31・ワガママすぎた幼馴染の末路
クラスのトークグループを外されてから。
朱里の人生は変わってしまった。
(いや……違うな。先輩に絶縁宣言された時からかもしれない……)
一人、机にぽつーんと座っている朱里を、クラスメイトが遠巻きから眺めている。
『ざまあみろ』
『今までワガママすぎたんだ』
『反省しろ』
……という声までは出ていないが、彼・彼女等の視線からそう言われているんじゃないかと、朱里はひしひしと感じていた。
(わたしが悪かったの……?)
すぐに首を横に振る。
いや、そんな訳あるまい。
確かに、今までちょっとワガママが過ぎたかもしれない。
しかしスクールカーストというものは、容姿で決まる部分も多い。一般的に『美少女』である朱里は少しくらい失礼な態度を取っても、クラスではなんとなく許されてきた。
しかしその不満が爆発したのだろう。
それが今の結果だ。
「知ってる? 二年生の牧田先輩のこと」
ぴくん。
近くの女子生徒が『牧田先輩』の名前を出している。
その名前にいち早く反応し、朱里は聞き耳を立てていた。
「うん、知ってるよ。二年生のカッコいい先輩だよね!」
「そうそう! 普段は帰宅部なんだけど、バスケの大会に助っ人として参加したら……バスケ部を県大会に導いたらしいよ!」
「えー! すごいじゃん! 私が知ってるのは、ひったくり犯を捕まえて新聞に載ったことくらいかな〜」
「前の中間テストでも一番だったらしいよ! なんでもできる牧田先輩……でも一年生の時は注目されてなかったって聞いた」
「マジ? 有り得なくない?」
「うーん、不思議だよね。でもそういうところがミステリアスで素敵だよね!」
先輩のことで女子達が盛り上がっている。
そんなことはわたしも分かっているっ!
そう、先輩はなんでもできる。
そのことを一番早く分かっていたのは朱里であった。
なんとも複雑な気分になりながらも、朱里は口を挟まず、女子達の会話を聞いていた。
「私……告ってみよっかな」
「えー、止めときなよ。断られるって」
「当たって砕けろだよ! 彼女がいるのかどうかも分からないけど……」
——告ってみよっかな。
今まで我慢してきたが、その言葉がダメだった。
ガタンッ!
「ちょっと!」
朱里は思い切り椅子を引き、話していた女子達に詰め寄った。
「なに言ってんの! 先輩はわたしと付き合ってるんだから!」
「え?」
女子達の目がきょとんとなる。
「知ってる? わたしと先輩って幼馴染なんだよ。中学の時から付き合ってた。それなのに横取りするなんて……許さないんだから!」
捲し立てるように言った。
言った瞬間。
浮かんできた気持ちは『快感』だ。
それで女子達は怯むと思った。
しかし逆に女子達は朱里を見て、クスクスと笑い。
「牧田先輩と朱里が付き合ってる? 嘘に決まってるでしょ。あんたと牧田先輩じゃあ釣り合わないじゃん」
「ほ、ほんとだって!」
「確かに見てくれはいいけど、そんなこと有り得ない。それともなに? 付き合ってる証拠でもあるの?」
一人の女子が手を差し出してくる。
「しょ、証拠なら……!」
……ない。
そもそも先輩とわたしは付き合っていないのだ、朱里はそう自覚する。
しかし後一歩で付き合えるはずだったんだ。先輩に女が近付いてこないよう、今まで散々邪魔をしてきた。
しかし今となっては、それも……不可能?
って、自分はなにを言っているんだ!
なに自分は諦めている!
そう自分を奮い立たせる。
「証拠なら……ない」
朱里が口にすると、女子達は「やっぱーり」と嘲笑した。
「でも!」
自分の胸を叩く朱里。
「わたしと先輩は運命の赤い糸で結ばれてるんだ。小さい頃に結婚するって約束もした! 誰にも邪魔なんてさせない! させないんだから!」
もの凄い剣幕で相手に詰め寄った。
「うわあ……必死すぎて怖い」
「いこいこ……なに言っても仕方がないよ」
そんな朱里の必死さに怯んだのか、女子達はそそくさと離れていった。
「はあっ、はあっ……」
これだけ感情を爆発させたのは久しぶりかもしれない。
そう、自分はまだ先輩のことを全然諦めていない。
「先輩……」
朱里は自分の席に戻り、バッグに付いているストラップを見た。
ヘンテコなキャラクターのストラップだ。
古ぼけたストラップ。所々塗装が剥げていた。
しかし朱里はそのストラップを大事そうに握り、もう一度先輩のことを頭に思い浮かべた。
「待っててくださいね、先輩。きっと振り向かせてあげますから」
朱里が一人呟く。
最早堕ちた彼女に近付こうとする人間は、誰一人いなかった。
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