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第003話 天星樹の記録を灰に 〜決行直前の教会にて〜

「教会に……天星樹の記録が?」


ガルブレイズの焔の瞳が揺れた。


「そうだ。あれは放っておけない。“あの存在”に関するものは、全て灰に変えねばな」


その目に、いつもの嗜虐ではない、妙な執念の色が滲んでいた。


アヴ=グリーマは静かにうなずいた。


「命令を受け取った。教会に潜入し、記録を消す」


「三体、選べ。お前の“影”となる灰兵たちだ。くれぐれも目立たずにな」


アヴは灰兵の中から三体を選び、それぞれに“潜入”“追跡”“工作”の任を振る。任務遂行のため、灰を鎧の下に隠し、人間の姿で街へと向かった。


午後、陽が傾き始めたころ。アヴは城下町の南門に到着した。


門を守るのは、屈強な男だった。眼帯をつけ、無骨な顔。名はグリモ。


一見すると無愛想なその男の目には、鋭い観察眼と、街を守る者としての矜持が宿っていた。


アヴは、やや気さくな笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。


「こんにちは。任務で通行許可を受けたディアス商会の者です」


グリモは無言で書類を受け取り、目を細めてアヴの顔をじっと見た。


「……名簿にはある。だが、気になるな」


「はて、何か不備が?」


「いや……目が笑っていない。だが……」


グリモは鼻を鳴らし、紙を戻す。


「中に入っていい。ただし、余計なことはするな」


「ご忠告、感謝します。では」


一礼し、アヴは街の石畳を踏みしめた。背後の灰兵たちは影のように付き従う。


***


城門をくぐった先の街は、穏やかで活気があった。商人の声、子供たちの笑い声。だがアヴの目には、すべて灰になる光景として映っている。


広場を横切ろうとしたとき、ふと視線が止まった。


「……なんだ、あれは」


石畳の真ん中。岩のような巨体の亀が座り込んでいた。

頭には花飾り。子供たちがその背に乗って笑い、じゃれついている。


「……アホそうな奴だ」


アヴは小さく呟き、視線をそらす。

あれが“まにまに”であることも、その力も、今の彼には関係のないことだった。


その足で、教会へと向かう。

白石造りの大聖堂。荘厳な建築と静寂が、そこにはあった。


受付の若い修道士に声をかける。


「宗教史に関心がありまして。できれば、天星信仰の記録を拝見できればと」


柔らかな口調、礼儀正しい態度。アヴは完璧な“好青年”の仮面を被る。


案内された書庫。石壁に囲まれ、古文書が並ぶその空間で、アヴはすぐに目標を見つけた。


三列目、上段。革装の背表紙に刻まれた文字——「天星樹」。


——位置、確認。


そのまま書庫を離れようとしたとき、通路で誰かとすれ違った。


黒髪を帽子に隠し、静かに歩く少女。ナギだった。

だが、アヴは彼女を知らない。視線は交差せず、気配だけがすれ違う。


宿に戻ると三体の灰兵にアヴは低く、簡潔に命じる。


「教会書庫にある“天星樹”の本をすべて燃やす。一片も残すな」


灰兵たちは無言でうなずいた。


「他の文書にも火を放て」

「ただし、大火にはするな。煙が出始める頃には、俺たちは脱出をおえていなくてはならない」


再び、うなずきが返る。


アヴの目が夜の闇の中で血のように光った。


「……決行は、今夜だ」


街に夜が訪れ始める。だが、その静けさの下には、静かに広がる“灰”の気配があった。

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