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8・髪を切ったら世界が変わった

 翌日の放課後。



「では行くとするか」



 北沢に言われ、学校終わりに俺はとあるところに連れ出されることになった。


 場所は彼女から聞いているが……正直足が重い。

 ()()は今までの俺からしたら、考えられないようなところだったからだ。


 緊張しながら北沢の後を付いていき、到着した場所は……。



「ここだ」



 とあるお店の前で立ち止まる。


 そこは……いかにもお洒落な美容室である。


「なあ北沢。本当に入るのか?」

「なにを怖じ気づいている。予約は昨日のうちにしておいたから大丈夫だぞ」

「そうじゃない。俺みたいな高校生が美容室なんか行ってもいいのか? 美容師の人にくすくす笑われないか?」

「……はあ。君ってヤツは」


 北沢はわざとらしく大きめの溜息を吐き、こう続けた。


「いいか? 君に一つだけ大切なことを言っておく」

「お、おう」

「美容師の人は君に興味はない」


 断言する北沢。


「美容師は一日に何人も相手しているのだ。もちろん一日だけではない。それが一週間……一ヵ月……一年以上続く。芸能人相手ならともかく、私達みたいな一般人など覚えていないよ」

「そ、そうなのか?」

「そういうものだ。だから胸を張って行くといい。それに……君は自分がこういう場所に似合っていないと思っているかもしれない。だから尻込みしていると。だが……」

「だが?」

「そんなことはない。君なら十分溶け込める」


 そう言って、北沢は美容室の扉を押し開いた。



「いらっしゃいませー!」



 店内に入った瞬間、大きい声で挨拶される。


 うっ、なんだ、この陽キャムードは! 

 しかし……一瞬気圧(けお)されてしまうが、不思議と帰る気にはなれなかった。


「昨日予約していた北沢と言うんですけど」

「はい。確かお二人様ですよね」


 二人?


「ああ。私もついでに髪を切ろうと思ってな」

「そういうことか」

「では……早速はじめてもらってもいいでしょうか?」

「承知いたしました!」


 俺は導かれるがまま、窓際の席に座らされる。


「今日はどういう髪型にしましょうか?」


 女の美容師の人に後ろから質問される。


「こういったところ初めてで、あんまよく分からないんですよ」

「でしたら、こちらの雑誌から好きな髪型をお選びになります?」

「いや……見てもよく分からないですし、お任せでお願いします。好きにやっちゃってください」


 こういうのはプロに全部任せた方がいいだろう。

 俺が変に口を挟むより、そっちの方が上手くいくような気がした。


「分かりました!」


 美容師は元気よく返事をして、髪を切り出した。


「それにしても……キレイな髪ですね」

「そうなんですか?」

「ええ。正直羨ましいです。それなのに……どうして今まで目が完全に隠れるまで前髪を伸ばしてたんですか? 暗く見えますし、もったいないですよ」


 俺がワカメのような髪型だったのは、これも朱里のせいである。

 鬱陶しいこの前髪を切ろうとしても、



『いいんです! ブサイクなせーんぱいは、前髪で目くらい隠してないと、外に出るのも恥ずかしですよ? 先輩はわたしの言う通りにすればいいんですー』



 と朱里に止められていたからだ。

 そのせいで好きな髪型にすることも出来なかったが、果たして、吉と出るか凶と出るか。



「できました!」



 散髪は一時間ちょっとで終了した。


「お兄さん、すっっっっごいカッコいいですよ! どうですか? 気に入りましたか?」


 前にある大きな鏡を見ると、そこにはまるで芸能人のような男がいた。


 これ……俺なのか?

 前髪も適度な長さ。横も後ろもいい感じで切り揃えられており、清潔感に満ちている。

 今までの俺が『闇』だとするなら、一気に『光』に生まれ変わったかのようだ。


「良い感じです……! ありがとうございます!」

「いえいえ! 素材がいいからですよ!」


 それにしても、この美容師はやけに俺を褒めてくれるな。

 美容師の瞳はキラキラ輝いているようにも見えた。


 さらに俺達以外で他にいたお客さんがこちらを向き、こそこそと話をしている。



「ねえ、あの人……」

「ええ。すっごいカッコいいじゃない!」

「オレもああいう髪型にしてもらおうかな〜」



 しかしどうやら悪い話ではないみたいだ。


「優、終わったか……んっっっっっ!」


 北沢の方も切り終わったようだ。

 彼女は俺の姿を見た瞬間、はっと目を大きく見開いた。


「おお。どうだ? 変じゃないか?」

「カッコいいじゃないか! まさかここまでとは思っていなかった……!」


 北沢にも好印象のようである。


「そういう北沢も可愛いぞ」

「ありがとう……! 少しだけしか切っていないがな」

「少ししか? そういう風には見えないけどな。随分変わったように思える」


 もちろん、髪を切る前の北沢も十分可愛かった。

 しかし髪を切った北沢は以前よりも明るく見えて、魅力的だった。

 正直北沢が大通りでも歩けば、十人中十人の男が振り向くだろう。


「そう言ってもらえて嬉しい。で、でも……君の方がすごい変わり映えだ。明日学校に行ったら、話題になると思うぞ」

「髪を切っただけで、そんなことにはならないと思うが……」

「そんなことはない!」


 北沢がもの凄い勢いでそう言い放った。


 まさか髪を切っただけで、これだけ世界の見え方が変わるとはな。

 彼女の言うことはさすがに大袈裟だと思うが、悪い気はしなかった。

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