九話
ジルの婚約者になり三年が経った頃、ジルはついに魔力を体内に収めることが出来るようになり、ローズと外に出て庭を散策したり、馬に乗って出かけたりということもするようになった。
この三年でジルはローズとほぼ変わらない身長となり、その性格も、昔の可愛かったものから少しずつ変わってきていた。
そんなジルは、未だローズの事をメイドと思っており、今更ながらにどうはなしたらいいものかとローズは悩んでいた。
早朝、いつものようにジルの部屋へと訪れたローズは手慣れた様子でカーテンを開け、そしてまだベッドの上で寝息を立てるジルの所へと向かう。
寝顔は相変わらず天使のように可愛らしく、ローズは朝の日課である頭を撫でると言う行為を未だに続けていた。
この三年でジルとローズはかなり親しくなっており、ローズの中には確かな愛情が育っていた。
「ふふ。寝顔は昔のままね。」
つい可愛らしくて、額にキスしようとしたところでローズはジルに腕を掴まれると、ベッドの中へと引きずり込まれた。
突然の事に閉じていた目を大きく見開くと、ジルが楽しそうに笑みを浮かべ私の事をベッドに押し倒していた。
「ローズはいたずらっ子だなぁ。男の寝こみを襲うなんて、大胆~。」
その言葉にローズは目をさらに見開き、そして顔を一気に赤らめた。
「ジ・・ジル様!お戯れはおやめくださいませ!」
すると、ジルは肩をすくめた。
「先にお戯れをしたのはローズだろ?言っておくけどさ、僕だっていつまでも子どもな訳じゃないんだから、ローズはもっと警戒心を持たないと。」
その言葉にローズは唇を尖らせると言った。
「ジル様。私はジル様をそのように軽薄な男性に育て上げた覚えはございませんが?」
「またそんな可愛い顔して、ローズはもっと男というものを知った方がいい。僕以外の男の前でそれやっちゃダメだからね?」
「ジル様!私はジル様のメイドでございますよ!?いい加減になさいませ。自分のお立場を分かっているのですか?」
ジルはその言葉に苦笑を浮かべると、ローズの前髪をかき上げて額にちゅっとリップ音を立ててキスをした。
ローズは突然の事に何が起こったのか分からずに呆然としたのちに、わなわなと震えはじめると、瞳いっぱいに涙をためて声を荒げた。
「ジル様!!」
ジルはペロリと舌を出すとローズの上から飛びのいて、枕を投げつけてくるローズの反撃もひょいと避けると扉から顔を出して言った。
「食堂に先に行っているよ!ははっ!ローズ顔真っ赤だ!」
ジルはこの三年で変わった。昔は可愛かった。今は、いや、今もウソ偽りなく可愛いのだが天使から小悪魔になったのである。
ベッドの上で悶絶するローズに、扉から中の騒動を聞きつけて入ってきたメリーは苦笑を浮かべた。
「ローズ様。お早目に自分は婚約者だと名乗り出た方が良いのではないですか?・・その、ジル様はローズ様を慕っておられるようですし、早めに教えて差し上げた方が・・・」
「メリー!あれは子どもの戯れよ!もう!もう!最近生意気になって悔しいったらないわ!」
顔を真っ赤にしながら怒る姿に、メリーはくすりとほほ笑むと言った。
「とにかく、お嬢様もお早目に食堂へどうぞ。いつものようにきっと、ジル様がお待ちになってますよ。」
「ええ。・・・はぁ、何だか朝からどっと疲れたわ。」
ジルとローズの微笑ましいやり取りは使用人らにしてみれば和む光景であり、ジルが呪われているというのを忘れそうになるほどであった。
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