十五話
部屋を移し、宮廷魔術師見習いの少年はゆっくりとフードを取ると、深々とお辞儀をした。
「私は宮廷魔術師見習いのイラット・ウィナーと申します。突然の申し出にも関わらず、このような場を設けていただき、ありがとうございます。」
ジルはじっとイラットを見つめた後に、腕を組む。
「それで、話とはなんだ?」
イラットは大きく深呼吸すると、真面目な顔で、手をぎゅっと握り緊張した様子で口を開いた。
「・・・おかしいのです。」
「何がだ?」
「私は、今年より魔術師見習いとなりました。それで、第二王子殿下の呪いについても上司から話を聞いておりますが・・・はっきりと申し上げれば、資料は恐らく、全て改ざんされたものでしょう。」
その言葉を全て信じることは出来ないながらも、先ほどの宮廷魔術師長の様子からしても何かしらがあるだろうとは考えていた。
だが、改ざんされたとなると、その理由が気になるところである。
「何故そう思う?」
ジルの言葉に、イラットは少し迷ったように視線を泳がせ、その後に、深い息を吐くと言った。
「私は男爵家の三男坊でして、宮廷魔術師として名を上げなければと、思っておりました。そして第二王子殿下の呪いを解く手がかりを得られればそれが叶うと思ったのです。大変烏滸がましい考え、申し訳ございません。ですがその過程で、私は、明らかに資料がおかしいと気づきました。」
イラットはそう言うと、ジルを真っ直ぐに見つめて言った。
「呪いは、呪いを掛けた者を見つけることが一番の解呪の早道です。」
静かに時計の針が、時を刻んでいく。
ごくりと、イラットは喉を鳴らすと、口を開いた。
「そして、解呪不可能としたいその理由は、恐らくは、呪いを掛けた者が発覚する事を、恐れたからかと。」
ジルは瞼を閉じると、額に手を乗せる。
イラットは言葉を続けた。
「宮廷魔術師は、王家に反逆する意思はないでしょう。王家に絶対の忠誠を誓ったものばかりです。となれば、第二王子殿下に呪いを掛けた者を見つけるという事は、王家にとって不利益をもたらすと、そう考えたのではないかと私は行きつきました。」
呪いとは恐ろしいものであり、この国では、人を呪う行為はいかなる理由があろうとも禁止されている。呪いを放ったが最後、罪人とされ、処刑か流刑か幽閉か。許されることはない。
王家にとって不利益となりえる存在が呪いを掛けた。
イラットはそう遠まわしに言っている。
「イラット。よく、話してくれたな。」
ジルは目を開くと、イラットの顔を見てそう言った。
その言葉にイラットは顔を歪めると、首を横に振った。
「いえ・・ですが私は、宮廷魔術師としては失格です。魔術師長がなされた決定を、私のような未熟者が覆そうと言うのですから。」
宮廷魔術師となり、未来を切り開こうとしていたであろうイラットは、このことがばれれば恐らくはその道は閉ざされるだろう。
「ですが殿下。」
それでもイラットは顔を上げ、誇らしげに言った。
「お話しできてよかったです。私は、長に背いたことを後悔は致しません。」
その言葉にジルはくすりと笑みをこぼす。
「そうか。ではお前に頼みがある。僕の呪いについて、一緒に調べてほしい。宮廷魔術師としての席を一旦外し、僕付の魔術師とできるよう陛下に掛け合う。いいか?」
イラットは突然の言葉に目を丸くしたが、すぐに頭を下げると言った。
「もったいないお言葉!精一杯務めさせていただきます!」
その後、ジルはすぐに陛下にその旨を伝えた。ただし、名目上は自分の呪いを解くために専門家である魔術師を一人得たいがためとした。
イラットの言葉は、国王陛下には伝えていない。
何故ならば、呪いを掛けた人物がイラットの言葉によりかなりの数に絞られたからである。
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