七話
私はメイドとしてジルの世話をするようになってからしばらく経ち、やっとメイドの仕事にも慣れてきた。とはいっても、私がすることはメイドのまねごとであり、ジルの服を着替えさせたり、食事を届けたり、部屋を掃除したりとそこまで大変な者では無かった。
そして私自身もっとも驚いたのは、この生活は、意外と悪くない。
小鳥のさえずりの聞こえる早朝、ジルの部屋を訪れ、ベッドにまだまどろむジルの傍へと向かう。
寝顔は天使のように可愛らしくて、つい最近はジルが起きないのをいいことに、その可愛らしい寝顔を眺めながら頭を撫でるのが日課になっている。
至福の時間である。
ライアンの婚約者であった時には、こんなに穏やかな時間を過ごしたことはない。いつも何かしらの事件をライアンが引き起こしたり、問題を押し付けられたり、妃教育で忙しい中をさらに忙しくするのがライアンの仕事のようだと愚痴をこぼしたのは一度や二度ではない。
「ジル様の傍は・・・本当に居心地がいいわ。」
こんなにも穏やかな気持ちでいられるのはジルのおかげだろう。未だに私が触れることには戸惑いを見せるジルだが、少しずつ距離が近くなって行っているのを感じる。
何より、可愛らしいのだ。
ライアンと違ってちゃんと会話は出来るし、気遣いも出来る。
その上可愛らしくって癒しをくれるジルの婚約者となれたことは、私にとっては幸運なことだった。
「うぅーん・・・」
寝返りを打って、瞬きをし、そして目をこすりながら起き上るジルの様子を眺めながら頬がにやけてしまう。
「ジル様。おはようございます。」
「・・・ローズ。おはよう。」
少し寝ぼけている時のジルは、たれ目になっていて、欠伸をすると大きな瞳には大粒の涙がたまる。一つ一つの動きや仕草が可愛らしく見えてしまうのだから不思議なものだ。
私は朝の身だしなみのを手伝い、そしてジルが顔を洗いに行っている間に朝食の準備を進めていく。
使用人によって廊下に準備された料理を部屋へと運び込み、机の上へと並べていく。
ジルは準備を済ませると椅子に座り、ちらりと私を見た。
「どうかされましたか?」
す尋ねると、ジルは視線を朝食へと移し、小さな声で呟いた。
「僕も・・・久しぶりに誰かと一緒に食事がとりたいんだ。」
その言葉の意味をどうとらえたらいいのか、きょとんとしているとジルは見る見るうちに顔を赤らめていき少し怒ったような口調で言った。
「だ、だから!ローズ。命令だ。その・・朝はここで、僕と一緒に・・食事をとってくれないか?!」
思わず目を丸くすると、すぐにジルの表情が見る見るうちにしょぼんとしおれていくように変わり、視線を泳がせながら、潤んだ瞳を向けられる。
「嫌・・・か?」
「まさか!とっても嬉しいです!」
思わずその可愛らしい顔に負けて大きな声を出してしまった。すぐに咳払いをして、令嬢としての表情を取り戻すと言い直した。
「私のようなものがジル様と共に食事をすることは本来ならば許される事ではありませんが、ですが、ジル様が望まれるのでしたら喜んでお受けいたします。」
その言葉に、みるみるうちにジルの表情が可愛らしく花が咲くように変わっていく。
私は心の中で悶絶をする。
可愛らしすぎる。一体どこのだれがこの可愛らしいジルを蔑んだ目で見て追い詰めたのだと心の中でそうした大人達を呪いたくなる。
ジルの魔力の不安定は、呪いの影響もあるかもしれないが恐らくは心の不安定さからくるものが大きい。ここしばらくで私はそれを感じ、一向に部屋よりも魔力が抑えられないのは、まだジルが他人を拒否しているからなのだろうと思う。
少しでもこのまだ幼い婚約者が、心が安らげばいいなと、私は思うのだった。
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