十七話
魔力に耐えられなくなった侍女は逃げ出すように下がり、部屋に残されたのは三人のみ。
「じ・・ジル!止めないか!」
ライアンの言葉に、ジルは冷ややかな視線を向けると、ぎゅっとローズを抱きしめながら言った。
「僕の可愛いローズを傷つけようとする兄上なんて嫌いだ。それに・・僕だって馬鹿じゃない。」
「何だって?」
ジルは自身の中に広がっていた呪いの力を部屋に広げると、うねうねとうねりを上げる呪いを見せつけながら、はっきりとした口調で言った。
「この呪い・・兄上は、一体誰が、僕に、掛けたのだと思いますか?」
ローズはその言葉に、目を見開くと声を上げた。
「ジル様、まだ確証がない中では!」
「いいよ。ローズ。君だって分かっているだろう。僕に呪いを掛けた人物が、ほぼ一人に限られるって。」
「ですが!」
ジルが冷ややかな視線をライアンへと向けると、ライアンはジルを睨みつけるようにして声を荒げた。
「何が言いたい。」
「・・・兄上。僕が、邪魔でしたか?」
次の瞬間、ライアンは悲しそうに眉間にしわを寄せ、そして次の瞬間、唇が弧を描く。
「なんだ・・・ばれたのか?」
楽しそうに笑うその笑顔は、ローズの見た事のない、歪んだ微笑であった。
「え・・・」
天才となんとかは紙一重。いつも飄々として、会話が続かず、予想の斜め上以上の事をしでかすライアン。そんな彼が、歪んだ笑みを浮かべた事に、ローズは少なからず衝撃を受けていた。
もしも呪いを掛けるとしたら、どういう時か。
一番は、相手に消えてほしい時だろう。
それが一番あてはまるのは誰か。
魔力を持ち、頭がよく、呪いを作り出すことのできるほどの能力者。
それが、ライアンだった。けれど、ローズの知っているライアンは、そんなことが出来る性格ではない。そうだからこそ、戸惑った。
だからこそ、口に出せなかった。
けれど、今目の前にいるのはローズの知らないライアンであった。
ライアンは楽しげに歪な笑みを浮かべたまま、お茶を飲み干すと、ジルに言った。
「だってしょうがないだろう?俺が第一王子なのだから、俺が目立たないとしょうがないだろう。お前に目立たれては困るんだ。王位をめぐる争い何て嫌だしなぁ。」
肩をすくめながら、差も当たり前化のように話をするライアンに、ジルとローズは言葉を失う。
ライアンはさも自分は間違っていないと言うような口調で話し続けた。
「お前だって分かるだろう?それにさ・・・宮廷魔術師らも、黙ったってことは、俺と同じ考えだって事だろう?」
「っ!?」
ジルが息を飲む。
「お前は邪魔なんだよ。あまり目立ってもらっては困る。はぁ、ジル。ちゃんと物わかりがよくならないとダメだぞ。あぁ、それとローズの事だけれど、仲がいいならば別にいいが、ローズをちゃんと躾けろ。エミリが可愛そうだろう?」
頭がおかしい。
呪う事を当たり前のように言い、まるで比重が変わらないように同じように婚約者の事を口にする。
ジルはどう反応していいのか分からないのだろう。慕っていたはずの兄が、自分を呪った張本人だと、誰が思うであろうか。
ローズは唇を噛むと、がばりとジルを抱きしめた。
「ジル様。耳が腐ります!聞いてはダメです。」
「ローズ・・・」
「失礼だなぁ。ローズ。はぁ・・・お前は本当に何ていう女なんだ。」
見た事のない、冷たい瞳を向けられローズはぞくりと悪寒が走った。
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