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一話

全39話です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 リベラ王国のライアン第一王子殿下と公爵家の私ローズ・オリビエの婚約が結ばれたのは、十歳の時であった。殿下は魔力も強く、魔法も勉強も出来るのに、少しお馬鹿な所があって、私はそんな殿下と一緒に勉強をするたびに、天才となんとかは紙一重という言葉を肝に銘じた。


 そんな殿下と私は、もう十六歳。来年の春には結婚式を挙げる予定であり、ウェディングドレスの準備やら、招待状の準備やらで私はめまぐるしい日々を過ごしていた。本来ならば招待状の半分くらいは第一王子殿下に準備していただきたいものだが、彼に任せると後々に自分が面倒になる事は目に見えており、初めから期待せずに、地道に一人で行っていた。


 だが、嵐というものは本当に突然やってくるのだ。


 いつものように殿下との顔合わせの為に王城へと馬車で向かい、そして客間へと足を踏み入れた瞬間に何かがおかしいと感じた。


 違和感の原因はすぐに分かる。殿下の横に可愛らしい赤髪色の女性がちょこんと座っており、こちらを潤んだ瞳で見つめているのである。


 頭の中で誰だったかを必至に思い出そうと、瞬きをする事三回。そこで、隣国であるタージニア王国から勉強の為に留学をしてきた王族の血を受け継ぐ公爵家のエミリ・ラディッドであることを思い出す。


 タージニア王国はリベラ王国とは違い、呪術を操る国。そんな国の彼女が何故ここにいるのか、いくら考えても分からず、取りあえずはいつものように挨拶を行った。


「ライアン第一王子殿下、本日もお招きいただきありがとうございます。」


「あぁローズ。畏まった挨拶はいい。今日はな、お前に話があるんだ。」


「はぁ。何でございましょうか?」


「とりあえず、こちらはタージニア王国のエミリ嬢だ。」


「エミリでございます。」


 タージニアの挨拶なのか、エミリはローズへと手を伸ばした。


 ローズはどうするべきか悩んだが、取りあえずはその手を取り握手をしたのだが、その瞬間に手のひらにぷつりと何かを刺されたような痛みが走る。


 ぱっと手を離して手のひらを見ると、小さく何かに刺されたような跡があり、血がにじんでいた。


「何を!?」


 声を荒げようとした瞬間、ライアン王子は立ち上がるとエミリの手をぎゅっと握り、そして私の方をじっと見つめるとはっきりとした口調で言った。


「俺との婚約を解消してほしいのだ。」


「はぁ?」


 手の痛みなど忘れ、婚約解消という言葉の意味が分からず、思わず令嬢らしからぬどすのきいた声を出してしまった。すぐにこほんと咳払いをして取り繕うと、笑みを携えて小首を傾げた。


「申し訳ございません。意味が分からず。その、もう一度よろしいですか?」


 ライアンは唇を噛み、断腸の思いなのだと言うように言葉を絞り出した。


「すまない。お前の愛に答えてやれないのだ。お前が俺をずっと心から、慕っているのは知っている。だが・・すまない。俺は・・・俺は真実の愛を、エミリという最愛の人を見つけてしまったのだ。」


「はぁ?」


 またどすのきいた声が漏れてしまうが、今度は笑顔ではなく能面のように無表情でライアンとエミリの二人をじっと見つめた。


 この二人が密会していたなどという話題は聞いたこともない。それどころか、どこでかかわりをもったのかさえ分からず頭が痛くなってくる。いつからか。彼女が留学してきたのは一年と少し前だったような気がするが、もしやそれからずっとだろうか。こちらにばれないようにしていたならば、さすがである。やはり、天才と何かは紙一重かと頭の中で考えてしまう。


 だが、まず訂正をしたい。


「私は別に王子殿下をお慕いしていたつもりはないのですが。」


 そう。これは政略結婚であり、自分の感情など最初からあってないようなものであった。王子の事を慕っていたことは一度もない。むしろ、何故頭は良いのに阿呆なのかと心の中で何度罵った事か。


 だが、ライアンはその言葉を私の強がりだと思ったのか、ふっとどこか愁いを帯びた表情を浮かべて笑みを浮かべると言った。


「強がることはない。それにな、お前の為に俺は良い事を思いついたのだ。」


「はぁ・・」


 何を言い出すのか怖くなってくる。


「王家と公爵家の婚約は政略的な意味もあるからな、だから、お前には俺の弟の婚約者になってもらおうと思う。あいつは俺と同じで顔はいいから、きっとお前も気に入るだろう。」


 ライアンの顔も別に好みだとか言った覚えはない。それよりも何よりも、ライアンは一体何を言い出したのであろうかと考える。だが、しかし確かに一理ある。


 我が公爵家は王家との繋がりを確固たるものにしたく、お父様的には出来れば第一王子が良かっただろうが第二王子でもまぁ妥協はするだろうなという考えに行きつく。


 だからライアンの言葉にも一理はある。


 だが、問題がある。


 一つ目に、第二王子のジル王子は十歳である。私とは六歳離れている。逆ならばいいが、この国で年上女房というのはかなり珍しい。


 二つ目に、第二王子のジル王子は何者かの手によって呪いを受け、その治療中だと言う話ではなかったであろうか。


 しかも王城にいては呪いが王家の他の誰かに影響があってはいけないと、人里離れた場所にある療養地で過ごしているはずである。


 王城に通う事の多いローズも、その姿を見た事はない。


 これから自分がどうなるのかは分からないが、取りあえず、目の前で恋人繋ぎで手をにぎにぎとしあう二人に嫉妬ではないが、心から苛立ちを感じてしまう。


 呪われて禿げてしまえ!そう、ローズは能面のような無表情でライアンを睨み、勝ち誇った笑みを浮かべてくるエミリには、苛立ちよりもこれからライアンを支えなければならない事に対して同情の眼差しを向けたのであった。


 ただ、結局、手のひらにわずかに残った痛みの正体だけは聞けずじまいで、不気味だった。




 



 

 


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