三十二話
ジルは自室へと帰ると、ベッドにだらしなくごろりと寝転んで寝返りを打った。
顔がつい、にやけてしまう。
その様子を見ていた護衛のオランは眉間にしわを寄せた。今まで主の子のような様子は見た事が無く、不気味に思ってしまう。
「どうされましたか?」
そう尋ねると、ジルは体を起き上がらせて、オランに尋ねた。
「彼女のことは調べた?」
「え?・・・えぇ。名前はローズというらしく、入ったばかりの洗濯女中とのことでしたが。」
その名前にジルはさらに頬を緩める。
オランは主のそんなだらしない笑顔など見た事が無く、何かあったのかと心配になってしまう。
「ジル殿下。その、どうしたのです?様子がおかしいのですが。」
「ふふ。ごめんごめん。こんなに簡単に見つかるなんて思ってもみなかったから、嬉しくって。」
「え?」
オランは驚いたように目を丸くすると声を潜めた。
「まさか・・・行方不明の魂を、見つけられたのですか?」
ジルはにっこりとほほ笑みを浮かべると、うっとりとした瞳で息をついた。
「あぁ。なんの呪いか、彼女の魔力は感じられないし、見た目も違うけれどね。でも、彼女はローズだ。」
「!?まさか、別人の中に、魂が?!」
「おそらくね。」
小さく息を吐きながらそう言うジルに、オランは視線を泳がせたのちにおずおずとした口調で尋ねた。
「あの、ですが・・本当にですか?間違いということは?」
次の瞬間、オランは背筋が寒くなり、すっと姿勢を正すと頭を下げた。
「申し訳ございません。出過ぎた言葉を。」
「いいよ。でもね、僕が、彼女を間違うわけがないだろう?」
ジルはそう言うと、瞳を和らげた。
「でも、何で言ってくれなかったのだろう。・・場所?いや、でも・・・うーん。」
ジルは頭の中で思案すると、ある程度の予想を立ててにっこりとほほ笑みを浮かべた。
「せっかくだから、しばらくの間は二人きりの時間を楽しもうかな。ローズにもずっと仕返しがしたかったしね。」
「仕返し?ですか?」
「そりゃあそうだよ。婚約者なのに、メイドのふりをずっとしていたんだよ?ひどいでしょ?」
「え?ですがそれは・・仕方なく。」
「うん。そうだね。そう・・だから、今回は、僕はローズがまた女中に何てなっているなんて知らなかったから、だから仕方なく、彼女を女中として、扱うよ。」
にこにこと楽しそうに笑みを浮かべたジルは、自分の中で様々なことを考えているのか、あーでもないこーでもないと独り言をつぶやき、そしてふと、言葉を切ると言った。
「でも、遊んでばかりもいられないね?」
「え?」
「ちゃーんと、けじめはつけてもらわないといけないから。」
黒い笑みを浮かべたジルは、そう言うと他の騎士らも呼び、今後について話をしていったのであった。
いつも読んでくださり、感謝です!




