは言葉を続ける。


 幼稚園のある日の夜、前触れ無く着の身着のまま異世界に召喚され、世界を救った事。


 他にも転移例はあったのかも知れないが、その頃の召喚術では帰還する方法が無く、ハルは何十年も掛けてその方法を作り上げた事。


「ごめんね、自分が帰る方法を作る為に色々な人たちを犠牲にする術を作っちゃったんだ」


「……続けて」


 天戸はベッドに腰掛けて腕を組んだまま続きを急かした。


 主な開発者はハルともう1人らしい。


 ハルが行ったのは、召喚と帰還の連動制御と、召喚に際して必要な魔力生命力の術内還流だそうだ。


 平たく言えば、喚ばれても帰れるようにしたのと、召喚者・被召喚者の使った力は、次の召喚者に受け継がれるって事の様だ。



 要するに、『つよくてニューゲーム』だ。ふはは、少し不謹慎かも知れないがワクワクする仕組みだな。周回するほど強くなるのか。



「なぁ、『つよくてニューゲーム』は俺には適用されないの?」


「うん、召喚者だけ」


 露骨に舌打ちをする俺を睨む3人。


 四面楚歌って奴だ。3人だけど。


「余計な茶々入れるなら出て行って。邪魔よ」


 天戸の視線が冷たい。


 ハルの話は続く。


 召喚を断れるようにしたのもハルらしい。


 当たり前だが、ハルが召喚されたときの術式は無条件召喚なので拒否など出来るはずが無い。


「でね……」


 と、ハルが話を続けようとすると天戸の嗚咽が聞こえる。


「……うーちゃん。ごめんね?」


 悲しそうな顔で謝るハルに向かって首を横に振る天戸。


「違うの!違うから……」


 うーちゃんは天戸の背中をさする。


 何度か深呼吸をして、涙を拭いて、天戸は口を開く。



◇◇◇


「ずっと、地獄だと思ってた」



 ハルが唇をぎゅっと噛み締めるのが見えた。


「……何百人殺しても、ハルが殺されても、ずっとずっと終わり無く喚ばれる、まるで無限地獄みたいな。ハル、ごめんねって。私悪いことしたかな?ってさ。……杜居くんと一緒に来るまでずっとずっと何回も何回も思ってたんだ」


 話しながらまた涙が出てきたけれど、気にしている余裕なんて無い。


「何で毎日喚ばれるんだろう?断れるわけ無いじゃない。喚ばれた人は死んでしまう。私が死ぬまで続くんだろう……この地獄はって。……私、変なのかも。ハルが作ったってわかったら……」


 涙は止まらない。


「なんてすてきな地獄なんだろうって思っちゃった」


 喚ばれても断れたり、本当はすぐに帰れたり、優しいハルの作った術式に強制力なんてないのだ。


 縛っていたのは自分なのだ。


『術者の生命力はさ、……どうにも出来なかったんだ』と、ハルは言った。


 いろいろ試したが、命以外は召喚の際に消費する対価にはなり得なかったそうだ。



「で、あるんだよな?……このシステムの止め方」



 空気を読まずに杜居くんは言った。


 このシステム……ハルの作った『異世界召還環流術式』の止め方?!


 ハルは躊躇いながらもコクリと頷いた。


「ある」


「条件は?」


 言いづらそうに口ごもった後でハルは俯いた。


「ある。今は言えない」


「ハル」


 杜居くんは珍しく強い口調でハルを呼んだ。


「今以外にいつがあるんだ。やるやらないじゃない、方法を教えてくれ」


 ハルは私とうーちゃんをちらっと見てまた目を伏せた。


 ハルは頭がよく、優しい子だ。


 そのハルが『言えない』という事がどういう事か、さすがの私にもわかった。


「ハル、私は大丈夫。ハルの為なら命だって……」


 枕が飛んできたので左手で受け止める。


「……邪魔しないで」


 杜居くんだ。


「あ・ほ・か!一々重たいんだよ、お前!そんなのでハルの口が(ゆる)むか!北風と太陽しらねーのかよ」


「私は重くないわ」


「セルフジャッジは無意味だ、うーちゃんに聞いてみろ。重いよな?地獄だの命賭けるだの、小学生かっつの」


「私は小学生じゃないわ」


「お前には聞いてねぇ!」


 杜居くんの問いにうーちゃんは非常に言いづらそうにした後で、ハルに助けを求める。


「……ハル、どうしよう」


 その光景を見てハルはプッと噴き出したかと思うと、ケラケラと笑い出した。


「あはは!あー、もー結構重い話してたつもりなのに何?この空気。……伊織、信じるよ?」


「お任せあれ」



 ハルは一度深呼吸をした。


「何て言葉が適切なのかわからないけれど、全ての世界?が繋がっている場所があるの。そこに術式が描かれているから、そこに行って、それを消す。ただそれだけでこの召喚システムは終わるよ。……普通の一方通行の召喚術自体はもう封じてあるから大丈夫だし」


◇◇◇


「全ての世界が繋がっている場所?」


 天戸とうーちゃんは首を傾げた。


 その様子を見てハルは俺を見てきたので、俺はコクリと頷く。


 伝わってるから安心しろ、と。


「異次元ポケットか?」


 ハルはニッコリと笑う。


「半分正解」


 確信を持っての解答にも関わらず50点で軽くがっかりだ。


「……あと半分は?」


「えへへ、異次元ポケット」


「はぁ?」


 俺は天戸を見る。


「ほら、天戸。出番だぞ、言えよ。『説明して』って」


「嫌よ。真似しないで」


「あはは、ごめんごめん。少し意地悪だったね。正確には異次元ポケット……『次元の狭間』を使える人が2人必要なんだ」


 ハルが口ごもった理由がわかった。


 異次元ポケットをハル達は『次元の狭間』と呼んでいて、あれは全ての世界から独立して存在しているようで、ごく限られた者にのみ発現するそうだ。


 俺達の考察通り、完全にチャックを閉めると時間の流れは隔絶される。


 そして、その状態でもう一度『次元の狭間』を開くと、全ての世界の集約点にたどり着けるらしい。


 で、そいつはそこからは帰ってこられない、と。


 俺はうんうんと何度か頷いて天戸とうーちゃんを交互に指さす。


「なるほど、2人いる。そして、そのうち1人はちょうど命知らずだ。天戸、行ける?」


 うーちゃんは驚いたが、天戸は躊躇わず即答した。


「勿論よ」


 俺は溜息を吐き、ハルは苦笑いをする。


「ばーか、そう言うところだよ。ほんとお前さ」


「うーちゃ~ん、そう言うの止めようよ~」


「えっ?何?何で?」



 召還システム自体を止める方法は現実的ではなかった。


 まぁ、でも問題ない。


 俺は世界や見知らぬ人を救いたいんじゃないんだから。




 


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