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36・サンドイッチ道は長く険しい

 それから俺達とマスターによる『サンドイッチ作りの特訓』が始まったのであった。


 放課後、みんなが文化祭の準備をしているのを横目に見て、俺達は喫茶店へと向かった。


 先に言っておこう。

 俺はサンドイッチ作りを舐めていた——と。



「おい! もっと腰を入れろ!」



 スマホゲー愛好者のマスターは厨房で鬼軍曹おにぐんそうと化していた。


「くっ……こんなスパルタだったなんて……!」

「そうだよね。もっと緩い感じだと思っていたのに……」

「そこ! 私語しない!」

「「は、はい!」」


 マスターの怒声が厨房内に響き渡る。


 俺達はサンドイッチ用のパンや具材を切ったり、特製ソースを作ったりしていた。


 いつもスマホゲームをしていて、緩い雰囲気。それが俺が今までマスターに抱いていた印象だ。

 しかし厨房に立った途端、その雰囲気はがらりと変わった。


「違う違う違う! それじゃあ具材がべっちょりしてしまうぞ。新鮮なまま、お客さんの口に届けないと!」


 語気を強め、指示を飛ばしてくる。


 正直想像以上だ……少々厳しい特訓なら覚悟していたが、ここまでとは思っていなかったぞ!?


「本当にボク達、上達しているのかな?」

「さあ」


 小鳥遊の口から弱音も飛び出す。


 彼女は毎日陸上部で鍛えられているはずだ。

 それなのに今の彼女は「顧問より何倍も怖い」と喫茶店のマスターを恐れていた。

 これだけ怒られれば、小鳥遊がそう心配になるのも仕方がないだろう。


 だが。


「ガハハ! 心配すんな! 着実に上手くなってやがる!」


 マスターが快活に笑った。


「この調子だったら文化祭までに間に合いそうだ……! 心配すんじゃねえ。オレがお前達を、立派な喫茶店のマスターに育てあげてやる!」

「いや……なにもマスターになりたいわけじゃ……」

「なんか言ったか?」


 マスターに睨まれ、俺はすぐに口を閉じた。


 だが、マスターから「着実に上手くなっている」とお墨付きをもらった。

 小鳥遊は不安そうだったが、俺もサンドイッチ作りが上手くなっている……ような手応えを感じる。


 これなら二組に勝てる! ……はず。


「じゃあ、しばらく二人でよろしくやってろよ」


 その言い方だったら誤解を生むだろ。


「オレはイベント走らねえといけないからな。ちょっと裏に引っ込ませてもらう」

「こんな時にもゲームは手放さないのか……」



 ◆ ◆



『岸川:牧田君、ちょっと気になる話を聞いたんだけど……』


 サンドイッチ作りの休憩中。

 急に岸川からトークのメッセージが飛んできた。


 なにか嫌な予感。


『牧田:気になる話って?』

『岸川:隣のクラスに一年生の女の子が加入したみたい』

『牧田:はあ? クラスどころか学年も違うじゃないか』

『岸川:だね』


 まあ『別のクラスの手伝いをしてはいけない』という文言は、文化祭の規則のどこにも書かれていないと思うが。


 しかし……たとえそうだとしても、俺は俺のやるべきことを貫き通すだけだ。特に気にする必要もないだろう。


 ……ん、待てよ。

 一年生の女の子だと?


『牧田:その一年生の子の名前とかって分かるか?』

『岸川:うん』


 すぐに続けて岸川からメッセージの内容に、俺は目を疑ってしまうのであった。


『岸川:稲本朱里いなもと あかりって子』


 ……朱里。

 こんなところでも俺の邪魔をしてくるということか。


「ねえねえ、優」 


 気付いたら、小鳥遊が俺のスマホの画面を覗き込んでいた。


「その朱里って……」

「ああ。俺の幼馴染だ」


 あいつがなにを考えているか分からない。


 だが、ろくでもないことは確かだ。付き合いが長いからそれくらいは分かる。

 大方、俺の邪魔でもしたいのだろう。


「まあ、どちらにせよ俺達のやることは変わらない。俺達は俺達のやるべきことを貫き通すだけだ」

「そうだね!」


 こんなところでやることがブレて、サンドイッチ作りが中途半端になってしまうことだけ避けたかった。

 それこそ、朱里の思うつぼだ。


「よし、行こう。もう少しでサンドイッチ作りが習得できそうだからな……!」

「うん!」


 マスターのスパルタ教育によって、疲労は限界にきている。

 しかし痛む体にむち打って、俺達は再び戦場ちゅうぼうへと趨くのであった。



 ◆ ◆



 それは文化祭前日であった。



「まさかお前等がここまでやるとはな……!」



 マスターも驚いている。


 そう……!

 とうとう俺達は、マスターも納得するようなサンドイッチを作ることに成功したのであった!


「はあっ、はあっ……まさかこれだけサンドイッチというのが奥深い料理だったなんて……」

「思ってなかったよお……」


 俺も小鳥遊も肩で息をしている。


 しかし俺達はこの二週間で、サンドイッチ作りの基礎から学んだ。

 その結果、俺達の中の『サンドイッチ作りは簡単』という固定観念は崩れ去った。


 しかしもう大丈夫。

 新鮮な食材の活かし方……パンの適切な処理方法……写真映えする食材の盛りつけ方……それを俺達は短期間で身に付けたのだ。


「よし……! お前等はもう大丈夫だ」


 俺達二人の背中を、マスターは力強く叩いた。


 スマホゲームばかりしているマスターが、今となってはすごく頼もしく見えた。


「ゆけっ! サンドイッチという大海たいかいにな。しかし勘違いするんじゃねえぞ? お前等はまだスタートラインに立っただけなんだ。止まるんじゃねえぞ、まだまだサンドイッチどうは長いんだからな」

「「は、はいっ!」」


 いや……文化祭のためにサンドイッチ作りを習得したかっただけで、そのサンドイッチ道というのを上り詰める気はなかったが……。


 ようやく目標を達成した感動もあり、俺達はつい頷いてしまうのであった

新作はじめました!


「無能はいらない」と言われたから絶縁してやったけど、実は最強でした 〜四天王に育てられた俺、冒険者になる〜


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