05.迫る影
05.迫る影
「じいや」
あまりにも懐かしい姿に思わず叫んでしまった。
そこには私が知る、いや私の前世が知っている王の教育係にして侍従長のじいやがいた。
セバスチャン・コーラルライト男爵。スパーダ王の幼少期からの教育係で昔からグレイヘアだったため
30代そこそこでありながら爺や呼ばわりされていた気の毒な人だった。
幼いころの剣王スパーダはワンパクと言えばかなりオブラードに包んだ言い方であり、野生の獣のようなものだった。
その野生動物をひとかどの人物に育て上げたのはセバスチャンの尽力に他ならなかったと思う。
剣王スパーダもそれは十二分に理解しており、口では「いつもいつも口うるさいジジイ」などと罵っていたが、彼のことを親のように慕っていた。
彼のもとで帝王学を学び、剣技を学んだ。いわゆる最初の師匠の一人であった。
幼少の際にすでにその際を花開きつつあったため、あっという間に剣技の才はセバスチャンという師を乗り越えてしまったため、セバスチャンはあっさりと剣技の師としての役割を他者に譲っていた。
侍従長としては王の意をよくくみ取り先回りして事をなしていることが多かったが、王のためにならないと判断した際はかなりはっきりと苦言を呈してきていた。王にとってほぼ唯一の師かってくれる存在でもあった。
そんなセバスチャンのことをうるさいジジイと言いつつも一番の理解者として慕っていたものだった。
そう言えば、政治に関しては一切口をはさんでこなかったセバスチャンが魔術師団長の登用の際にだけはきな臭いやめておいた方がよいのではないかと進言されたなあ。結局その魔術師団長がクーデターをそそのかす魔の国の手先だったのだが。
わたしが知る限り、いや前世の記憶の限りではもう少し精悍で矍鑠としていたイメージだったのだが、すでにグレイヘアというよりホワイトヘアという状態であり、剣王スパーダがクーデターで死んだときにはすでに70代に突入していたのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれなかった。
あのクーデターからどのくらい年月が経ったのだろう、セバスチャンがこうやって元気に私の前に立っているということは百年後だったなどということはなくて、多くても数年といったところのようだ。
クーデターのときは確か領地の娘夫婦のところに休暇で出していたのだったなあ。
あの場にいたら必ず巻き込まれていただろうから不幸中の幸いといってよかったと思う。
それでも懐かしくも親とも慕った爺やの姿を見て優しい気持ちになって見つめてしまっていた。
それにしても何故ここに、杖の国に、しかもこの家にいるのだろう?
剣王スパーダはあまり慕われるような王ではなかったと今の私は知っている。それでも幼少期から王を支えて仕えてくれていたセバスチャンは、国王派の最右翼といってよかった。侍従長として城の侍従や使用人など貴族や平民をよく統率していた。
その結果、不利益を被って追放でもされてしまったのだろうか?
もう少し爺やの顔がちゃんと見たくて、ベッドの脇まで高速寝返り移動をして出来る限りお行儀よくおすわりをした。
さっきのお父様の話ぶりだとこの家に仕えてくれるみたいだけれど、一国の侍従長まで上り詰めた人間に何が起こったのだろう。
にわかに心配な気分になって爺やを見ていた。
「クラウス様、私のわがままを少し聞いてはくださらぬか?」
突然爺やがお父様に提案していた。お父様は続きをどうぞと促すそぶりをしている。すると
「我が忠誠と残り僅かなれど我が人生を若様いや、お嬢様に捧げます。どうか不詳セバスチャンを臣下にお加えいただけないでしょうか。今度こそ、今度こそは主を守り切って見せる」
セバスチャンが涙をぼろぼろとこぼしながらとんでもないことを誓い始めた。
これは私を横で支えてくれているお母様に忠誠を誓っているのではなくて、わたしに対してよね・・・わたしが剣王スパーダの転生だってバレたの!?
「我が残りの生涯をかけてお嬢様に教育をさせていただければ」
バレてるのかなあ?さすがにそんなはずないよなあ、とりあえずこんな時は渾身のあざと笑顔!にこにこりん!!
「レナはどうやらコーラルライト男爵のことが気に入ったようだね。どうだろうクラリッサ、もともとコーラルライト男爵は家令をやっていただく予定だったのだが、レナの教育係もやっていただけるのであればこれほど素晴らしいことはないと思うんだ。何といっても彼は剣の国の王族の教育係で侍従長を兼任されていたのだから」
「クラウス様、それ本当に素晴らしいことだとは思いますがよろしいのでしょうか?」
「これは私のわがままです、そしてクラウス様に受けた恩を返すためでもあります。主を失った無能者ではありますが粉骨砕身お嬢様にお仕えいたしますのでどうか、どうかお願いいたします。」
「そこまでおっしゃっていただけるなんて、もともとコーラルライト様に仕えていただくなんて我が家にとって過分ともいえるもの、ぜひレナの教育係として我が家の家令として働いていただければ本当にうれしく思います。レナあなたもそうおもうわよね?」
そんなの当り前だ、爺やは最高の教育者で、最高の爺やだ、ちょっと口うるさいけれど本当に私のことを心配し大切にしてくれていたのだ。
お母様やハンナ、お父様が新しい家族なら、爺やは前世での大切な家族だ。
わたしは家族を守るって決めた。だから爺やだって同じだ。
わたしはどんなになっても手を伸ばす。そういう決意をもってしっかり頷いた。頷いてしまった。
爺やは騎士式の臣下の礼をとった。それは私に対してなのか私を抱っこしたお母様に対してなのか。
間違いなく私に対してだよねえ、まだ赤ん坊の私に何を期待しているのやら。
「我が身命を賭してエスペリア子爵家並びにレナ様をお守りすることを、神獣様にお誓い申し上げます」
爺ったら神獣に誓約をしてしまったわ、しかも気が付いているのかしら目の前に二柱もいる状態なのよ。こんな状態でこんなことを言っちゃうと逃れようがないわ大丈夫なのかしら。
そうねだからこそ私もしっかりしないとね、
改めて気合を入れなおしていると余計なところに力が入ってしまいオシメが・・・あゝしまらない。
きりが悪かったので少し短めですが投稿しました。
赤ちゃん編もクライマックスです。