十話
三年前、一度ジルはどん底の気分を味わった。宮廷魔術師らがジルの呪いは解呪不可能として、国王に伝えた事がその原因である。
国王はその報告を受けた後に、ジルに手紙を送ってきた。自分の力が及ばないばかりにすまないと、国王の言葉にジルは涙を流しながら自分の運命を受け入れることを決意したのだ。
「結局、いずれは僕は呪いに食い殺される・・・解呪方法はない・・・僕の運命は・・そう定められたんだ。」
その言葉を聞いたローズは激昂した。
「何を弱気な事を言っているのですか!」
「ローズ・・」
「ジル様。諦めるのですか?生きたいとは思わないのですか!?」
顔を真っ赤にしながら怒るローズをジルは見つめ、首横に振った。
「生きたい。けど・・・方法が・・・」
ローズはジルの手を力強く握り、はっきりとした口調で言った。
「見つけましょう。私も一緒に探します。ですから、諦めないで。」
その時から、ジルにとってローズの存在は大きなものへとどんどんと変わっていった。
あれから三年。
ローズとジルは研究室を作り上げると、そこで呪いを解く方法を研究しているのであった。
「ジル様。王宮より手紙が届いております。」
執事の言葉にジルは驚くと、呪術の本を閉じ、手紙を開くと目を丸くした。
「どうかなさいましたか?」
ローズが問いかけると、ジルは笑みを浮かべて言った。
「兄上の結婚式の日取りが決まったらしい。それで、僕にも来てほしいと。」
「・・まぁ。」
あれから三年。まだ結婚していなかったのかとローズは内心驚いていた。三年も結婚までかかったという事は、もしかしたら新しい婚約者のエミリの王妃教育が思いの外時間がかかったのかもしれないなと考える。
「けど、呪われた僕が結婚式に参加してもいいのだろうか・・・」
不安そうに呟くジルの手を、ローズは優しくとると言った。
「ジル様。呪いはうつるものではありませんよ?」
「うん・・・それは分かっているけれど、縁起が悪いだろ?・・・でも祝いたいしなぁ・・そうだローズ。結婚式には参加せずに、とりあえずお祝いだけ伝えに行こう。それで、ほらついでに、王宮にある呪術の本も見せてもらおう。以前から一度読みたいって言っていただろう?」
その言葉にローズはどうしたものかと眉間にしわを寄せる。
たしかに呪術の本は読みたいのだが、なんだかんだと言ってローズはライアンの元婚約者であり今はジルの婚約者である。
療養地に来た当初は、しばらくした後に家へと帰る予定だった。だが、ジルの状況を国王陛下に報告し、傍にいた方が良いと言う結論から、三年も一緒にいてしまった。
国王陛下や両親には、ジル本人に未だに婚約者になったと名乗り出ていないと伝えており、早急に伝えるようにとせかされてはいる。
ただ、ずっと黙っていた分言いにくいこともあり、ローズはそれをうやむやにしてきたのである。
王宮に行くとなると、ジルに伝えないわけにはいかなくなる。
ジルをじっとローズはどうしようかと見つめると、ジルの顔が次第に赤くなり、視線を逸らされた。
最近のジルはローズと視線が合ってもすぐに逸らすことが多くなった。思春期だろうかとローズは思い、そのうち自分が傍にいるのも鬱陶しがるのではないかと不安を抱く。
「あんまり見るな。」
ジルの言葉にローズはため息をつく。
「何故です?いいではないですか。」
「ローズは何もわかってない。はぁ・・けどその調子じゃ、ローズを王宮に連れて行くのは不安だな。特に兄上に合わせるのは嫌だな。」
「え?」
まさか自分とライアンの関係がばれていたのかとローズは一瞬考えるが、杞憂に終わる。
「ローズは可愛いから、見せたくない。」
「まぁ。」
その言葉にローズの心は浮足立つ。小悪魔になったジルだが、たまに垣間見える可愛らしい事を言う姿に、ローズの心は癒される。
微笑ましい気持ちでジルを見ると、ジルは納得しがたい表情を浮かべて呟いた。
「ローズが鈍すぎて、僕は時々無性に悲しくなるよ。」
「私は鈍くはありませんよ?むしろ敏いと言われます。」
「うん。そうだね。一つの領域を除いて、だけどね。」
「何ですその言い方は?」
「でもローズはそのままでいて、その方が僕にとっても都合がいいよ。さぁじゃあ王宮へ行く準備をしようか。国王陛下や兄上にも手紙を書いて、内々でお祝いを述べにだけ行くとしよう。もちろんローズも一緒にね。」
「もちろんでございます。」
ローズも国王陛下や両親に手紙を出しておかなければならないと頭の中で算段していくのであった。
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