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呪われた年下王子の婚約者 ~王子はメイドと勘違いしているようです~  作者: かのん


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二十九話

「一体どういう事だ。」


 呪術師らは一様に頭を悩ませていた。


 本来なら場、前任の生贄が死んだならばすぐに新しい生贄が入れられる予定であった。だがしかし、体に呪術を刻みこみ、娘を泉の洞窟へと閉じ込めたのにもかかわらず、呪術が上手く娘へと飛ばないのである。


 王宮で使った呪術が失敗したり、その対価が必要になる時には必ず生贄の娘の魔力を奪うはずだった。それはこれまでずっと続けられてきたこと。

 

 手順は代えていないと言うのに、呪術がうまくいかず、呪術氏自らに呪いの代償が降りかかると言う事態が起きていた。


「何故だ・・・何故こんなことに。」


 呪術師らは、代償がないからこそ呪術師としてやってきたのである。代償があるとなれば話は別である。


 一刻も早くその原因を調べなければと送った呪術師らによれば、泉に仕掛けてあった、呪術を転送する版が壊されているとのことであった。


 その版はかなり昔に作られている者であるから、それを修復するためにはかなりの日数が必要であると結論が着けられた。


「版が壊れた原因はなんだ?」


「劣化か?」


「いや、今まで大丈夫だったのに、急にか?」


 様々な憶測が飛んだ後に、その場がシンと静まり返り、カツカツという足音が響き渡った。


 呪術師らはその足音にびくりと肩を揺らすと、目の前に現れた少女に首を垂れる。


「こ・・これはエミリお嬢様。」


 エミリはローブを取ると、大きく息を吐いてから言った。


「我が公爵家は代々呪術を操るトップとして、王家に使えてきたと言うのに・・・どういうことなのかしら?どうして最近呪術を引き受けないの?」


 リベラ王国から帰国してからというもの、エミリは外出を制限されている鬱憤からか、呪術師らの研究塔へと足を運んでは嫌味を言うようになった。


「あぁ!もう。ライアンを消して証拠が残らないようにすれば、リベラ王国側からの要求も突っぱねられたのに。どうして私が軟禁状態にならないといけないのよ。国王陛下も国王陛下だわ!何故第二王子なんかを国に入る許可を出したのよ!」


 机をバンっと勢いよく叩いたエミリは、ソファに令嬢らしからぬマナーでどすりと座ると、大きくため息をついた。


 呪術師長は、そんなエミリにゆっくりと苦言を呈した。


「エミリお嬢様がそもそも、ライアン王子を掌握できていなかったから問題なのでございます。上手くいけばリベラ王国を内側から得られたものを。」


「ライアンが下手を踏んだのだから仕方がないでしょう!」


「そもそも何故ライアン王子に魂を移す魔術を教えたのです。それさえなければ、まだ、ごまかせたものを。」


「だって、意外にライアン呪術のセンスがあったし、それに嫌いな女がいたのよ。」


「だからと言って・・・」


「もう!煩いわね!女の魂は戻る事はないのだから、証拠もない!いいでしょう!?」


 エミリの言葉に呪術師長は大きくため息をつくと言った。


「ですが、念には念を入れておきましょう。森で魂を入れた小瓶を失くしたと言っておりましたな?」


「ええそうよ。」


 小瓶を亡くした位置と、生贄の少女を閉じ込めておく泉はそう遠く離れてはいない。偶然か?そう呪術師長は眉間にしわを寄せた。そして、傍で頭を下げている部下に言った。


「念のために前の生贄の少女の死体を確認しろ。」


「はい。」


 呪術師長はエミリと視線を合わせると、言った。


「優秀なるエミリお嬢様。何か、そのローズなる令嬢の魂を縛り付けられる物はお持ちでないでしょうか?」


「え?・・・そうねぇ。あぁ、これならあるわ。」


 そう言うと、エミリはローブの中から薄い手帳を取り出した。その中の一ページに、一滴の血の跡が残っていた。


「最初にね、油断しているあの女と握手をして、簡単に手に入れたのよ。ふふふ。呪術に明るくない国は油断していて助かるわ。あの女の血。これで魂を引き寄せたの。」


「さすがでございますな。お借りしても?」


「あぁ。もういらないからあげるわ。」


 興味なさ気にそのページを破ると、エミリはそれを呪術師長へと手渡した。


 呪術師長は頭を下げてその場から去ると、研究室に入り、呪術の魔法陣を描いた紙の上に、その血痕を乗せる。


「血と繋がる魂よ。真実を明かせぬ呪いを。」


 次の瞬間、対価となる魔力が魔術師長の中から大量に抜ける。


「うぅ・・・」


 生贄がいない今、対価が必要な難しい魔術には自分の魔力を使うしかない。


 簡単な呪術であれば失敗でもしないかぎりは対価は必要ないが、魂を縛る呪術はかなりの対価が必要となるのだ。


「だが、これで一つ心配事が減った。もし言葉をしゃべる事が出来たとしても、真実を打ち明けられぬ呪いさえあれば、問題はないだろう。」


 呪術師長の独り言は、静かな部屋に、小さく落ちた。


 

 

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