二十一話
少女の名前はサリー。今年このタージニア王国の南端にある神殿にて、その身をタージニア神へと捧げる役割を担う少女である。
タージニア王国が建国以来、五年に一度少女が選ばれ、その身を神へと捧げられ続けている。
サリーは元々は孤児であり、信託があったという理由で神殿に入れられ、タージニアの神にその身を捧げる為に育てられた娘だった。
タージニアの神としてあがめられるのは、土地を豊かにすると言われる幻の竜。王家は国の繁栄の為に、清らかな娘の魂を、竜へと捧げるのだ。
サリーは、まもなく竜へとその身を差し出さなければならない。
けれど、サリーは知っていた。自分は国に殺されるのだという事を。最初はウソだと思った。自分は選ばれたのだと信じたかった。けれど、選ばれたと言う理由から傲慢になり、死ぬまでの間は我儘放題をしようとしたサリーに、ある日公爵家から訪れた、王家の血を引くお姫様が言ったのだ。
「ただの卑しい孤児の生贄だもの。最後くらい贅沢したいわよね。」
「エミリお嬢様・・そのような者と口をきくのはおやめください。」
侍女であろう女性がこちらに軽蔑の眼を向けながらそう言う。
エミリ様は美しい容姿とは裏腹に、その笑顔は醜く、自分を蔑んでいるのがすぐに分かった。
「ふふふ。いいじゃない。お父様に頼んでリベラ王国に行く前に見にこれて良かったわぁ。どんな娘が生贄にされるのか見て見たかったのよねぇ。」
そして、その時、やっとサリーは知ったのだ。自分は選ばれた少女ではなく、生贄にされる哀れな娘なのだと。
タージニア王国は隣国のリベラ王国とは違い、呪術を禁忌とせず、操ってきた王国である。その対価が一体何なのか、サリーは知らなかった。
けれどエミリ様は私の耳元でささやいたのだ。
「王国が安全に呪術を使う為には、貴方のような犠牲が必要なのよ。魔力の量が異様に多い、中々死なない娘がね。タージニア神への竜への貢物っていう名目で。竜なんて・・・本当はいないのにね。」
くすくすと笑う声が頭の中に残った。
それが四年と少し前の出来事。そのすぐ後、サリーは神殿の最深部、深い深い地下の泉の前で、生贄として全身に術式を刻まれ、魔力と魂を奪われる日々が始まった。
魔力や魂は、一日で奪われるわけではない。おおよそ五年ほどかけて、魔力と魂をジワリジワリとその身から削られ、王国が呪術を使うたびに、削り取られるのだ。
いくら魔力量が多くとも、限界はおおよそ五年と言われていた。
そして、サリーは今年で五年目。食事は毎回差し込まれるが、日の当たらない場所で、誰とも話すことは出来ず、閉じ込められ、奪われるだけの日々。
もうすぐ自分は死ぬ。
そんな時、目の前の泉に運命にいざなわれて小瓶が流れ着いた。
美しいその煌めく小瓶を見て、サリーは涙を流した。
もう自分は死ぬ。その前に、こんなにも綺麗なものを見ることが出来た。最後に、自分には神様がいたのだと、サリーは思うことが出来た。
「・・でも・・・私が死ねば、また、ここに哀れな生贄が入れられる・・・」
それが辛かった。
これから約五年もの間、苦しみ続けなければならない、顔も知らない哀れな生贄。
体がふらつく。
サリーは泉の前で倒れ、そして最後に小瓶のふたを開けると、きらきらと輝くものを見つめながら目を閉じた。
「き・・・れい。」
美しくまばゆいその光は、サリーの心を癒した。
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