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三話 

 第一王子との婚約解消から一か月後、私は第二王子が住むという療養地へと向かっていた。


 何故かと言えば、大きな建前の理由としては第二王子との交流。


 本当の理由は、ライアンとエミリが二人であまりに仲の良い姿を様々な場所で目撃され、正式な解消前に騒動となり、私自身にもいらぬ疑いをかけられたからである。


 私が先に浮気をしたとか。


 エミリ嬢に私が嫌がらせをしたとか。


 タージニア王国が呪術を操る国だからと蔑んだとか。


 とにかくあらゆる疑いをかけられた。


 なので正式な発表があってからもその噂は貴族界に広がり、私は好奇の目にさらされた。別にそういった視線は構わないのだが、国王陛下はそれを大変気にされ、そうした噂を払しょくできるまでの間、私を第二王子の住む療養地へと向かわせたのであった。


 だが町を抜け、田園を通り、そして林を抜けて、二日をかけて療養地へとたどり着いた私が見たのは、驚くべき光景であった。


「これが・・・王家の療養地?」


 禍々しい魔力が屋敷から立ち上っており、本来ならば美しかったであろう門も庭も、建物自体にもおどろおどろしい気配が染みついているのである。


 私についてきた侍女のメリーと執事のセバスはその魔力に充てられて顔色を悪くさせており、出迎えに来た数人の使用人らの顔色は死人のようであった。


「これは、どういうことなの?国王陛下はご存じなのかしら?」


 すぐに使用人らに尋ねると、使用人らはジルに命じられて国王陛下には報告を行っていないとのことであった。魔力量の多い私ならばこの禍々しい魔力にも耐えられるが、少ない使用人らにとってはかなり苦しい職場であろう。


 よくよく話を聞いていくと、魔力に耐えられず残っている使用人は出迎えた数人だけであった。屋敷事態に守護魔法がかかっているため、外部からの攻撃には強いのでほぼ護衛もいないような状況なのだと言う。また、少ない護衛も近隣に盗賊が出たとのことで、今そちらへと出払っているらしい。


 私は嫌な予感がして顔を引きつらせた。


「ちょっと待って、ここにいるだけでも顔色が悪いってことは・・誰がジル様のお世話をしているの?」


 使用人らは顔色を悪くした。


「も・・申し訳ございません。どうにかお食事や飲み水や風呂の準備などは行っているのですが傍に寄る事は出来ず・・・その・・」


 私は顔を引きつらせると、唇を噛み、気合を入れてメリーに言った。


「私はジル様のご様子を確認してきます。貴方達は他の使用人から詳しい話を聞いて屋敷の状態を把握して頂戴。」


「か、かしこまりました!」


 顔色が悪いながらもしっかりと返事をしたメリーらを残して、私は屋敷の中へと足を踏み入れた。屋敷の中はさらに濃い魔力が渦巻いており、確かにこれでは魔力の少ない使用人らでは食事を運ぶのもやっとであっただろうと想像が出来る。


 魔力を辿り、より濃い方を目指して階段を上り、禍々しい魔力が扉の隙間からあふれ出てくる一室の前で、ローズは足を止めると、部屋をノックした。


「ジル第二王子殿下、お部屋にいらっしゃいますか?入らせていただきますね。」


 部屋の中から何かが倒れるような音が響き、慌てて扉を開けると、ベッドの上にうずくまるようにして四角い箱のような物を被る、子どもが目に入った。


 寝台の横においてあった水差しを倒したのか、水がポタポタと流れ落ちる。


 頭にすっぽりと被っている箱には目が見えるように小さな穴があけており、私の姿を見ると、ベッドの上で驚いたように体を後ろへとのけぞらせた。


「だっ!?誰だ。来るな!僕から離れるんだ!!」


 まだ高い子どもの声は、ライアンの幼かった頃の声によく似ていた。


 十歳と聞いてはいたが、実際に目にするとこの幼い王子が自分の婚約者なのかと、本当に大丈夫だろうかと少し心配になる。


 だが、部屋の中の惨状に思わず言葉を失ってしまう。


 汚れた服が脱ぎ捨てられ、到底王子が暮らす部屋ではない。


 だが、ちゃんと生きているその姿を見てほっとした。


「ジル第二王子殿下・・・よかった。よくこの状況で頑張られましたね。」


「なっ・・お前は誰だって聞いているだろう!」


「ローズと申します。とにかく、ジル第二王子殿下、まずはその魔力をどうにかしましょう。」


 私の言葉に、ジルは苦しげな声で怒鳴り声を上げた。


「どうにかできるものならしている!上手く制御が出来ないのだ!いいから、出て行け!」


 怪我をさせないように必死に強がり、あえて厳しい口調で言い放つ姿に、思わずきゅんとした。


 ライアンならば尊大におそらくは、他人のことなど考えもしなかっただろう。


 他人のことを考えられる年下殿下は、存外いいかもしれないと、少し思った。




 





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