お嬢さまの身代わり④
「ここは、どこーーー!!!」
叫んだ声が響いて聞こえる。そんなことはどうでも良くて、私は今自分がどこにいるのか分からない状況。簡単に言えば、遭難したって事なんだけど。でも、一緒に居た筈の友人たちはどこ行ったんだろう?まさか、私を置いて先に行ったとか。いやいや、そしたら合流してる筈だし。
今は修学旅行の一環となっている山登りに来ていた筈。道なりに突き進んでいた筈なんだけど、何で気付いたら山の頂に瞬間移動してるの?そんな簡単に頂上登れる?てか、歩いてる間に先生にも生徒にも会えてないからね。もしかして、道間違えた?私だけ、別の山に登ってるとか?って言っても周りに見える山にも私と同じダッサイジャージ着て歩いてる人なんて居ないし。てか、山登ってる人なんて誰も居ないし!
「えええ…これって帰れないフラグとか?気付いたら異世界来ちゃったとか?」
ハハハなんて乾いた笑いが出たけど、本当にフラグ引っこ抜いたみたいで一気に不安になってきた。私以外の声が聞こえない。まだ、日は出てて明るい。よし、決めた。
「降りよう」
頂上で誰かに見つけてくれなんて思ってても誰も気付いてくれない。だったら、少しでも山を降りて誰かしらを見つけるしかないと思う…正しいなんて分からないけど。本当なら遭難したらその場を動くなって思うけど、何か本当に異世界来ちゃってたら誰も見つけてくれないだろうし、うん、動くしかない。
出発する前に少し大きめのリュックサックから水筒を取り出して乾いた喉を潤して、リュックを背負い直し、気合を入れて来た道を戻り始めたのだった。
***
「疲れた…誰にも会えない…」
結構な距離を降りてても、やっぱり生徒にも先生にも会えない。泣きそうになりながらも踏ん張って歩いて来たけど、そろそろ本当に泣けてくる。
何で誰も居ないの?動物まで見えない。いや、熊とか出ても困るから見えなくても良いけど、小動物ぐらい見たい。癒されたい。ここって動物いないとか?もう、癒しが欲しい!!
切迫した気持ちが爆発して意味不明な事を考えちゃう。もう、歩くのも疲れちゃったよ。
「……このまま、餓死して死んじゃうの?」
張っていた気が緩んだ一瞬で、恐怖が私を侵食していく。だって、私まだ14歳だもん。中学2年だよ?まだ、恋もしたことないんだもん。まだ死にたくないって思ってもいいでしょ。帰らせてよ。お母さん、勇樹や愛美にも無事に帰るって約束したんだから。興奮状態になった私はずっと帰るって連呼してた。その時の私は危険なんて二の次だった。だから、私の声に誰かが反応してもおかしくなかった。気付いた時には、私の周りには獣臭と動物の呼吸の音が満ちていた。
さっきまで明るかった空が、いつのまにか暗闇に移り変わり、私の周りは見えていない。息継ぎの音が近づいてくる度に、私の体がビクッと震え、恐怖が侵食していく。視覚では何も見えない事が余計に恐怖を煽っている。だから、目の前に金の眼が現れた瞬間、私は食べられるとか考える前に意識を手放してしまっていた。