十六話
イラットは一度資料をまとめてくるとのことで下がり、部屋にはジルとローズが残されていた。
二人は、何かしゃべるでもなくお茶を飲み、そして、ジルが先に口を開いた。
「ローズは誰だと思う?」
「呪いを掛けたのは、ですか?」
ジルはローズの瞳をじっと見つめながら頷き、ローズはティーカップを机へと置くと、息をついてから言った。
「可能性の話で言えば、かなりの数いますが、現実的な数で言えば、少数です。」
「僕もそう思う。」
呪いにまで手を掛ける。そんなことを出来る人間は少ない。それに、呪いを掛けるという事はそれなりの魔力も必要であり、そこでさらに絞られる。
ジルとローズは、一番疑わしい人物が頭の中で一致していた。
けれども、本当にそうなのか、お互いに口に出せない。
その時であった。部屋をノックする音が響き、二人は強張った顔を上げると、扉を見つめた。
「ジル。話があるんだが、ちょっといいかな?」
「兄上?」
扉を開けたのは、ライアンであり、ライアンは少し困った表情でジルを見つめると、すぐに視線を渡しに移した。
「ローズ。ちょっと話があるんだ。ジル。少し彼女を借りてもいいかい?」
「え?」
ジルは驚いたように目を丸くすると、ローズを見た。
ローズはもちろん内心では行きたくない。だが第一王子であるライアンの言葉を無碍にするわけにもいかないだろう。
どうしたものかと思っていると、ジルはライアンにはっきりと言った。
「兄上には婚約者がいるのだし、ローズと二人きりには出来ないよ。僕も一緒ではダメかな?」
その言葉にライアンは少し考えると、ジルに言った。
「少し、ローズには自分の立場をわきまえるように話をしたいんだよ。厳しい言葉をかけるから、お前が聞いていても気持ちの良いものではないよ?」
「どういうこと?」
ライアンはため息をつくと、部屋へと入り、そしてローズの正面に座ると引きつれていた侍女にお茶を用意するように伝え優雅に足を組むと言った。
「私の可愛いエミリについてだよ。さぁジルも話を聞くなら座れ。ローズも、いつまでぼさっと立っているんだ。」
その言葉にジルは眉間にしわを寄せるが、言われた様に大人しく椅子へと座った。それを見てローズも腰を下ろしたのだが、侍女の入れたお茶を飲み、口を開いたライアンの言葉には目を丸くせざるを得ない。
「可愛いエミリに、君は辛辣な言葉をかけたそうじゃないか。はぁ・・女の嫉妬は醜いぞ?」
「は?」
思わず声が漏れ、すぐに咳をしてごまかすと言った。
「申し訳ございませんが、私が嫉妬ですか?」
「はぁ。お前はいつまでたっても俺が好きだな。だが、もう諦めてくれ。」
ふふんと余裕の笑みを浮かべるライアンに、内心いらいらとしていたローズだが、ローズが口を開く前にジルが突然立ち上がり、ローズの横へと座り直すと、ローズの肩をぐっと抱き寄せて言った。
「兄上は何か勘違いをされている。」
「む?」
ジルは愛おしげにローズの頭を撫でると、髪を一房とってそこに口づけを落としながら言った。
「ローズの心はすでに僕の物です。」
頬に微かに息があたり、ローズの顔は一気に真っ赤に染まった。
ジルの指が髪を撫でるように触れる度に、お腹の当たりがきゅんとするような感覚がして、心臓が跳ねる。
「なん・・・だと?」
「兄上、ローズにこれ以上何かを言うのであれば、いくら兄上であろうと、僕も男ですから、許せませんよ。」
ライアンは立ち上がると声を荒げた。
「お前は騙されているんだ!言っておくが、ローズは性悪女だぞ。それにあれだけ俺の事が好きだったローズがそう簡単にお前を好きになるわけがないだろう!」
どこから来るのだその自信はと、突っ込みを入れる余裕もないほどに、ローズの顔は熱くなり、頭がくらくらとしてきていた。
愛おしげに指で撫でられ続けているのである。
だがその優しげな指先とは裏腹に、ジルの声色は冷気を帯びる。
「・・・性悪女?」
ゆっくりと、ジルの底冷えするような魔力が部屋へと広がっていく。これは無意識ではなく、意図的にやっている事がローズには分かる。
ライアンも王族らしくかなりの魔力を有している。だからこそ顔色こそ悪くはならないが、ジルの変化に驚いている様子であった。
「ジル。お前は騙されているんだ。」
「いくら兄上であろうとも、訂正していただきたい。」
「呪われて優しくされたから勘違いしているんだ。可愛そうにな。」
その言葉に、ローズも冷静さを取り戻し、眉間にしわがよる。
「黙れ。」
吐く息が白くなり、部屋いっぱいに魔力が充満する。それは魔力を多く有しているはずのライアンすらも息苦しさを感じる魔力の渦であった。
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