一緒におにぎりを食べよう ~今日から始まる前世の恋~
考え事をする時に腕組みをする。
照れた時、前髪を触る。
機嫌が悪いと、何故か私を苗字で呼ぶ。
私が覚えている彼の癖だ。
「おい、斎藤!」
高校の教室。
不意に呼ばれ、私は彼の方を向いた。
「昼休みの委員会を忘れてたな。これ、配られたプリントだ」
「しまった! ありがとう。颯太君」
いつもは、皆と同じように望結と呼ぶくせに。
私は心で呟く。
「まぁ、俺も他の委員に教えてもらったんだけど」
そう言って、颯太君は前髪を触った。
颯太君は、カイだ。
癖と勘。それが根拠。
だから、違ったらと思うと怖くて言い出せない。
私は、前世も普通の日本人だった。
だけど突然、異世界に召喚された。
私を召喚したのは、カイ。
異世界の国、イリス王国の王子。
帰りたいと泣く私に彼は言った。
「この国を救う為に君の力が必要だ。君はやっと見つけた雨の巫女だ」
雨の巫女とは、雨を操る竜を呼ぶことができる存在。
何故だか雨が降らなくなった世界。
雨を降らす為にどうしても、雨の巫女の力が必要だと言う。
最後の巫女が亡くなり10年。
酷い飢えと渇きが王国を襲っていた。
人々の現状を目の当たりにした私は誓った。
この国を救おうと。
竜を呼ぶ日々が過ぎた。
竜を呼ぶには魔力がいる。
私の魔力は強く、他国の巫女よりも長く多くの雨を降らせることができた。
他国は、私を攫おうと画策した。
ある日、他国の兵士が宮殿に侵入して‥‥‥。
カイは、私を守る為に大怪我を負った。
それから、徐々に彼は弱っていった。
そんな時、私は竜に取引を持ち掛けられた。
「お前の魔力は心地良い。俺に全てくれ。その代わり願いを叶えよう。名に誓う」
魔力を別の者に移す。この世界では可能なこと。
だがそれは、与える者の死と引き換えの儀式。
私は答えた。
「では、あなたの命が続く限り、この国の王が望む時に雨を降らして」
「名に誓おう。我が名はリュカス」
神聖なものとされる名の誓い。その誓い破った時、訪れるのは死。
その時、私はカイを想った。
言葉にしたことは無い。だけど、私達の間には恋心が芽生えていたと思う。
儀式の日。
カイの命は尽きた。
「すまない。この国の為に。次は、お前の国で会いたいな。そこで、一緒におにぎりを食べよう」
彼は最期に言った。
おにぎりが食べたい。ずっと私が言っていた言葉だった。
颯太君は私の前で、腕組みをしている。
「颯太君?」
「俺の思った通りなら。‥‥‥一緒におにぎりを食べよう」
溢れそうになる涙を堪えて、私は大きく頷いた。
お読みいただきありがとうございました。