三十話
ローズは体に突然痛みを感じ、その場で膝をついた。
全身が熱い。体の中が沸騰しているように熱く、額から冷や汗が流れ落ちていく。
昼食前の時間であり、ローズは一度食事の為に調理場へと向かおうと、王城の庭の使用人用の通路を進んでいたところであった。
とにかく一度落ち着こうと、ローズはどうにか体を起き上がらせると、近くの木の下に座り込み、大きく呼吸を繰り返した。
痛みが全身を包み込むように広がっていく。
じわじわと何かがめぐっていく感覚は気が狂いそうなほどで、汗があふれ出てくる。
自分の体の回りに、膜のような何かが張り付き、自分自身の魔力を包み隠そうとしているのを感じる。
「くる・・・しぃ・・・・」
呼吸が浅くなり、短い呼吸しかできなくなる。
まるで気管を何かが締め付けるようにして、空気が通らなくなっているような感覚。
「はっ・・はっ・・・はっ・・・・・」
一瞬頭の中で死がよぎる。ここで、死ぬのだろうか。
太陽の光が木々の隙間から温かに降り注ぐ良い天気だと言うのに、こんな所で自分は死ぬのか。
ローズは不意に、そんな光が陰ったと思った瞬間に意識を手放した。
「おい・・・大丈夫か?」
最後に、懐かしい声が聞こえた気がした。
国王との謁見までの時間、息が詰まるような部屋にはいられずに、ジルは園庭を歩いていた。ただ、あまり王城の騎士らには出くわしたくなかったがために、監視のようなタージニア王国側の侍従を引きつれて静かな場所を歩いていた。
そんな時、小さなうめき声が聞こえ、そちらへと足を向け、倒れている少女を見つけたのである。
身なりからして貴族ではないだろう。魔力は感じずに何か、微かな違和感を感じるがなんだろうかとジルは眉間にしわを寄せた。
侍従はジルが少女を抱き上げた様子を見て慌てて声を掛けた。
「その服装からして洗濯女中でしょう。私どもが運びますので!」
ジルはその言葉に少し考えると首を横に振った。
「いや、いい。抱き上げてしまったしな・・・医務室はどこだ?」
「よ、よろしいのですか?」
「あぁ。早く案内してくれ。」
ジルの言葉に侍従は慌てたようにして先導した。後ろに控えていたジルの騎士であるオランはジルの横に立つと小さな声で尋ねた。
「代わりましょうか?」
「僕だって女性くらい運べる。」
オランは肩をすくめて見せると、ジルの後ろへと戻った。
ジルが自分から進んで人に触れることがないことを知っているオランは少女に視線を送ると、もう一人の騎士へと倒れていた少女の素性について調べるように指示を出す。
それをジルはちらりと横目で見ながら、有能な騎士に小さく苦笑を浮かべた。
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