五話 少女見つかり
優芽が張り込み中に声をかけられて、事務所に連れてきた沙奈だったが、古都梨には人相書きの女に見えるというのだった。しかし優芽には人相書きでは15-18歳くらいの少女のはずで、今目の前にいる沙奈は20歳台くらいに見え、依頼人に聞いた雰囲気と大きく違うため、別人としか思えなかった。
「あの、えっと人相書きって何のことですか?」
沙奈は心細そうに優芽に尋ねる。古都梨はというと疑いの目で沙奈をにらむように見つめている。
「人相書きっていうのは、最近この町で発生している住宅侵入事件の容疑者の人相書きのことです。少女が何らかの事情を装って女性宅に入り込み、次の日には消えるという事件が発生しています。」
「私が犯人って、知りませんよ。」
優芽が沙奈に説明すると、沙奈は間髪いれずに否定する。
優芽は沙奈の反応を見て、次に古都梨を見ると、古都梨は強く頷く。
「お手数ですが、一度、被害者に会ってもらえますか。」
「そんな時間ないし。」
少女はプイとそっぽを向いた。
すると、優芽は素早くスマートファンを取り出し、少女の正面に立ち写真を撮影する。
「ちょっと、なにするの。盗撮、写真消して。」
「これは被疑を確認するために撮影したので、盗撮ではないです。依頼人に確認して、該当人物ではない場合はもちろん即座に消去します。」
優芽がそういうと、観念したように沙奈はうなだれる。しばらくの沈黙の後に顔を上げた。
「……わかった話すから。」
彼女はそういうとため息をつきながら、近くのソファに座った
そしてその向かい側に優芽が座った。
「……ちなみにその……お姉さんは何て言ってた?」
「依頼人はまたその少女に会いたいと話していました。」
「警察に突き出すとかは言ってない?」
「ええ、今のところは聞いていません。特に被害もないようなので。」
「そう……」
沙奈はそう呟き、ホッとしたように微笑む。
その笑みには幼さを感じ、人相書きの少女の姿と一致する部分があるようだった。メイクや衣装で変装しているようだった。
「多分、その事件の何件かは私がやったと思う。」
そして自白したのだった。
確認が取れたので、優芽は依頼人の住所などが記載されたファイルを取り出し、沙奈に身に覚えがある確認をした。そして依頼された件について沙奈の犯行のようだということがわかったのだった。
自白した後に反省したように沙奈はションボリと小さくなっていた。
「沙奈さん、動機を教えてくれませんか。」
「動機は……。なんだろ……。」
沙奈は答えづらそうにしている。優芽は沙奈が回答するまで優しく見つめている。
「ただ、元気のない女性たちを元気づけたかっただけ。」
と、沙奈は答えたのだった。
「あなたは恋人と偽って女性に近づいたわけですよね。それと元気づけるとの関係性がわかりません。」
「探偵さんにはわからないかも。いや、それとも既にそういうお相手がいるからかしら。」
沙奈はそういうと古都梨を見つめる。古都梨は議事を取るためにパソコンの画面を見続けていて、表情は読み取れなかった。
「恋していると胸がわくわくときめく。片思いでもそうなのに、両想いにだと特に。そして恋している人は美しい。」
「……。」
優芽は沙奈にそう言われ、理性的にはわからないところはあっが、感覚として言わんとしていることが理解できはじめていた。
優芽は納得したように頷く。沙奈は優芽の反応に満足したようで話を続ける。
「最初、この町に来たのはいいけどやることなくて、駅前とかにいると、元気のないお姉さんたちを見かけた。本当は素敵な人たちなのに生気がなくて、私は本当の姿になってもらいたかった。」
「そういう女性に声をかけていたわけですね。」
「その中で特に綺麗に見える人に声をかけていた。私もこの人ならという相手に。」
「なぜ、何人もの女性に声をかけたのですか。全員を元気づけたかった?」
沙奈は優芽の問いかけに顔を背ける。
「……、私も運命の相手を探していた。」
頬を染めてそういった。そして優芽のほうを向く。
「私も寂しかったの。運命の人を探してたの。」
沙奈が強くそういった。優芽は無表情に沙奈のほうを見ていた。
気づけば古都梨も沙奈のほうを向き心打たれたようにその話を聞いていた。
「私、探偵さんのこと好きかも。」
沙奈は優芽と目を合わせ、言った。優芽は突然で驚き目を開く。
古都梨はというと、いらだっていた。