表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/42

41・文化祭閉幕

 あれから……俺達は午後の部にも全力を尽くした。

 そのおかげなのか、お客さんは午前よりも増え、店は大盛況となっていた。



 そして早いもので文化祭が閉幕し、今回のMVPクラスが発表されることになった。



 これは売り上げやアンケートでの人気度を集計し、今日最も輝いていたクラスを決めるものだ。

 文化祭が終わった後、全校生徒が体育館に集められ、MVPの発表をまだかまだかと待っていた。


 その結果……。


「MVPは……二年一組のみなさんです!」


 壇上に登った視界の人が告げ、辺りは一瞬しーんと静まりかえる。

 しかしやがてみんなの喜びが爆発する。


「やったぞ、優! 私達のクラスがMVPだ!」

「すっごい! まさかここまでやれるなんて!」

「頑張った甲斐がありました……!」


 北沢と小鳥遊、市川が喜んでいる。もちろんクラスのみんなも両手を上げて、歓喜の輪を作っていた。


「ああ」

「優、なんだか嬉しそうじゃないな」

「嬉しそうじゃない? そういう風に見えるか」

「うん」

「そんなことはない。ただ……この結果は当たり前だと思っていたからな。どう感情表現していいか分からないだけかもしれん」


 美味しいサンドイッチ、レベルの高いメイド服の女子達。

 これらを組み合わせれば、俺達一組が文化祭のMVPになることは、当然予測していたことだ。


 途中で邪魔も入ったが……大した問題ではなかった。


「そ、そんな……」


 隣を見ると、二組の佐藤とかいうヤツが項垂れていた。

 いや佐藤だけではない。二組の連中は全員落ち込んでおり、暗いムードが漂っていた。

 一組とは雲泥うんでいの差である。


「ふふん。どう? 私達一組もなかなかやるもんでしょ?」


 岸川が佐藤を煽る。


 それに対して、佐藤はぐうの音も出ないようであった。


 元々岸川が佐藤を見返すために、やり始めたことだ。

 そのことでクラスが一丸となり、このような結果が生まれたといっても過言ではない。あれがなければ、無難に文化祭を楽しむ方向にシフトしていたかもしれないからな。


「ふっ……まさかお前等に負けるとはな。完敗だ」


 佐藤がニヒルに笑う。


「これでもう一組の……牧田君の悪口を言わないでくれる?」

「……っ! そもそもお前が、牧田とかいう野郎のことばっかり言ってたのが悪いんだろうが……! 口を開けば『牧田君、牧田君』言いやがって。だからオレは……」


 もごもごと口を動かす佐藤。


 そういや、佐藤は岸川のことが好き……という疑惑が出てたんだよな。

 やはり嫉妬していただけというのか。


「だけど佐藤君もよくやったと思うよ。まさかここまで食いついてくるとは思ってなかった」


 実際、二組の売り上げも上々だったようだ。

 一組がいなければ、MVPに選ばれていたのは間違いなく二組の連中だっただろう。


 それはパティシエの息子である佐藤が、美味しいケーキを作っていたことにも一因することだ。


 敗者をたたえる岸川に対し、


「そ、そうか? そうだろ。オレもなかなかやるもんだろ? あのケーキには秘密があってな……隠し味に……」


 となんか調子に乗りだした。


 佐藤の延々と続く自慢話に、岸川はうんざりしているようであった。


「はいはい。すごいすごい」

「そうだろ! やっぱりオレはすごい!」


 どう見ても岸川は適当に返しているというのに、佐藤はなにを勘違いしたというのか、


「うん……今だったら言える。本来ならMVPを取って、お前に言うつもりだったが、この際どうでもいい」


 思い詰めたかのように声を絞り出した。


「なに?」


 岸川が冷たい目で佐藤を見る。


 それに気付いているのかいないのか、佐藤は手を差し出して、



「頼む……! オレと付き合ってくれ!」



 と頭を下げた。


 うわあ……これは大惨事になる予感。


 周りを見ると、みんな岸川と佐藤のやり取りに興味があるのか、黙って視線を注いでいた。


「前々から好きだったんだ……! 一組の悪口を言ってたのも、もしかしたら嫉妬していたかもしれん!」


 いや……そんなものはバレバレだったが。


「だから岸川、オレと付き合ってくれ! お願いしゃっす!」


 頭を上げずに、手を出している佐藤。

 果たして岸川はその手を取るのだろうか?


 しかし意外にも……いや予想通りと言うべきか、彼女の結論はすぐに出た。



「え……無理なんですけど」



 ばっさり斬ったー!


「え?」


 佐藤が顔を上げる。

 表情はきょとんとしていた。


「な、なんで……!?」

「いや、なんで告白が成功すると思ってんの。私の評価、あれだけ下げるに下げまくって。願い下げだわ」

「お、お前! オレのことが好きだったんじゃねえのか!?」

「だからどうしてそんな勘違いしているの!?」


 おそらく、佐藤の中で妄想が広がりまくって、そんな誤解を生んでしまったのだろう。

 悲惨だ。こんな大衆の前で告白して、しかもこっぴどく振られるなんて。


「でも」


 岸川は続ける。


「これから、佐藤君の行動が改まったら考えてあげてもいいかも。私を振り向かせてごらんよ」


 彼女は小悪魔的な笑みを浮かべた。

 がっくしと肩を落とす佐藤ではあったが、岸川の表情を見るに全く脈がないわけではなさそうだ。


 腐れ縁とて幼馴染。

 岸川も色々と思うところがあるのだろう。


「幼馴染か……」


 二人を見て、俺は朱里を思い出す。


 言うなれば、あいつも佐藤と同じようなものだ。

 自分の中で都合の良い妄想だけを膨らませて、あんなことを言い出した。


 しかし俺と岸川は違う。

 俺は金輪際、朱里と付き合うつもりなんてないからな。

 あいつが変われば別かもしれないが……そう簡単に人は変わることができない。今回の件でそれを強く意識した。


「優、今から文化祭の打ち上げだぞ!」

「優ももちろん来てくれるよね?」

「牧田君には来て欲しいです……」


 ひとしきり考えていると、両サイドから北沢達に腕を引っ張られた。


「もちろん行くぞ。みんなで今日の健闘を讃え合おう!」


 しかし考える前に、みんなで楽しい打ち上げパーティーだ。

 それが終わってから、ゆっくり考えてもいいだろう。


 周りを見ると、みんなの表情は今日一番明るかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ