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クリストファー・L・ウィンターソンの道のり②


 道中なにが起こるかわからないので、信用出来る御者のカーターにアシュテイル家まで迎えに行って貰うことにした。この婚姻に反対する上級階級の勢力もあるので、婚約者が乗る馬車に防御魔術を施す。

 

「彼女の目の色に合わせた部屋はなかなか良い。良くやった」

 後はカーターに全てを任せて、私はアシュテイル令嬢の泊まる部屋の内装を確認した。一通りを確認して満足げに頷く。


「これで、令嬢が気になる本が見つかればいいんだが」

 隣の談話室には、令嬢が本好きだと知って取り寄せた種類豊富な本。その中の一つでも気に入ってくれるものがあれば良いのだが。そう思っても彼女が読める本は少ないかもしれない。自国語で書かれた本に向け手をかざして呪文を唱える。スルスルと表紙の文字が動き、そしてカスティオーネ国の文字に書き換わった。簡単な夢物語の本は文字が替わったが、魔術や自国の歴史関連の本は重要機密なので自国語のまま。それでも、読める本が増えて、令嬢が喜んでくれる事を願いながら、彼女を迎える準備を始めるのだった。



* * *



「ウィンターソン王国にようこそいらっしゃいました。我が花嫁」

 手の甲にキスを落とすと、彼女が顔を真っ赤にさせる。可愛い。だが、若くないか?これで16なのか?もっと下に見えるぞ。最悪、末っ子の弟と同い年か?そう考えて背筋が冷えてしまった。

 私の周りに見せていない動揺に唯一気付いてくれた執事のアダムが私たちから少し距離を取ると、ボソッと何かを呟く。隠密行動が得意な仲間に指示を出したのだろう。報告が届くまでは、この可愛い令嬢に城を案内しよう。

 こちらに向かうと庭園があります。あちらには従業員用の住居があります。こちらから先は国王とその妃の住居となっていますので、立ち入らないように気を付けてくださいね。って説明する度に、そうなのですね。わかりました。気を付けますね。と返事を返してくれるのだが、彼女の視線は一点を見つめたまま動かなくて、ちょっと恐怖。あの手紙の令嬢がどうしてもこの子に結びつかない。まさか、身代わり…?いやいや、まさか、他国に宣戦布告は流石にしないだろう。

 そう考えている間に、アダムを視界に捉えた。立ち止まると、「情報が入りました」と耳打ちされる。その報告を聞くために、私は令嬢と離れて、先に住居がある別宮に向かった。二階に寝室があり、一階には執務室がある。それ以外にも、娯楽室や鑑賞室もあるが、今は行く理由はない。


「…本題に入ろうか」

「隠密部隊がアシュテイル家に侵入し調査をしてきました。こちらが報告書でございます」

 執務室に入り椅子に座ると机に両肘を置き両手を組む。報告を促すと、口で説明するのが(はばか)られる内容なのだと気付いて、素直に報告書を受け取ると内容を目で追いかけた。


「……私を(たばか)ったのか」

 報告書の内容は、不快な内容しか記載されていなかった。

 グシャと報告書を握りしめる。私を騙すとは、許されない。持参金を少女に使わず、自分の懐に入れたとこも、私は許せない。少女の持ち物がカバン一つだと知らされた時の私の胸中を考えてくれ。


「…王子、耳が出ています」

「……あの子は、あの男の計画を知っているのだろうか…」

「暫く騙されたフリをして、様子を伺う事を進言致します。更に、隠密を一人付けるのはどうでしょうか」

「そうしよう。その様に動いてくれ」

「畏まりました」

 アダムが白いハンカチで握り拳から流れる血を拭う。怒りに制御出来なくなっていたらしい。爪が肉厚の掌を食い込んでいた。白いハンカチが血で滲み赤くなる、そのままハンカチで掌を覆い止血してくれた。

 悩ましい吐露を聞いた執事が、提案する内容は我慢を強いるものだったが、少女が敵なのか味方なのか分からない現状なら、提案に乗った方がマシ。

 こんな気分のまま、食事会をするのも億劫に思ったが、仕方なく寝室に戻ることにする。


 寝室で待機していた侍女たちが身支度を整えてくれる。手袋をすれば、迎えに行ける状況になった時、少女の侍女が困ったように現れた。

 内容を聞くとアダムに指示をすると、そのまま談話室に向かった。


「……よく寝ている。いい夢を」

 一人掛けのソファに寄りかかったまま寝ている少女。膝の上には自国の物語風の絵本。この子も本が好きなのか。ならば、この部屋が彼女の拠り所になればいい。

 あどけない表情で眠る少女の手から絵本を抜き取ると、後ろに待機していたフラーに手渡す。そして、彼女を両手で横抱きすると、扉を開けて待機していた侍女の横を通り、少女の寝室のベットに移動させた。彼女の内情はどうか分からないが、私の婚約者となっているから私以外の男性に運ばせるのは、避けたい。

 心地よい寝息を立てる少女の額にキスを落とすと、逃げるように自室に戻ったのだった。

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