41・文化祭閉幕
あれから……俺達は午後の部にも全力を尽くした。
そのおかげなのか、お客さんは午前よりも増え、店は大盛況となっていた。
そして早いもので文化祭が閉幕し、今回のMVPクラスが発表されることになった。
これは売り上げやアンケートでの人気度を集計し、今日最も輝いていたクラスを決めるものだ。
文化祭が終わった後、全校生徒が体育館に集められ、MVPの発表をまだかまだかと待っていた。
その結果……。
「MVPは……二年一組のみなさんです!」
壇上に登った視界の人が告げ、辺りは一瞬しーんと静まりかえる。
しかしやがてみんなの喜びが爆発する。
「やったぞ、優! 私達のクラスがMVPだ!」
「すっごい! まさかここまでやれるなんて!」
「頑張った甲斐がありました……!」
北沢と小鳥遊、市川が喜んでいる。もちろんクラスのみんなも両手を上げて、歓喜の輪を作っていた。
「ああ」
「優、なんだか嬉しそうじゃないな」
「嬉しそうじゃない? そういう風に見えるか」
「うん」
「そんなことはない。ただ……この結果は当たり前だと思っていたからな。どう感情表現していいか分からないだけかもしれん」
美味しいサンドイッチ、レベルの高いメイド服の女子達。
これらを組み合わせれば、俺達一組が文化祭のMVPになることは、当然予測していたことだ。
途中で邪魔も入ったが……大した問題ではなかった。
「そ、そんな……」
隣を見ると、二組の佐藤とかいうヤツが項垂れていた。
いや佐藤だけではない。二組の連中は全員落ち込んでおり、暗いムードが漂っていた。
一組とは雲泥の差である。
「ふふん。どう? 私達一組もなかなかやるもんでしょ?」
岸川が佐藤を煽る。
それに対して、佐藤はぐうの音も出ないようであった。
元々岸川が佐藤を見返すために、やり始めたことだ。
そのことでクラスが一丸となり、このような結果が生まれたといっても過言ではない。あれがなければ、無難に文化祭を楽しむ方向にシフトしていたかもしれないからな。
「ふっ……まさかお前等に負けるとはな。完敗だ」
佐藤がニヒルに笑う。
「これでもう一組の……牧田君の悪口を言わないでくれる?」
「……っ! そもそもお前が、牧田とかいう野郎のことばっかり言ってたのが悪いんだろうが……! 口を開けば『牧田君、牧田君』言いやがって。だからオレは……」
もごもごと口を動かす佐藤。
そういや、佐藤は岸川のことが好き……という疑惑が出てたんだよな。
やはり嫉妬していただけというのか。
「だけど佐藤君もよくやったと思うよ。まさかここまで食いついてくるとは思ってなかった」
実際、二組の売り上げも上々だったようだ。
一組がいなければ、MVPに選ばれていたのは間違いなく二組の連中だっただろう。
それはパティシエの息子である佐藤が、美味しいケーキを作っていたことにも一因することだ。
敗者を讃える岸川に対し、
「そ、そうか? そうだろ。オレもなかなかやるもんだろ? あのケーキには秘密があってな……隠し味に……」
となんか調子に乗りだした。
佐藤の延々と続く自慢話に、岸川はうんざりしているようであった。
「はいはい。すごいすごい」
「そうだろ! やっぱりオレはすごい!」
どう見ても岸川は適当に返しているというのに、佐藤はなにを勘違いしたというのか、
「うん……今だったら言える。本来ならMVPを取って、お前に言うつもりだったが、この際どうでもいい」
思い詰めたかのように声を絞り出した。
「なに?」
岸川が冷たい目で佐藤を見る。
それに気付いているのかいないのか、佐藤は手を差し出して、
「頼む……! オレと付き合ってくれ!」
と頭を下げた。
うわあ……これは大惨事になる予感。
周りを見ると、みんな岸川と佐藤のやり取りに興味があるのか、黙って視線を注いでいた。
「前々から好きだったんだ……! 一組の悪口を言ってたのも、もしかしたら嫉妬していたかもしれん!」
いや……そんなものはバレバレだったが。
「だから岸川、オレと付き合ってくれ! お願いしゃっす!」
頭を上げずに、手を出している佐藤。
果たして岸川はその手を取るのだろうか?
しかし意外にも……いや予想通りと言うべきか、彼女の結論はすぐに出た。
「え……無理なんですけど」
ばっさり斬ったー!
「え?」
佐藤が顔を上げる。
表情はきょとんとしていた。
「な、なんで……!?」
「いや、なんで告白が成功すると思ってんの。私の評価、あれだけ下げるに下げまくって。願い下げだわ」
「お、お前! オレのことが好きだったんじゃねえのか!?」
「だからどうしてそんな勘違いしているの!?」
おそらく、佐藤の中で妄想が広がりまくって、そんな誤解を生んでしまったのだろう。
悲惨だ。こんな大衆の前で告白して、しかもこっぴどく振られるなんて。
「でも」
岸川は続ける。
「これから、佐藤君の行動が改まったら考えてあげてもいいかも。私を振り向かせてごらんよ」
彼女は小悪魔的な笑みを浮かべた。
がっくしと肩を落とす佐藤ではあったが、岸川の表情を見るに全く脈がないわけではなさそうだ。
腐れ縁とて幼馴染。
岸川も色々と思うところがあるのだろう。
「幼馴染か……」
二人を見て、俺は朱里を思い出す。
言うなれば、あいつも佐藤と同じようなものだ。
自分の中で都合の良い妄想だけを膨らませて、あんなことを言い出した。
しかし俺と岸川は違う。
俺は金輪際、朱里と付き合うつもりなんてないからな。
あいつが変われば別かもしれないが……そう簡単に人は変わることができない。今回の件でそれを強く意識した。
「優、今から文化祭の打ち上げだぞ!」
「優ももちろん来てくれるよね?」
「牧田君には来て欲しいです……」
ひとしきり考えていると、両サイドから北沢達に腕を引っ張られた。
「もちろん行くぞ。みんなで今日の健闘を讃え合おう!」
しかし考える前に、みんなで楽しい打ち上げパーティーだ。
それが終わってから、ゆっくり考えてもいいだろう。
周りを見ると、みんなの表情は今日一番明るかった。




