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安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
人生で、一番長い二日間
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新たな遭遇


「は~! 語った語った!」

「大分話してたね」


インド料理店を出る。

時刻はもう17時を過ぎていた。

○×キュアといい実写映画といい、彼女の意見は為になる。


なにより、同じ映画の感想をこうして言い合えるのがこんなに楽しいと思わなかった。あの地獄もこう思えば良い物……ではないな。



「俺、あの原作小説買って帰るから。ここでお別れかな」

「え……凄いね東町君。そこまで追うんだ」

「アレで終わる原作の方が可哀そうだと思うから、というか気になったし」

「あはは~、まあ確かに」



夕日が初音さんを照らす。

普通に喋ってるが、昨日の俺に今の状況を言っても信じないだろうな。



「うん。じゃ――」

「……ね。今度、家にあるDVD貸そうか~?」

「え?」

「その、一気に三回も映画見に行くのはさすがに厳しいと思うし。わたしんち、家族で映画好きだから~、DVDとかいっぱい持ってるの」


そう言う彼女。

……これは現実か? 女子とDVDを貸し借りする関係に?


「初音さんが良いのなら。ぜひお願いしたいね」

「もちろん! じゃあまた持ってくるね~! ばいばーい~!」


満面の笑みの初音さんが、手を振って別れてくれる。

おいおい好きになっちゃうよ(勘違いクソ野郎)。


……本買いに行こ。



《くまくまブッククラブ》


駅前。

デカい本屋さんがあるので、そこに足を運ぶ。


元々ココには行くつもりだった。

何故なら、俺の趣味についての本をかき集める為だ。


【インド料理入門】

【ダンス入門】

【折り紙100種】

【一流バリスタへの道】

【実写化映画の原作小説】


「おっも……」


流石に本五冊は結構な量である。

我ながらジャンルに統一性が無さすぎ。


でも仕方ない、新たな自分の為だ。


「……お願いします」

「ぁ……!」


レジにその本を持っていく。

ドサッと、重量感のある音。


それに紛れて――目の前の店員さんが、小さく声を上げたのが分かった。


「?」

「あ」


あ。

椛さんだ。長い前髪で分かった。

ここで働いてたんだな。


「お預り、します……っ」


一点、二点。三点――会計をする彼女の手は、見てわかるぐらい震えていた。

……つら!


何というか、初めてこの虹色のデメリットが出たな。

中身はただの陰キャクソザコワンパン即オチ野郎だから、本当に舐め腐ってもらって良いんだけど。


「っ、お会計、7191円に、なります……」

「ああ、はい」


よりにもよってこんなお釣り出る金額だし。

勘弁してくれ――あ。


財布の中一万円札しか無い(地獄)。

さっきのインド料理店で千円札に小銭全部使いきったんだ(奇跡)。


……勇気出して声掛けてみるか。

なんせ俺は、さっきまでクラスメイトとご飯食べてたんだぞ……!


「一万円、お預り、します」

「ごめんね椛さん。手間かけちゃって」


「!?」

「え……」


そんな驚く? クラスメイトだぞ俺。

あっ覚えてなかったかな。

この髪色が目に入らぬか(陰の水戸黄門)。


「……お釣り、6000円と……809円です」

「うん。ありがとう、でもお釣り違うね」

「ぁ……」

「4000円返すよ」


最後の方は手の震えはましになっていた。

あのままじゃ小銭がぶっ飛んでしまう危険があるからね。


見れば、彼女の制服には『研修中』の名札があった。

通りで慣れてないわけだ。


「……ど、どうぞ……っ」


手渡された紙袋を受け取る。


教室でも静かだし、あんまり友達と話したりしない。

休み時間は図書室。こうしてみると共通点が多い。


「最初は辛いけど、大丈夫だよ」

「……!」


地の底の俺と同類なんて言わないが、そんな彼女を見ると応援したくなる。


俺も初めてキュウリを機械に突っ込むときは緊張した(工場バイト並感)。


でも意外と慣れる。案外、労働は続ければ楽になるから。


「仕事、頑張ってね」


だからそう声を掛け――レジから出た。

帰りの電車では、早速この本を読もうか。


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