4・他の女子と昼ご飯を食べた
「そういや……一人で食べるなんて久しぶりかもしれないな」
購買部でパンと飲み物を買って、俺は教室に戻ろうとしていた。
「……あいつのせいで、一年の時にいた友達は離れていったし。朱里以外で一緒に食べるヤツなんていないんだけどな」
それを思うとさらにむかむかしてきた。
まあ朱里と絶縁したおかげで、友達も徐々に戻ってくるだろう。
そんなことを考えながら、渡り廊下を歩いている時であった。
「ん……あれは?」
運動場。
そこでたった一人、体操服姿で走っている女の子の姿を見つけたのだ。
「あっ……優君だ!」
俺を見つけ、彼女がこちらに駆け寄ってくる。
「おお、小鳥遊。今日も陸上の練習か?」
「うん! 大会が近いからね。今度こそは良い結果を残したいんだー」
と彼女はあっけらかんな笑顔で言った。
彼女の名前は小鳥遊夏帆。
北沢と同じく、俺とクラスメイトの女の子だ。
陸上部で、一年生ながら県大会にも出場している期待のホープということも知っている。
「前は惜しかったもんな。確かもう少しで全国に行けたんだっけ?」
「そうそう! あの時ボク、悔しくて夜も八時間しか寝れなかったんだー」
「随分健康的な生活なことで」
小鳥遊の服装は半袖半パン。
そのせいで、ちらちら見える両足の太ももが眩しい。
「あれえ? 優はどうしたの? 二年生になってからは、あの一年生の彼女さんとご飯食べてたよね? それなのにこんなところにいるなんて……」
「やっぱり朱里は彼女と思われていたのか」
「朱里?」
「いつも俺が一緒にご飯を食べてた一年生の子だ。北沢も勘違いしていたみたいだからはっきり言うが、俺は朱里と付き合ってなんかいない」
「う、うっそだーっ!」
小鳥遊は大きく目を見開く。
「だって帰る時もいつも一緒だったよね? ラブラブだなーって思ってたんだけど……」
「間違いだ。俺は嫌々ながらあいつと帰ってたんだよ。他のヤツと帰りたくても、朱里に邪魔された」
「そっかー……それは酷い女の子だね。ふふん、そっか。付き合ってなかったのかー」
意味ありげな笑みを浮かべながら、小鳥遊は両手を後頭部に回した。
「なんか気になることでもあるのか?」
「な、なんでもないよっ! ボクにもチャンスがあるかなーって思って」
チャンス?
北沢も似たようなこと言っていたような気がするが、なんのことだ。
「……まあいっか。それにしても小鳥遊、昼ご飯は食べたのか?」
「あっ!」
そこで初めて気付いたように、小鳥遊は自分のお腹を押さえた。
「わ、忘れてたあ……ボク、お腹ぺこぺこだよお」
「飯を食べるのを忘れるくらい、練習に熱中していたわけか」
「うんっ。ボク、一度練習を始めたら周りが見えなくなって……」
そういう部活に精一杯な姿も小鳥遊の魅力的なところだ。
俺は帰宅部だからな。こうやって、一つのことに全力な小鳥遊を見ていると、ただただ眩しく感じる。
「優は……あっ、それ。焼きそばパン!」
俺が持っていたパンに目を付け、小鳥遊が前のめりになる。
「焼きそばパン、好きなんだ」
「そうなんだ! ボクも焼きそばパン大好き−。今時焼きそばパン好きなのは『古い』って言われちゃったりするけど、やっぱりそれが一番だよね!」
「良かったら小鳥遊が食べるか? 俺は他のパンを食うし……」
「えっ! それは悪いよ!」
顔の前でぶんぶんと手を振る小鳥遊。
「いいからいいから」
「でも……」
「じゃあ……」
俺は焼きそばパンを手に取り、それを半分こに割った。
「ほら。これだったら罪悪感もないだろ?」
半分こした焼きそばパンを小鳥遊に手渡す。
「いいの!?」
「ああ。遠慮するなんて小鳥遊らしくないぞ。それに飯を食わずに練習なんて、倒れちまったらどうすんだ。いいから早く食べろって」
「じゃあ遠慮なく……!」
小鳥遊は目を輝かせて、焼きそばパンを手に取った。
そして両手でパンをつかみ、口に入れると、
「お、美味しい!」
大袈裟に目を大きく見開いた。
「優から貰った焼きそばパンは最高だよ! 今までで食べた中で一番美味しいかも!」
「はは。それだけ言ってもらえると、俺も嬉しいよ」
なんかこうしていると、猫に餌付けをしている気分になるな。
しかし焼きそばパン一個でここまで喜んでくれるなら、俺もあげた甲斐があったというものだ。
朱里の時は強制的に取られてたからな。
そのくせ。
『せーんぱい、焼きそばパンなんてチョイスがおっさん臭いですね。やっぱりわたしがいなきゃ、パン一つもまともに買えないくらいダメダメなんですから〜』
と感謝の欠片も見せなかった。
せっかくなので俺も残りの昼ご飯を食べながら、小鳥遊と楽しく談笑した。
「ごちそうさま! あざます!」
「気にするな」
「このご恩は一生忘れないんだからね!」
「それは大袈裟すぎないか!?」
焼きそばパンを食べた小鳥遊はとても幸せそうだ。
「じゃあ俺はそろそろ行くから」
「うん! あっ、そうだ」
「なんだ?」
「明日もいーっぱい優とお話していいかな? 今まで一年生の朱里? って子が邪魔でなかなかお話できなかったし」
「もちろんだ。俺もそうしてくれると嬉しい」
「そっか……! じゃあ明日からもいーっぱい話してやるから、覚悟してろよ−!」
つんつんと俺を突いてくる小鳥遊。
おい止めろ。そんなことされたら勘違いするじゃないか。
女耐性が低いため、こんなボディータッチでも惚れそうになるのだ。
無論朱里は『女』に含まれていない。
「じゃあねー! もう一度……焼きそばパン、あざますっ!」
振り返ると、小鳥遊は大きく手を振っていた。
それにしてもなんだか今日は女の子によく話しかけられるな。
小鳥遊とああやって喋ることも、朱里と絶縁していなければ無理だっただろう。
今日はもう良いことの打ち止めかな?
そう思ったが、全然そんなことはなかった。
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