表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/120

113話 覚えてる?

◇◇◇


『私、()ばれた事があるんだ。うーちゃんより前に』


 ハルの言葉に俺は固まる。


 ハルは、固まって言葉を発しない俺の銅像の顔を覗き込み申し訳なさそうに笑った。



「ごめんね、隠してて」



 いつなんだ?


 天戸より前って……、小5より前か。



 俺は幼稚園からハルと一緒なんだぞ?ほぼ毎日顔を合わせて育ってきた。


 それでも何も違和感なんて感じなかった。……と、思ったが天戸の時だって俺は何にも感じなかった。


 要するに、俺は大事な人たちの異変に何も気がつけていないのだ。



 ようやく鋼鉄化の魔法が解けた俺の首がグルンと動きハルを見たので、ハルは『わっ』と声を上げて驚いた。


「……いつだ?」


 フルーツジュースは空になっていた。


 ハルは空のグラスを指差す。


「おかわりいる?買ってくるよ」



「いつだよ!」



 自分でも何にそんなに怒っているのかわからないが、ハルに大きな声を出してしまった自分が情けない。


 空のグラスは俺の手の中で破片になり、両掌からは血が滴る。


「……悪い、予期せずでかい声が出た」



 ハルは悲しそうな顔で少し笑い、俺の手を取り治癒魔法をかけた。


「血、出てるよ」



 恐らく、最初で最後のハルから受ける治癒魔法。



 淡く、優しい(ほの)かな光を灯すその魔法は、怪我が治る代償として涙腺から涙が流れた。


 ハルはそれを見てまたクスリと笑った。


「泣かないでってば」


 俺は首を横に振り、天戸の真似をする。


「泣いてないわ」


「あはは、似てる」



 この世界に平日休日の分け方があるかはわからないが、平日の昼間から公園のベンチで女子小学生と戯れている高校生男子と言うのは、傍から見るとどう映るのだろうか?


 まぁ、別にどうでもいい。


「伊織と会う前だよ、私が喚ばれたの」


 そう一言言うと、ハルはフラッと立ち上がり売店まで歩いていった。


 俺と会う前って……、幼稚園じゃねーか。


 

 気になる言葉を言いっぱなしで、売店に並びメニューを見上げるハル。


 少しして今度はトレーに乗せて持って来る。



「あは、お待たせ~。伊織のコップ今度は木製だって。割るから」


「それは謝るから早く続き教えてくれよ。気になるところで切るんじゃねぇ」


 よいしょっとトレーを俺とハルの間に置いて、ベンチに座る。


「ふふふ、聞きたい?ミステリアス・ハルちゃんのお話」


 さすが、ハル。うざくてもかわいい。うざかわだ。


「聞きたい聞きたい。ミステリアス魔法少女・ハルちゃんの話。全何話?」


「冗談抜きで長いから、伊織がいる間に分割して話すね」



 そして、ハルはミステリアス魔法少女・ハルちゃんの物語を始めた。


 俺はパチパチと拍手をする。


「何回転移したんだ?」


 ハルは何故か少し恥ずかしそうに頭をかきながら答える。


「えへへ、一回だけ」


 聞こえは悪いが、正直『あぁ、一回か』と思った。


 一回でよかった、と。


 ハルは俺の表情を見ながら言葉を続ける。


「その世界にはね、76年いたんだよ」


「76年!?」


 ほら、驚いたでしょ?とでも言うような悪戯な顔でハルは笑う。


「あはは、危なかったよ~。帰ってこられないかと思ったもん。ジャジャン、ミステリアス天才魔法少女・ハル。第一話『異世界に76年』終わり」



「終わりかよ」



 ハルはふーっと一仕事終えた感を出し、両手でグラスを持ちグイッと飲み物を飲む。


 恐らく乳性飲料。


「私にだって心の準備って物があるんだよ。あと物語構成とかさ」


「……構成はいらねーだろ」


「次回第二話『始まりの勇者』ご期待下さい」


「おいおい、気になる引きするじゃねーかよ」


 正直すぐに続きを問い詰めたい。


 だが、心の準備が要るというのは本心だろう。


 あせらず、ハルの準備が出来るのを待つべきだと思った。


 ハルは立ち上がるとぐぐーっと背伸びをした後で、ニッコリと笑う。


「ありがとね、待ってくれて」

『ありがとね、待ってくれて』


 無駄に念話とのユニゾンだ。


「初めて話したときの事、覚えてる?」


 と、言われて考えるが勿論覚えていない。


 何せ幼稚園からの付き合いだ。


「いや、わからん」


「伊織は幼稚園の頃からゲームばっかりだったでしょ?」


「まぁね」


 無駄に誇らしく答える俺に苦笑するハル。


 今にして思うとゲーム三昧の幼稚園児ってイヤだな。少なくとも自分の子供にはそうなって欲しくない。


「幼稚園にゲーム機持ってきてた事、あったでしょ?」


「まぁね、何度か」


 フフッと思い出し笑いをするハル。


「80年近く異世界にいてさ、竜だ魔王だを倒して、不老術を作って、何とか帰還術を作って帰ってきたの。その数日にさ……『返せよ!俺はあの竜を倒さなきゃなんねーんだよ!』って、聞こえてきたの」


「あぁー、なんか少しうっすらと……」


 ハルは楽しくてしょうがないと言った風に話す。


 幾つか気になるワードがあったが、今はいい。


「思わず振り向いちゃったよ。『えっ、君も!?』って」



 ――思い出した。


 そして、ハルが話しかけてきたんだ。


『私ハル、キミ何の竜倒すの?』


 ニヤニヤと俺の顔を伺うハル。


「伊織何て言ったか覚えてる?」


 思い出した。


 でも、言いたくない。


「……忘れた」


「その顔は覚えてる顔だよ。まぁ、いいや。正解は~……、『女には関係ねぇ!』でした。あはは、ヒドいよね」


「……今は男女平等だぞ?」


 ハルはトコトコと俺の周りを歩きながら思い出話を続ける。


「もうさ、気になっちゃって。イライラして、もやもやして。何なの!?あいつ、って」


 そう、それから毎日ハルは俺に話しかけてきた。


「それで、気がついたら好きだった。あはは、変だよね」



 思わず笑ってしまう。


「そうだな、そりゃ変だ」


 ハルはクルクルと指を回しながら得意気にする。


「でも結果大正解だと思わない?私が好きになった人は、私を助けに……こんな所まで来てくれたんだよ」



 その姿が、声が、仕草が、全てが俺の胸をギュッとする。


 ハルは少し赤い顔でチラッと俺を見る。


「何か言いなよ、恥ずかしいじゃん」


 気を抜くと泣きそうになる。


 顔に力を入れると少しだけ堪えられることを発見した。


「ハル!」


 急に呼んだのでビクッとする。


「はいっ」


「……写真、撮ろうぜ」


 ハルはニッコリと笑う。


「うん!うーちゃんのカメラでも撮ろうね」



 ハルともう一度会えてよかった。


 心からそう思った。

 








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ