草原で僕が見たモノは髪を洗うオユンと…
一一一あっ。母さん。
一一一えっ?どこに?
僕ら以外誰もいないょ。
慌てて、おんぶ紐を解きオユンとサロールは服を着た。
一一一早く立ち上がって‼︎
そう言いながら大きな風呂敷の真ん中に荷物を集めて僕の背中に背負わせた。
一一一早く乗って‼︎
オユンはサロールを自分の胸に抱き
おんぶ紐で括る。
そして僕を後ろに乗せる。
一一一母さんと目があったら
「オボー」とだけ言って。
一一一えっ?ナニ?
一一一「オボー‼︎」
一一一それってナニ?
一一一いいから‼︎‼︎
振り向くと
目の前にお母さんと真っ黒な馬が
何処からともなくやってきていて
オユンは睨みつけられていた。
僕は2人の視線に割って入り
お母さんに向かって
一一一「オボー…… オボー、オボー‼︎」と連呼した。
一一一帰るわょ。あなた私の後ろに乗りなさい。
言われるがまま
僕はお母さんの馬に移動する。
オユン以上の疾走と
エッジの効いた手綱捌き
この人たちは一体何者なんだ⁉︎
驚きでさっき覚えた
「オボー」が頭から消えかけた。
小石がうず高く
均整を保ちながら積み上げられている
不思議な塔の前に立ち
「ほれっ。これがオボーだょ」と
振り返って僕を見る
そして
馬から降り
オボーの周囲を時計回りに3度回り
ウオッカを備えた。
オボーとは
幸運を祈願する祭壇だと言うことを知らず
僕はご先祖様に手を合わせていた。
お母さんは
墓参りをしている
トンチンカンな僕をみて
初めて笑顔を見せてくれた。
オユンはその様子を
白い馬に跨って眺めていた。
***
ゲルに戻り
お父さんから
明日のコンサートの話を聞く。
どうやら僕は
飛び入りゲストだそうだ。
さっきお父さんに聞かせた
「中国の太鼓」を一緒に弾くことにした。
一一一あと一曲は
明日の気分で決めてやってくれ!
私もその日の天気(すなわち気分)で
やるから。
そう言って一本欠けている前歯を出して笑った。
一一一オユンや。
彼とビールを買いに行ってこい。
馬乳酒はダメなようだから。
一一一お父さん。
オユンはサロールのお守りがあるから
行かせませんよ。
ドルジあんたの馬で行ってきて。
ドルジの馬は少し小さく愛らしい
僕をじっと見つめて
乗ってもいいょと言ってきた。
「ありがとう」の代わりに
僕は自分の頬を馬の首に擦り付けた。
***
隣村の小さな商店でビールと
ビーフジャーキーと
サロールのお菓子を買った。
馬に乗る前
スマホを通訳にドルジに
あれこれ聞いてみた
一一一ねぇオボーってお墓?
一一一ううん。祭壇。
願い事をする為のもの。
お供えをして。
母さんはオボーが好きだよ。
草原に小石が積み上がって
塔になっているその風景に
観光客が感激する姿を見る事が
また好きなんだって。
誇らしいんだって。
それから
あなたとオユンが遠乗りをしたのが気になって
仕方なくて探しに行ったみたいだった。
一一一悪いことしたな。
ご主人のいる人と。
「……… 」
急にドルジは喋らなくなった。