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cello弾くgy〜モンゴル1  作者: コンキリエ
2/11

モンゴルの初めての夜は星屑だらけ。

円形のゲル(移動式住居)の玄関を入ると

壁際にぐるりとベッドが5台設置されている。


僕は上手く歩けない状態(長時間の馬上旅の為)で

この家の主が腰掛けているベッドの前に

膝をついた。

少しフワッとしたその床は

地面に草食動物の乾燥した糞を敷き詰め

その上に羊のフェルトが敷かれていた。


「初めまして。gyです」


初めて使うモンゴル語に

気持ちを込めた。


僕は

この国の人達は

表情が固く

知らない人には簡単に

ニッコリなんてしないだろう

そう決め込んでいた。


だから

こっちからたっぶりの笑顔を向けて

反応を見て見たかった。


するとどうだろう。

主(お父さん)は

僕の手を握り

その甲を摩りながら

自分の隣に僕を座らせた。


そして

自分の妻(お母さん)に

湿布のようなモノを持って来させ

僕に

ズボンを脱ぐようにと指示をする。



素直に従うと

太腿の上前・膝の後ろ・スネに

それらを懇切丁寧に

お父さんが貼ってくれた。


そして

その一部始終を眺めながら

白馬のなその人は

お茶を啜っていた。



 


カシャっ‼︎

 




シャッター音が不意をつく。


茶色の馬に跨っていた少年が

ヨレヨレになった僕を

携帯電話で写す



そう。


今やモンゴルは何だってある。


しかしながら

観光客の意識は相反し

不便さを

非日常を

味わいたがる。


僕もそんな1人だ。


そして

待ちに待った(?)その時はやってきた。




目に染みる程の

レトロな湿布の臭いに包まれた僕は


ずっと我慢していた

尿意が限界に達したのだ。



股間を押さえて

ベッドから立ち上がり


僕をファインダー越しに眺めていた

少年の肩を引っ張り外に出た。


ゲルの外に仮設のトイレがあるはずだ。

どこにある?



少年の肩を揺らすが返事はない。


一一一頼むょ。どこだょ。トイレ。

おいっ‼︎



少年はニヤっと笑い



ここ。と足元を指差す。


その後


「この辺ぜーーんぶで、どうぞ」と

両の手を目いっぱい広げた。



そう。

こうでなくちゃ。


心のどこかが痩せ我慢をしていたし

仮説トイレを探してもいたが

猶予はなかった。

それでもなるべくゲルから遠ざかり

 


僕は解放された。



手を洗おうと

小川に腰を下ろして驚く。


満点の星を

この手で掬ったから。


***


草原のど真ん中で

スッキリとした僕


手元の掬い上げては消えてしまう

小川に映し出された星屑と

見上げればどこまでも広がっている星屑を


1人で眺めていると少し怖くなった。


「地球じゃないみたいだ」


振り向くと暗がりの中

少年が懐中電灯を自分の顔に当て

白目を剥き出した。


どこの国も

懐中電灯は同じ事をさせる。


ゲルに戻と

遅い夕食が始まった。


「羊の塩茹スープのうどん」


ゴロゴロとブツ切りにされた羊の肉を

岩塩で煮込んだスープが

打ち立てのうどんにたっぷりと注がれて

その上に

ブツブツと研がれていないであろう包丁で切ったネギが

パラっと掛けられていた。


モンゴルの言葉が分からぬ僕は

韓国語で優しく「美味しいょ」と

お母さんと白馬のその人に頷きながら言う


骨付き肉を綺麗にしゃぶって

お父さんにほめられた。(たぶん)


兎にも角にも腹が減り

こう言っては何だけれど

味も減ったくれもなかったのだ。

出来れば持参した豆板醬やコチジャンのチューブをたっぷり搾り出したいところだったが

コレは礼儀に反するだろう。


しかしながら僕の国の味付けは

独特だなと世界を歩いてそう思う。



食後


少年と

白馬のその人は

それぞれのベッドに入り

携帯や

一昔前に流行ったゲーム機を触っている


僕はお父さんと

馬乳酒で一杯。


馬の乳を発酵させた

この酸っぱい乳酸菌の酒は野菜を食べないこの民族の為のものと言っても良いくらい。子供も飲むそうだ。


これまた美味しいとは言い難いが

酌み交わすコトが楽しくて好きなんだ。


幾ら飲んでも酔わない酒に

腹が急に悲鳴をあげた。


また少年を連れ出して

さっきより遠いトイレまで懸命に走る。

 

  ***


小川の淵に腰を下ろし

膝を抱えてうずくまり

腹痛が遠のくまで

水を眺めていよう。

もう走るのはごめんだ。

 


丸まった僕の背中に


子供の泣き声が突き刺さった。


恐る恐る振り返ると

 


白馬のその人が

1歳ほどの女の子を抱き

僕の後ろに立っていた。


漢方薬を一包とペットボトルの水を

僕の傍に置き


立ち去ろうとした時


「sister?」と声を掛けた。


すると


「daughter。」と直ぐに返事があった。



何だろう

YESしか

YESしか考えていなかった。

 


胸がざわっとして

がっかりとして

腹の痛みを忘れてしまった。

 



僕はおもむろに足下の草をちぎって手のひらに乗せ

女の子の顔の前に

フゥーっと吹いてみせた。


そう。

動揺しているのを隠すために。

 



ケラケラと笑う女の子をじっと見つめて


「僕の名前はgy。きみは?」英語で聞いてみる


「娘はサロール。私はオユン。弟はドルジ。」


何だろう

今度は

ドルジが息子でなくて

ホッとしている僕がいる。





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