三十六話
エミリは視線を泳がせると声を上げた。
「な・・・何を馬鹿な事を。皆様騙されているんですわ。その娘がローズ嬢なわけがないではないですか。しょ・・証拠は?どこにそんな証拠があるんです!!」
その言葉にローズはにこりと微笑みを浮かべると静かに言った。
「では、私がローズではないと証明は出来ますか?」
「え?そ・・それは・・・だって貴方と私はあったことがあるわ!貴方は生贄の娘でしょう!?」
「・・そうですね。この体の持ち主であるサリーは、この国の生贄。それに間違いはありません。そしてそんなサリーの体に私ローズが入った事は事実。私がローズであるという証拠は、ここにいるジル殿下と一緒に過ごしてきた記憶ではでどうです?」
ジルは微笑を浮かべると、頷いた。
「そうだね。僕とローズの記憶が一致すれば、それでローズを証明することができるさ。まぁそんなことをしなくても、僕にはローズが分かるけれどね。」
エミリはその言葉に焦ると、魔術師長へと視線を向けた。
「た、助けて!お願いよ!私は、私は国の為にしたのよ!」
その言葉に国王は立ち上がると声を荒げた。
「ふざけるな。お前に何かを命じた覚えはない。魔術師長よ。エミリ嬢を黙らせよ。」
「は。」
呪術師長はエミリに拘束と言葉を黙らせる呪術を施すと、大きく呼吸を乱した。生贄の少女を介すことなく使われる呪術は、呪術師長の魔力と体力を奪っていく。
国王はそれをわかった上で、呪術師長に命じている。
呪術師長は、自分ももはやこれまでだろうと悟りながら、これも定めと国王の命令を粛々と受け入れていた。
国王はジルの方へと向き直ると言った。
「エミリ嬢を引き渡そう。貴殿の国とは、今後も友好関係を築いていきたいと考えている。」
その言葉に、ジルは笑みを消すと言った。
「それは、呪術を使うこの国の今後の在り方次第かと。できる事ならば、友好関係のままでいたいと、思いますが。」
国王とジルとの視線が交わり、しばらくの間無言の時が流れる。
ローズはその様子を見つめながら、静かに口を開いた。
「僭越ながら、口を開くことをお許しくださいませんか?」
国王はローズへと視線を移すと頷いた。
「許そう。ローズ嬢には我が国の令嬢が迷惑をかけた。何か願いがあれば、できる事ならば叶えよう。」
その言葉に、ローズは深々と頭を下げると言った。
「この国のためにと、命を散らした少女らのような不幸な存在が、今後生まれないように、どうか、陛下にはお願いしたいのです。」
国王はしばらくの間じっとローズを見つめ、そして、ゆっくりと頷いた。
「時代は変わる。我が代で、変えると約束しよう。ローズ嬢・・いや、サリー嬢のような娘が犠牲にならない国作りを、していく。」
その言葉に、ローズの瞳から一滴の涙が落ちた。
サリーが、泣いている。
ローズは自分の両肩を抱きしめると、その背をジルが支えた。
きっと変わる。
ローズとサリーとの出会いが、タージニア王国を変えた瞬間だった。
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