三十五話
エミリは突然国王からの呼び出しに、訝しげに思いながらも城へと登城し、謁見の間にて待機していた。
一体何があるのだろうかと考えていると、しばらくしてから、呪術師長も現れ、顔色を悪くする。
何かがあったのだ。
ここにいてもいいものかと考えていた時であった。
タージニア王国の国王であるエイデンが現れ、エミリと呪術師長は深々と頭を下げた。
「頭を上げよ。」
その声は固く、ため息の混ざるものであった。
そして、国王陛下が合図をすると、その場にジルとさらには一人の少女が現れたのである。エミリはどこかで見た事のある少女に眉間にしわを寄せた。
「エミリ嬢。この二人を知っているか?」
エイデンの言葉に、エミリは視線をさまよわせてからゆっくりとした口調で、答えた。
「お一人は、リベラ王国の第二王子であるジル王子殿下かと。もう一人は・・見覚えはあるのですが、思い出せません。」
「そうか・・・エミリ嬢は呪術に精通していると聞いていたが、そうでもないようだな。呪術師長。そなたはその少女は知っているな。」
呪術師長は、静かに少女を見た後に、驚いたように目を丸くし、そしてゆっくりと口を開いた。
「・・・神にささげられる選ばれた、少女かと。」
「あぁ!あの時の子ね!」
エミリはうっかり声を上げ、慌てて手で口を塞ぐ。
その様子にエイデンはため息を漏らすと言った。
「そうか。エミリ嬢も知っていたか。・・・どうしたものか。」
国王はちらりとエミリを見てから、視線をジルへと移した。笑みは浮かべているものの、すでにジルからの要求は聞いており、頭が痛くなってくる。
戦争は回避したい。
そして、呪術を扱うことも、もはや時代遅れとなりつつある現状。
この一年で、ジルは自国にて呪術に対する対抗策を打ち出している。しかも、それを自国のうちにとどめるのではなく、他国にもその対策については開示し、国の信頼を深めていっている。
国王は深々とため息をついた。
「潮時か・・・」
悪しき風習を、自分の代で打ち切らなければならない。面倒な時代に生まれてしまったと思いながら、国王はエミリへと視線を向ける。
少女の身一つで戦争を回避できるのであれば、僥倖だろう。
公爵家の令嬢であり、その上王家の血も注いでいる。故にここまで守ったが、エミリと国であれば、国を取るのは当たり前。
「リベラ王国側より、そなたの身柄の引き渡し要求があった。それに応じ、身柄の引き渡しに応じる。呪術師長。エミリ嬢が今後呪術を使えないように封じを。」
「え?」
エミリが驚いた表情を浮かべた瞬間に、呪術師長は自分の魔力を使い、その身に呪術封じを行い拘束する。
「お待ちください!私が何をしたと言うのでしょうか!証拠は!?冤罪です!?」
悲鳴を上げるエミリはジルへと視線を向けた。
「私は何もしておりませんわ!すべてはライアンが勝手にした事!私は何もしていない!」
その様子をジルは冷たく睨みつけた。
「何も・・・していない?」
「ええ!していないわ!」
「へぇ・・じゃあ、彼女が誰なのかも、君には分からないんだね。」
「え?」
横にいる一人の少女に視線を向け、エミリは困惑した表情を浮かべた。
「そこにいるのは・・ただの、生贄の女でしょう?」
エミリは少女を見つめ、そしてその瞳を見て、眉間にしわを寄せる。
少女は美しくカテーシーをしてみせると、エミリに言った。
「お久しぶりですね。まぁ、前に会った時には私は瓶の中に閉じ込められていましたから、お話は出来ませんでしたけれど。」
ぎょっとした表情を、エミリは浮かべた。
「まさか・・・」
「はい。私は、ローズ。ジル第二王子殿下の婚約者でございます。」
にっこりとほほ笑みを浮かべたローズに、エミリの顔色は蒼白になっていくのであった。
ラストまであと少し!
ここまで読んでくださった皆様に感謝です。




