表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/42

4・他の女子と昼ご飯を食べた

「そういや……一人で食べるなんて久しぶりかもしれないな」


 購買部でパンと飲み物を買って、俺は教室に戻ろうとしていた。


「……あいつのせいで、一年の時にいた友達は離れていったし。朱里あかり以外で一緒に食べるヤツなんていないんだけどな」


 それを思うとさらにむかむかしてきた。

 まあ朱里と絶縁したおかげで、友達も徐々に戻ってくるだろう。


 そんなことを考えながら、渡り廊下を歩いている時であった。


「ん……あれは?」


 運動場。

 そこでたった一人、体操服姿で走っている女の子の姿を見つけたのだ。


「あっ……優君だ!」


 俺を見つけ、彼女がこちらに駆け寄ってくる。


「おお、小鳥遊たかなし。今日も陸上の練習か?」

「うん! 大会が近いからね。今度こそは良い結果を残したいんだー」


 と彼女はあっけらかんな笑顔で言った。


 彼女の名前は小鳥遊夏帆たかなし かほ

 北沢と同じく、俺とクラスメイトの女の子だ。

 陸上部で、一年生ながら県大会にも出場している期待のホープということも知っている。


「前は惜しかったもんな。確かもう少しで全国に行けたんだっけ?」

「そうそう! あの時ボク、悔しくて夜も八時間しか寝れなかったんだー」

「随分健康的な生活なことで」


 小鳥遊の服装は半袖半パン。

 そのせいで、ちらちら見える両足の太ももが眩しい。


「あれえ? 優はどうしたの? 二年生になってからは、あの一年生の彼女さんとご飯食べてたよね? それなのにこんなところにいるなんて……」

「やっぱり朱里は彼女と思われていたのか」

「朱里?」

「いつも俺が一緒にご飯を食べてた一年生の子だ。北沢も勘違いしていたみたいだからはっきり言うが、俺は朱里と付き合ってなんかいない」

「う、うっそだーっ!」


 小鳥遊は大きく目を見開く。


「だって帰る時もいつも一緒だったよね? ラブラブだなーって思ってたんだけど……」

「間違いだ。俺は嫌々ながらあいつと帰ってたんだよ。他のヤツと帰りたくても、朱里に邪魔された」

「そっかー……それは酷い女の子だね。ふふん、そっか。付き合ってなかったのかー」


 意味ありげな笑みを浮かべながら、小鳥遊は両手を後頭部に回した。


「なんか気になることでもあるのか?」

「な、なんでもないよっ! ボクにもチャンスがあるかなーって思って」


 チャンス? 

 北沢も似たようなこと言っていたような気がするが、なんのことだ。


「……まあいっか。それにしても小鳥遊、昼ご飯は食べたのか?」

「あっ!」


 そこで初めて気付いたように、小鳥遊は自分のお腹を押さえた。


「わ、忘れてたあ……ボク、お腹ぺこぺこだよお」

「飯を食べるのを忘れるくらい、練習に熱中していたわけか」

「うんっ。ボク、一度練習を始めたら周りが見えなくなって……」


 そういう部活に精一杯な姿も小鳥遊の魅力的なところだ。

 俺は帰宅部だからな。こうやって、一つのことに全力な小鳥遊を見ていると、ただただ眩しく感じる。


「優は……あっ、それ。焼きそばパン!」


 俺が持っていたパンに目を付け、小鳥遊が前のめりになる。


「焼きそばパン、好きなんだ」

「そうなんだ! ボクも焼きそばパン大好き−。今時焼きそばパン好きなのは『古い』って言われちゃったりするけど、やっぱりそれが一番だよね!」

「良かったら小鳥遊が食べるか? 俺は他のパンを食うし……」

「えっ! それは悪いよ!」


 顔の前でぶんぶんと手を振る小鳥遊。


「いいからいいから」

「でも……」

「じゃあ……」


 俺は焼きそばパンを手に取り、それを半分こに割った。


「ほら。これだったら罪悪感もないだろ?」


 半分こした焼きそばパンを小鳥遊に手渡す。


「いいの!?」

「ああ。遠慮するなんて小鳥遊らしくないぞ。それに飯を食わずに練習なんて、倒れちまったらどうすんだ。いいから早く食べろって」

「じゃあ遠慮なく……!」


 小鳥遊は目を輝かせて、焼きそばパンを手に取った。

 そして両手でパンをつかみ、口に入れると、


「お、美味しい!」


 大袈裟に目を大きく見開いた。


「優から貰った焼きそばパンは最高だよ! 今までで食べた中で一番美味しいかも!」

「はは。それだけ言ってもらえると、俺も嬉しいよ」


 なんかこうしていると、猫に餌付けをしている気分になるな。

 しかし焼きそばパン一個でここまで喜んでくれるなら、俺もあげた甲斐があったというものだ。


 朱里の時は強制的に取られてたからな。


 そのくせ。



『せーんぱい、焼きそばパンなんてチョイスがおっさん臭いですね。やっぱりわたしがいなきゃ、パン一つもまともに買えないくらいダメダメなんですから〜』



 と感謝の欠片も見せなかった。


 せっかくなので俺も残りの昼ご飯を食べながら、小鳥遊と楽しく談笑した。


「ごちそうさま! あざます!」

「気にするな」

「このご恩は一生忘れないんだからね!」

「それは大袈裟すぎないか!?」


 焼きそばパンを食べた小鳥遊はとても幸せそうだ。


「じゃあ俺はそろそろ行くから」

「うん! あっ、そうだ」

「なんだ?」

「明日もいーっぱい優とお話していいかな? 今まで一年生の朱里? って子が邪魔でなかなかお話できなかったし」

「もちろんだ。俺もそうしてくれると嬉しい」

「そっか……! じゃあ明日からもいーっぱい話してやるから、覚悟してろよ−!」


 つんつんと俺を突いてくる小鳥遊。


 おい止めろ。そんなことされたら勘違いするじゃないか。

 女耐性が低いため、こんなボディータッチでも惚れそうになるのだ。


 無論朱里は『女』に含まれていない。


「じゃあねー! もう一度……焼きそばパン、あざますっ!」


 振り返ると、小鳥遊は大きく手を振っていた。


 それにしてもなんだか今日は女の子によく話しかけられるな。

 小鳥遊とああやって喋ることも、朱里と絶縁していなければ無理だっただろう。


 今日はもう良いことの打ち止めかな?


 そう思ったが、全然そんなことはなかった。

「面白かった!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にあるある広告下の☆で、応援してくれると励みになります!


☆5の評価を入れていただけるように頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もっと読みたいので、毎日更新お願いします!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ