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呪われた年下王子の婚約者 ~王子はメイドと勘違いしているようです~  作者: かのん


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三十八話

 魔道具が完成すると、すぐにローズは王宮へと呼ばれ、サリーの体から魂を引き離す儀式が行われる事となった。


「本当に、上手くいくかしら・・・」


 不安げなローズの肩にジルは手を置くと、優しげに頷いた。


「大丈夫だよ。」


 ローズの体は寝台の上へと寝かされており、自分の寝ている姿を見ると言うのは予想していた以上に不思議な気持ちがした。


「私・・ずっと眠っているのね。当たり前だけれど。」


「うん。でも、やっとだ・・やっとローズを取り戻せる。」


 ローズの体の横に並ぶように寝転がると、イラットが腕輪の形をした二つの魔道具を掲げ、呪術師長が呪文を唱え始める。


 青白い光がローズとサリーの体を包み込み、そして、黒色の霧が二人の体からゆっくりと現れると、腕輪の中へと吸い込まれていく。


 呪術は悲鳴のような、風鳴りのような音を立てながら、腕輪へと収縮し、そして最後にはまばゆい光を放って、魔道具の中へと納まった。


 ジルは祈るようにその様子を見つめ、そして、光が収まった途端に、ローズへと駆け寄った。


「ローズ!ローズ!」


 白く、血の通っていなかった頬に、うっすらと桃色に染まっていく。


 ジルはぎゅっとローズの手を握ると、冷たかった手が、少しずつ温もりを取り戻す。


「ローズ?・・・ローズ!」


「・・はい。」


 ゆっくりとローズの瞳が開き、ジルを見つめると、にこりと微笑みを浮かべた。


「ふふ。・・泣きそうな・・顔を・・していますよ?」


 久しぶりに声を出すからか、ローズの声は少しばかりかすれていた。そんなローズを見て、ジルは瞳に涙をためると、ぎゅっとその体を抱きしめた。


「ローズ・・・・おかえり・・・」


 小さなその声に、ローズはジルを抱きしめ返しながら頷いた。


「ただいまかえりました・・・。サリーは!?」


 サリーは寝息を立てており、どうやら未だに眠っている様子であった。


「おそらく、しばらくは体力を回復させるために眠り続けるかもしれない。」


「そう・・サリー。早く起きてね、貴方とたくさん話がしたいわ。」


 そんな二人の様子を、イラットはほっとした様子で見つめるが、すぐに呪術師長と共に部屋を出る。すぐにでもこの魔道具を使用しなければ、封じた呪術が発動しないとも限らない。


「急ぎましょう。」


「はい。」


 二人は廊下を足早に通り過ぎると、階段を下へ下へと降りていく。


 そして、静かな、地下牢へと降りると、牢の鍵を開けた。


 そこには、無機質な石のベッドに寝かされる二人の姿がある。


 一人はエミリ、もう一人はライアンである。二人は意識のない眠らされた状態でこの場に運ばれ、そしてイラットと呪術師長の手によって、魔道具をその腕にはめられる。


 かちゃりと音がした事をイラットは見つめほっと胸をなでおろすと、部屋に仕掛けられている転移の魔術を発動させた。


 王城という場に出来るだけこの二人を留まらせたくはない。


「では、後はよろしくお願いします。」


「はい。」


 呪術師長は頷き、二人と共に転移の陣へと入り、その姿を消した。


 イラットはその場に座り込むと、大きく息をついた。


「よかった。無事に終わった。後は、ローズ様とサリー嬢の健康診断をしなきゃ・・ふぅ!よし、もうひと踏ん張りだ!」


 自分を鼓舞すると、イラットは立ち上がり、階段を上る。


 

 呪術師長は、転移した塔で小さく息をつくと、鉄格子のついた窓を開き、外の風を部屋へと引き入れた。その時、呻き声と共に、エミリとライアンが目を開いた。


「こ・・ここはどこ?・・ちょ・・・ちょっと!ここはどこなのよ!」


 エミリの悲鳴様な声に、ライアンは目を丸くすると、エミリをじっと見つめて、エミリを抱きしめた。


「エミリ!会いたかった!あぁぁ、君にもう一度会えるなんて、本当に・・本当に・・・」


 涙を流しながら抱きしめられ、エミリは混乱しながらも呪術師長へと視線を移した。


「ど・・どういうことなの!?」


 呪術師長は、静かな声で言った。


「お二人は、この塔での幽閉が決まりました。腕に嵌められた魔道具は外すことは叶いません。」


「は?・・な・・なにこれ・・・体の中から・・力が抜ける・・・何よこれ!外して!」


「エミリ!あぁエミリ。もういいじゃないか。二人でいよう。ずっと一緒に。永遠に。」


「はぁ?いや、嫌離して!」


 ライアンはまるで子どものようにエミリを抱きしめ、離さない。


 ライアンとエミリの体からは大量の魔力が奪われ続けていく。髪の毛の色が薄れ始め、体が思うように動かなくなっていく。


「私は責任を取り、最後まで貴方方の面倒をみましょう。では、部屋の外にいますので、何かあれば声をかけて下さい。」


「ちょっと待って!待ってよ!」


「エミリ・・・ずっと一緒だよ。」


「ライアン?ちょっと、貴方おかしいわよ!ねぇ、ライアン!」


「・・・ふふふ。ずっと一緒だよ。」


 ライアンの瞳はすでに正気を保っていない。エミリはその姿にぞっとしながらも、ライアンの腕の中にいるしかできなかった。


 塔の扉は固く閉ざされ、そこは、二人だけの世界だ。


 魔力を奪われ、行動の自由を奪われ続ける。


 二人だけの、世界。


 




あと一話です!

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!

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