十二話
結局エミリに散々難癖をつけられたが、あえて笑顔で全てを流した。はっきり言ってしまえば面倒くさい事この上なく、こんな人がこの国の妃の立場になるのかと思うと、ため息が漏れる。
部屋へと戻ると、ジルも部屋に帰ってきているとの話を執事から聞き、ジルの部屋へと向かおうとしたのだがそれを止められてしまう。
「なんでも、ご用事があるそうです。なので部屋には来ないようにとローズ様にお伝えするようにとのことでした。」
「あら、そうなの?・・・どうしたのかしら。」
そう思いはしたものの、何かかしらがあったのだろうと思うと、ローズはその後両親と久しぶりに会うために準備を進めていっていた。
事前にジルにも両親には会う事を伝えてあるので、ローズは着替えを済ませると王城から両親と昼食の約束をしているレストランへと向かった。
久しぶりに会った両親には、今日中に婚約子の事を伝えるようにと念を押され、その後は家族の様子を聞きながら楽しく食事を済ませた。
「あぁそうだ。ローズ。」
「何です?」
「・・ここだけの話だが、一応お前の耳にも入れておくぞ。」
「はい。何でしょうか。」
「第一王子は結婚は決まったが、未だに王太子とは選ばれていない。国王陛下が渋っておられる。」
「え?」
結婚後にすぐに王太子となり次期国王としての立場を確立するのだとばかり思っていたのだがどうやら状況は違うらしい。
だがジルは呪われた身。何故そんな事になっているのかと眉間にしわを寄せてしまう。
「実の所、お前との婚約が解消されてからエミリ嬢、ライアン殿下共に、教育が滞っていた。中々に甘えた考えを持たれているようであり、だからこそ、結婚まで三年もかかったのだ。だからローズよ。敏いお前ならば、分かるだろう。」
父の言葉に、思わずごくりと喉が鳴る。
両親と別れ、王城へと戻ったローズは、その日は結局ジルに会う事は叶わないまま一日を終えた。だが会えなくて良かったのかもしれない。
これからのもしもの可能性が頭の中をぐるぐる回る。
呪いは解けるのが一番いい。だが、もしも解けたら?解けた結果、怒るであろう未来を想像すると頭が痛くなってくる。
次の日はローズは朝一緒にジルと共に食事をする事となっていたのだが、顔を合わせると、父の言葉よりもジルの態度のほうが気になった。
「ジル様・・・どうしたのですか?何か、ありましたか?」
朝一番からジルはじっとローズの顔を見つめてくるのである。食事が終わった後は何故か二人でソファに並んでお茶を飲むと言う流れになり、間近でじっと見つめてくるジルの視線にローズは耐えられなくなった。
「あの、私の顔に何かついていますか?」
ジルは小さくため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。
「ローズは・・・・」
だが、そこから言葉が出てこない。何か悩んでいるのだろうかと小首をかしげると、口を噤んで眉をひそめる。
「あの。・・・何でしょう?」
「何でもない。はぁ、よし。今日は王城の魔術に関しての書庫の閲覧権限を得ている。読みに行こう。」
その言葉にローズは頷くが、また何か言いたげにジルがじっと見つめてくるので、何だかいたたまれない気持ちになる。
何かしただろうか?
「ジル様?」
「・・・・・・・・・・ローズは可愛いな。」
「は?!」
突然何を言い出すのだと思っていると、ジルはローズをじっと見ながら言った。
「僕はローズの事を何も知らないなぁと思って、少し、寂しい。」
「ん?!どうしたのです?私の事なら、大抵ジル様はご存じだと思うのですが。」
公爵令嬢と言うのは伝えていないが、貴族だということは伝えてあるし、両親や家族についても話している。二人きりの時間が多かった分、恐らくはライアンより自分の事を知っているのではないかと思う。
婚約者であるということ以外は。
「・・・いや、知らない。僕は・・・ローズが誰を・・・・いや、いい。」
聞きたいけれど聞きたくないのか、ジルはため息をつくと立ち上がった。
「調べに行こう。ローズ。おいで。」
手を差し伸べられ、思わずとってしまう。だが、これはどう見てもメイドと王子の距離感ではない。
「あの・・私は後ろからついていった方がいいのでは?」
「いいよ。僕がこうしたいんだから。それとも、ローズは嫌なの?」
「いえ、嫌と言うわけではありませんが・・・」
「ならいいでしょう。」
そう言うと、恋人のように手を握られ、ローズは手を引かれる。
本当にいいのだろうかとちらりとジルを見ると、嬉しそうに笑っていたので、まあいいかとローズは息をついた。
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