八話
黒い部屋の一室にて、宮廷魔術師達はジルから抜き取った呪いの一部を見つめながら声を上げた。
「これは・・」
「まさか。だが、これが本当にそうなのであれば!?」
「ダメだ。これは我ら以外に漏らしてはならない。・・・下手をすれば、国に混乱を招きかねない。」
「ですが、事実ならば・・・放っておくことは出来ません。国王陛下に報告すべきでは?」
「証拠がない・・・これはあくまでもまだ可能性の一つだ。」
「では、いかがなさいますか。」
「確実な証拠がない以上・・・これ以上どうにもできぬ。」
呪いの術式を解読していった先に見えたのは予想だにしない事実であった。魔術師らは心を決めると今までの研究成果を全て燃やし尽くした。
だが、それはつまりジルの命を救う事を諦めたという事。
決してそれは許される事ではない。だが、魔術師らはそれを決め、呪いの解読をやめた。
「国王陛下には、呪いは解呪不能であると説明をしよう。」
「あぁ。混乱を招くわけにはいかない。」
暗い部屋がさらに暗く感じる。魔術師らも決してジルの事が嫌いで今回の決定を下したわけではない。国の為、ひいては国民の為に決断したのだ。
そんな、自らの運命を生と切り離される決断をされたジルはというと、ローズと共に今まさに死闘を繰り広げていた。
「ジル様、今日という今日は負けませんからね。」
「ふふ。ローズは負けず嫌いだな。僕は負けないけどね?」
机の上には、王族のたしなみである仮想ボードが置かれ、そこにてジル軍対ローズ軍の模擬対戦が行われていた。
かれこれ一時間、二人は睨み合いを続けていたのだが、最終的にジルに圧倒的大差で負けたローズは頭を押さえながらちらりとジルを見た。
ライアンには負けた事のないローズが、ジルの手のひらで転がされる。
少しずつ、ローズは心の中にとある疑問が渦巻いていっていた。
高い魔力。並外れた頭脳。それはライアンを凌ぐと言っても過言ではない。
まだ十歳の、そんなジル。現段階でライアンよりも優れていると言わざるをえない。
優秀すぎる王弟というのは、難儀なものだ。諍いの原因にもなりかねない。だが、何故今その諍いがうまれていないのかと言えば、ジルが呪いを受けたからである。
呪いのおかげでジルはその能力を発揮することなく、ここに閉じ込められている。
療養地とは名ばかりで、ここはジルにとっては監獄のようなものだ。
暗くなり、ローズはジルがベッドで眠ったのを確認すると、部屋を出て自室へと戻る。机の上には執事より届けられた、手紙が乗っている。
手紙を開き、ローズはないように目を通すと大きくため息をついた。
立ち上がりテラスへと出ると、暗い夜空に輝く月を見上げながらまた息をつく。
夜の風がローズの髪を優しく撫でていく。穏やかな夜のはずなのに、ローズの心の中は酷く荒れていた。ローズは手紙を魔力を使って燃やすと、部屋へと戻り覚悟を決める。
まずは、ジルの魔力をどうにかし、その上で、これからの事を考えなくてはならない。
ローズはジルの婚約者として彼の為にこれから生きていくことを、改めてこの夜誓ったのであった。
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