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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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104話 明日、忘れないでね

◇◇◇


 ハルの家で志乃さんと杜居君とお寿司を食べる。


 お寿司の後はケーキが出た。


 まるで誕生日みたいにおいしいものばかりが出る。


「……はぁ、お祝いだと思ったのに」


 志乃さんはまだブツブツと文句を言いながら白い乳酸飲料を飲んでいる。


「別にお祝いでいいじゃん。杜居君ただいま記念でさ」


「安全圏に入ったと思うと急に強気になるわね、あなた」


 杜居君はケーキを食べながら私を白い目で見る。


「うるせぇなこいつ」


私と杜居君のやり取りを、懐かしむように微笑みながら志乃さんは眺めていた。


 杜居君はメロンソーダを飲んでいて、私はミルクティー、志乃さんは乳酸飲料を飲んでいる。


 私と杜居君は、今日突然来たにも関わらず。



「お葬式の前には御通夜って言うのがあってさ」


 志乃さんはポツリと呟く。


「故人を偲んで……って言う建前で、皆で棺おけの前で酒飲んで寿司食べて『あいつは生きてる時はああだった、こうだった』って、皆でワイワイやるんだよ」


 杜居君も、私も志乃さんの次の言葉を待った。



「あんた達は子供だったし、あれから杜居君も来なくなったからさ……、やっと今日終わった気がするよ。ハルの御通夜」


 志乃さんは、寂しそうなほっとしたような顔でそう言った。


「あれ?俺のせいって聞こえるけど気のせいだよね?」


「あ、聞こえた?それならよかった。ずっと待ってたって言っただろ?」


「ひでぇ大人だな……」



◇◇◇


「一つ格好つけた事言ってもいい?」


 帰り際、玄関先に見送りに来た志乃さんは言う。


「度合いによる」


「黙れ」


 杜居君の軽口を聞いて少し微笑む志乃さん。


「私は二人とも自分の子供みたいに思ってるからさ。二人が付き合っても、別々の人を好きになっても、どっちにせよ応援してるから」


 杜居君は困った顔で私を見た。


「天戸、あの乳酸飲料さ、サワーだったりする?酔ってんじゃねぇのこのおばさん」


「おばさんって言うな。酔ってるわけ無いだろ」


「杜居君、志乃さんはまだ34歳よ」


「こら、あんたもシレッと人の歳を言うな」


「34…って、俺ら今15歳だろ」


「こら、計算すんな」


 本当、杜居君はすぐに茶化すのが悪いところだと思う。



 上手く伝わらなかった事に首を捻り言葉を加える。


「んー、何が言いたいかって言うとさ。……ハルが望んでるのはあんた達が幸せになることだと思うんだ。自分が原因でみんなが縛られて前に進めないってのは一番嫌がるんじゃないかな?」


「志乃さんは?」


「私はいいんだよ。親だから」


「……そういうもんですかねぇ」


 志乃さんは優しく微笑み、杜居君の頭をポンポンと叩いた。


「そういうもん。あんたらも親になったらわかるよ」


「つーか、19歳の時にハルを……」


「だから計算するなって」


 そして、志乃さんは私にちょいちょいと手招きをして、近づいた私と杜居君をまとめて抱き寄せた。


「おいっ」


 杜居君が赤い顔で抵抗をしようとする。



「二人とも、もうハルの事は忘れていいんだよ」


「ふざけんな」


 私の顔のすぐ横で杜居君の真面目な声がした。


 やや怒気を含むその声に続けて志乃さんは言葉を繋ぐ。


「でもたまに思い出してあげて。楽しいときとか、辛いとき、セミがうるさい日とか、風が気持ちいい時でもいい。……そして、それが段々少なくなって、いつか思い出さなくなっても……きっとハルは喜ぶと思うから」


 優しく語り掛けるその声に怒気を削がれた杜居君。


「……あんたが一番縛られてんだろ」



「そりゃ私は親だからさ」


 私たちの顔のすぐ横で、悪戯っぽく志乃さんは笑った。


「親はいいの。逆はダメだよ?親が先に死ぬのは普通なんだから」


 そう言うと、志乃さんは私たち二人をぎゅーっと抱き締めた。


「うちの三姉弟のさ、残り二人には幸せになって欲しいなぁっておばさんは思うのよ」


「あのさ、一応聞くけど俺が兄だよな?絶対」


「はは、うずめちゃんどう思う?」


「絶対違うと思うわ」


 私達を離すと、志乃さんは私の頬を軽くつまむ。


「ハルに気なんて使わなくていいんだよ?」


 一瞬杜居君の反応が気になったが、特に何も気にしていないようだ。


「何のこと?」


「あの子負けず嫌いだからそう言うの嫌いだと思うけどなー」


 そう言って両手で頬をつまむ。


「はなひて」




◇◇◇


「いや、しかし胸でかいよな志乃さん」


「人の親にそんな事を考えるなんて最低ね」


「いやいや、ただありのままを述べただけじゃん。何も言ってないのにすぐそう言う想像するなんて最低ね、変態」


「真似しないで」


 志乃さんに言われて天戸を送る。


 少しずつだが日は短くなって、蝉も減ってきているように思う。


「ねぇ、明日覚えてる?」


 横を歩く天戸が脈絡無く言う。


「勿論」


 自信たっぷりに言うが逆にそれが怪しかったようで、天戸は目を細めて俺を見た。


「嘘」


「……少しは俺を信じろ」


「信じてるわ」


 俺をのぞき込んでにこりと天戸は微笑んだ。


 何だか少し気恥ずかしい。


「……嘘吐け」


「本当よ?例えば……」


 そう言うと天戸はひらりと一度回り道の真ん中で手を広げる。



「今向こうから車が来たとしても、あなたが平気だって言えば平気だと思えるくらいには」


 側に居すぎて時折忘れてしまうんだけれど、回る天戸に少し遅れて揺れるスカートの裾を見て、天戸の容姿って整ってるなって思ってしまった。


「……じゃあ、お前俺が死ねって言ったら死ぬのかよ」


 照れ隠しに小学生みたいな事を言ってしまったが、天戸は微笑んだまま答える。


「答え必要?」


 何だか調子狂うな、畜生。


「明日、忘れないでね。迎えに行くわ」



 別れ際に天戸がそう言ったので、不覚にもデートみたいだななんて思ってしまった。





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