二話
国王陛下から直接の謝罪をされたのは、婚約解消騒動から一夜立った明朝の事であった。内密に国王陛下自ら公爵家へと馬車でお越しになり、内々ではあるが私に頭を下げられた。
「ローズ嬢には、本当に申し訳ない事をした。」
お父様はそれに冷や汗を流しながら首をブンブンともげそうな勢いで振る。
「いえいえ、我が娘にも落ち度はあったのでしょう。国王陛下、どうか頭を上げられてください。」
私としては、私に落ち度があるとは思わない。口には出さないが、内心ではそう思う。まぁ口はちゃんと建前を言えるので、内心でどう思うかは、許してほしい。
「お父様の言う通りでございます。国王陛下、頭をあげてくださいませ。どうかお願いでございます。」
私も父と同様に声をかけると、国王陛下は大きくため息をつきながら顔を上げられた。その眼の下には深い隈が出来ており、寝ていないのではないかと体調が心配になる。
国王陛下は大変聡明な国王であり、何故彼からあの王子が産まれたのか私はずっと疑問だった。だがトンビを鷹を生む事もあるらしいので、きっとその逆もしかりなのだろう。
「ライアンには謹慎を申し渡している。私は昨日の夜話を聞いてな・・・本当に、我が息子ながらどうしてあのように阿呆が産まれたのか。」
ため息を深くつくと、国王陛下は私をじっと見つめて言った。
「だが、ライアンの相手は隣国のタージニア王国の公爵家令嬢であり、こうなった以上は、婚約の話を進めていかなければならない。エミリ嬢がすでに両親にライアンとの仲を手紙にて伝えていたのだ・・それがなければどうにか出来たやもしれんが・・・すまない。」
ライアン王子との仲をどう綴ったのかは分からないが、受け取った両親は相当衝撃を受けたであろう。そう思うと同情からか眉間にしわが寄ってしまう。
私は首を横に振ると、国王陛下にはっきりとした口調で答えた。
「私の事はお気になさらないで下さい。これまでの王妃教育が無駄になった事は悲しいですが、良い経験をさせてもらったと思っております。」
「そう・・か。」
どこかほっとした表情を浮かべた後に、国王陛下は少し視線を泳がせると、おずおずと言った様子で口を開いた。
「して・・・その、ライアンからローズ嬢が第二王子との婚約を望んでいると・・聞いたのだが・・・」
一体何がどうなってそうなったのだろうかと思うが、昨日家に帰った時点でお父様と話はしてある。お父様的にはやはり王家との繋がりを強固にしたいようで、私もそれならば第二王子と婚約しても構わないと考えた。
第二王子は呪い受けており、それを私が受け入れ婚約をしたとなれば国王陛下が我が公爵家に信頼を置くのは目に見えている。
第一王子との婚約よりもいいかもしれないと、ライアンの顔を思い浮かべながら思った。
彼に振り回されてきた六年を振り返ると、ハッキリ言えばもう二度と彼の婚約者に戻りたいとは思わない。それにほとんどの有力貴族らはすでにそれぞれ婚約者がいるものが多く、自分に見合った嫁ぎ先がこれから決まるかどうかは怪しかった。
それならば、呪われていようとも王家との繋がりを持てる第二王子との婚約の方が美味しい話だ。
私は儚げに見えるように微笑みを浮かべると、あえて含みのある言い方をする。
「ライアン王子殿下が・・そう・・言われたのであれば、そうなのでしょう。」
それだけで聡明な国王陛下はライアンの戯言であった事に気付く。
「ですが、これも何かのご縁でございます。もし、第二王子殿下のご婚約者が決まっていないのであれば、私もその候補に入れていただければ幸いです。」
国王陛下は私をじっと見ると、はっきりとした口調で言った。
「本当に、よいのか。あれは、呪われている。長くは生きられぬやもしれんし、子をもうける事も出来るかは分からんのだぞ。」
国王陛下がジル王子の事をどう思っているのかは分からないが、私の事を案じてくれているのは伝わってきた。
私はにこりと笑みを浮かべると頷いた。
国王陛下はちらりと視線をお父様へと向けたが、この婚姻は王家も結んでいたほうがいいと考えているのであろう。すぐに頷くと言った。
「では、ローズ嬢を第二王子の婚約者として迎える事とする。」
「ありがたき幸せにございます。」
お父様にならって私も頭をさげた。
この日から私は、第一王子の婚約者から、呪われた第二王子の婚約者へと肩書を変えたのであった。
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