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二話 少女が現れた。

仕事から帰宅して時間を過ごしていたら、謎の幼女が現れたのであった。さらには嫁というのだ。当然身に覚えはなくなにをいっているのだろうか。とりあえず通報したほうがいいかもと、真紀は営業スマイルを少女に向ける。


「少し待って。お母さんとお父さんは」

「何を言っている。いないよ。そこまで年下じゃない。」

ムッとしたような表情をして見つめられる。

真紀はどうしたものかと戸惑いを隠せないでいた。


「うーん、そうはいってもいきなりお嫁さんと言われても。どういうことか説明してくれる?」

「詳しくは言えない。必死になってここまでたどり着いたの」

少女はバツが悪そうな表情をしている。

真紀は少し落ち着きを取り戻す。


「そうなんだ。ちょっと玄関でまって。」

とスマホを持ち、奥のほうへ向かおうと、一旦玄関扉を閉めようとする。

扉は締まっていき少女の姿が見えなくなりそうなところで小さく声がした。


「もしかして信じてくれてない?」

少女は寂しそうな目で見つめていた。諦めているようにも感じ、戸惑ってしまう。


「ううん、信じてる。」

目を泳がせながら、真紀は言った。


「嘘。その目は信じてない。」

少女がそういうと玄関を閉めようとしていた真紀の手を突然つかむ。

服の上からでも少女の手は華奢でひんやりとした冷たさがあった。

何かの花のような香りもした。


「私を今突き返すともうあなたとは会えなくなる。あなたは本当にそれでいいの?」

少女は俯きながら泣きそうな声でそう言った。


「……あなたは誰なの?」

俯いた少女を見ながら、言った。少女は顔を上げる。

目に涙を浮かべて、精一杯の笑みを浮かべているように見えた。


「だから、あなたのお嫁さんだって。」

真紀は少女に言われ、だんだんと信じる気になっていた。

少女の瞳に嘘はなく、信じないともう会えない気がした。

この子のことをもっと知りたい、そう思ったのだ。


「……わかった、部屋に入れてあげる。でも一晩だけね。」

そういいながら、真紀は玄関扉を開ける。


「ありがとう!!」

少女は突然真紀に抱き着く。

少女は柔らかく、華奢で暖かなぬくもりを感じた。

真紀の心音が急に高鳴っていく。


「ちょっ、いきなり、」

と言いながら、真紀は少女を押し離す。少女は不思議そうな表情から、急に悪戯っぽく笑った。

「ごめん、今はそういう仲でもないよね。」

少女にそう言われ、真紀の心音はさらに高鳴ったのだった。今は?


少女を部屋に招き入れる。

時々真紀の友人が遊びに来るので、部屋はきれいにしてはいるのだが、1LDKで私物が至るところにおいてあるので、初対面の人を入れるのは恥ずかしさを覚えてしまう。


照れ隠しもあって、リビングのテーブルの椅子に少女を座らせると、お茶入るね、とダイニングに入りお茶を入れる。茶葉をポットに入れ、湯を注ぐと香りが部屋に広がる。

リラクゼーション効果があるので、今の真紀にはぴったりだった。


「この香りの好きだったよね。」

少女の声がリビングから聞こえる。真紀はそう言われ、この少女のことを思いだそうとするも、記憶はなかった。小学、中学校のころ、あるいは高校の頃にもしかしたらと思う少女はいたようにも思うのではあるが、大分昔のことであやふやな記憶であり、少女とは初対面としか思えなかった。

あるいは幼馴染のことを思い浮かべてしまうが、その子とは雰囲気が似てもつかないため、違うはずだった。


お茶をカップに注ぎ入れて、少女の前に出す。少女は猫舌のようで気を付けながらカップに口をつけ、飲んでいく。お茶を気に入ったのか、香りを楽しみながら、落ち着いた表情を見せていた。

真紀も落ち着いてきたので、意を決し、確認することにした。


「あなた、名前を教えてくれる?」

「名前とか気になると思うけど、今は話せない。」

少女はカップの中の液体を見ながら、そう言った。


「なんで今話せないの。私たち初対面だよね。」

「初対面なのかな。私はあなたのこと、ずっと遠くから眺めていたよ。」

「?私たちどこかで会ったことあるの?」

正面から少女の顔つきを見るが、記憶にはなかった。でも可愛らしい顔つきで、もし以前に見かけていたら、記憶には残っているはずだと真紀は思った。


「覚えてないならいい。ごめんね、次にまた会えるから、その時こそが本当の私たちの出会いになるから。その時まで待ってほしい。」

少女は立ち上がり、じっと見つめながら言った。

真紀は何も言えなくなり、カップに残ったお茶を飲み干した。


その日、真紀は自身の寝室に、少女はリビングに客人用の布団を引いて寝てもらうことにした。

布団に横たわる少女に妖艶な魅力を感じてしまう、自身に不思議とワクワクする感じがして、真紀はここ何年も感じたことがなかった、明日が楽しみ、という思いで眠りについたのだった。


夜中に、ガチャリと玄関扉が静かに開く音がしたが仕事で疲れていた真紀はそのまま眠り続けたのだった。


次の日に真紀は目を覚ます。リビングに向かうと少女はいなくなっていた。あれは幻だったのだろうか。

いや、少女が眠っていた布団は、しわだっていて少女は確かにそこにいたことは感じ取れた。

布団を片付けながら、寂しさを覚えてしまう。今日も会えると期待していたのかもしれない。


本当に未来のお嫁さんだったのかも、と思ってしまう自分がいて、戸惑いながらも幸せに微笑んでしまっている。

何とはなしに、また会えると確信めいた気にもなっていて、ワクワクとした気持ちになっていた。

私は未来への楽しみを見つけたのだ。

よし、外に出よう。今日も仕事がんばろう。


私はカバンや財布を取り、外に出る。周りを見渡す。見慣れた街並みではあったが、晴れ渡っていて、いつもよりも明るく眩しかった。

駅まで歩きながら少女はいないかと見渡してしまう自分がいたが、色々な人がいると思えた。

私の中にこんな活力があったのかと驚く。

会社でいつものように仕事をし、ランチに行く。

ランチも今日はいつもと違う外に出ようと外に出る。

レストランも色々ある。

見慣れていると思ってもこんなに世界は新鮮で色鮮やかだったのだ。

真紀はぐるり見渡すと、その中で少し色あせたビルの窓に張り付けてある広告が目に入った。


「探偵業務承ります。家庭内問題、疑惑、人探しでも何でも調査します。」

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